HIV-1ゲノム産物の翻訳後修飾とその機能に関する研究

文献情報

文献番号
201124019A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV-1ゲノム産物の翻訳後修飾とその機能に関する研究
課題番号
H21-エイズ・若手-020
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
高宗 暢暁(国立大学法人 熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
2,688,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗HIV薬に対する薬剤耐性ウイルスの出現は、HIV感染症治療の長期療養が与える最大の課題の一つであり、この主要な原因はHIV-1の易変異原性の形質である。薬剤耐性ウイルス出現を出来るだけ回避しうる新しい作用機序に基づくHIV-1制御法開発は急務である。本研究では、翻訳後修飾という観点でHIVゲノム産物に着目し、HIV-1複製に必須の翻訳後修飾を探索し、その翻訳後修飾に関わる宿主因子を標的とした、薬剤耐性出現を回避しうる新しい抗HIV戦略を開拓することを目的とする。
研究方法
ウイルス性タンパク質の翻訳後修飾の解析方法の主な流れとして、HIV-1由来タンパク質発現細胞及び感染性HIV-1粒子からウイルス性タンパク質を分離し各種方法で翻訳後修飾解析等を行う。同定した翻訳後修飾のHIV-1複製における意義を明らかにするために、翻訳後修飾部位に各種変異を導入したHIV-1発現ベクターを構築し、野生株と変異株間の表現系の比較を行う。また関連する宿主因子に関する解析を行う。
結果と考察
リン酸化解析を行った結果、NefはプロテインキナーゼC(PKC)を介してリン酸化され、JR-CSF株由来のNef (NefJRCSF)では少なくとも3カ所、NL4-3株由来Nef (NefNL4-3)では少なくとも1カ所のリン酸化サイトの存在が示唆された。これらリン酸化はNefのミリストイル化依存的であった。質量分析による解析を利用してNefタンパク質におけるリン酸化部位の探索を行った結果、リン酸化と関連するアミノ酸残基の候補を2カ所特定した。この2カ所の部位のうち特にHIV間で保存されている部位についてリン酸化を受けない変異を導入したHIV-1の複製能を評価した。その結果、野生型HIV-1と比較して変異HIV-1の感染性の有意な低下が観察された。
結論
本研究でNefJR-CSFにおいてPKC依存的なリン酸化部位もしくはリン酸化と密接に関連すると考えられるアミノ酸残基を2カ所明らかにした。これらの2箇所のアミノ酸残基の内、HIVに高度に保存されているアミノ酸残基はNefによるウイルス複製増強作用の機能発現に重要であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201124019B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV-1ゲノム産物の翻訳後修飾とその機能に関する研究
課題番号
H21-エイズ・若手-020
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
高宗 暢暁(国立大学法人 熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、翻訳後修飾という観点でHIVゲノム産物に着目し、HIV-1複製に必須の翻訳後修飾を探索し、その翻訳後修飾に関わる宿主因子を標的とした、薬剤耐性出現を回避しうる新しい抗HIV戦略を開拓することを目的とする。
研究方法
HIV-1由来タンパク質発現細胞及び感染性HIV-1粒子からウイルス性タンパク質を分離し各種方法で翻訳後修飾解析等を行う。同定した翻訳後修飾のHIV-1複製における意義を明らかにする。また関連する宿主因子に関する解析を行う。
結果と考察
1) Nefのリン酸化部位の探索を行った結果、リン酸化と関連するアミノ酸残基の候補を2カ所特定した。この2カ所の部位のうち特にHIV間で保存されているアミノ酸残基は、Nefによるウイルス複製増強作用に重要であった。
2)低発現型Nefの存在を明らかにし、その特徴は少なくともプロテアソームを介したタンパク質の易分解性が関連している可能性が示唆された。NefのC末端側配列は、タンパク質の低発現化を誘導する能力を有していた。低発現型Nefの易分解性の特徴は、そのウイルスの感染性増強作用の機能と関連している可能性が示唆された。
3)ミリストイル化が行われるリボゾームへのNMT局在に重要なNMTのアミノ末端領域からなる触媒活性を有しない変異体(NMTΔC変異体)の発現は、HIV-1の産生を抑制することが明らかになった。
4) HIV-1 Gagタンパク質の中で、ウイルスコアを形成するキャプシド(p24)タンパク質は、ウイルス粒子内でそのSer16-Pro17 motifのSe16がリン酸化を受けていることが明らかになった。宿主因子peptidyl prolyl isomerase Pin1はリン酸化Ser16-Pro17 motifを認識し、ウイルスコアの脱殻 (uncoating)過程に寄与していることが明らかとなった。
結論
1) Nefにリン酸化と関連するアミノ酸残基を明らかにし、これがNefの機能発現と密接に関連することが示唆された。
2)タンパク質の易分解性によるNefの低発現性の特徴はウイルス感染性増強作用と関連する可能性が示唆された。
3) リボゾーム局在型NMTはミリストイル化を介してHIV複製と関連する可能性が示唆された。
4) ウイルスコアを形成するCAのSer16リン酸化は脱殻のステップに重要であることが明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201124019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HIVゲノム産物の翻訳後修飾解析を行い、HIV複製における意義を検討した。その結果、新規の翻訳後修飾を特定し、それがHIV複製に重要であることが明らかになった。すなわち、見いだした翻訳後修飾の阻害や翻訳後修飾に関わる複製機構の制御がHIV複製阻害に繋がると考えられる。より現実的なHIV複製阻害を可能にするために、今後も基礎的な研究を継続し、本研究を発展・展開させることが重要になる。
臨床的観点からの成果
抗HIV薬に対する薬剤耐性ウイルスの出現は、HIV感染症治療の長期療養が与える最大の課題の一つであり、この主要な原因はHIVの易変異原性の形質に基づくHIVの高度な多様性である。本研究では多様性に富むHIVにあって特に保存された翻訳後修飾の研究を行っており、このことから本研究で得られる成果は薬剤耐性出現を回避しうる新しい抗HIV戦略に繋がると考えている。
ガイドライン等の開発
本研究は、HIVゲノム産物の翻訳後修飾の解析とそのHIV複製に意義解明という基礎研究の領域であった。従って本研究期間内では、厚生労働行政に関連するガイドライン等の開発までには至らなかった。今後、本研究を発展・展開させることで厚生労働行政的な貢献ができるように鋭意取り組んでいくことが重要である。
その他行政的観点からの成果
本研究は、HIVゲノム産物の翻訳後修飾の解析とそのHIV複製に意義解明という基礎研究の領域であった。今後、本研究を発展・展開させることで厚生労働行政的な貢献ができるように鋭意取り組んでいくことが重要である。
その他のインパクト
本研究は、HIVゲノム産物の翻訳後修飾の解析とそのHIV複製に意義解明という基礎研究の領域であった。得られた成果を論文および学会発表で積極的に公表した。また関連の成果を基に特許の出願を行った。今後、本研究を発展・展開させることで厚生労働行政的な貢献ができるように鋭意取り組んでいくことが重要である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
27件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takamune N, Kuroe T, Tanada N,et al.
Suppression of human immunodeficiency virus type-1 production by coexpression of catalytic-region-deleted N-myristoyltransferase mutants
Biol. Pharm. Bull. , 33 , 2018-2023  (2010)
原著論文2
Misumi S, Inoue M, Dochi T, Takamune N,et al.
Uncoating of human immunodeficiency virus type 1 requires prolyl isomerase PIN1
J Biol Chem , 285 , 25185-25195  (2010)
原著論文3
Anraku K, Fukuda R,Takamune N,et al.
Highly sensitive analysis of the interaction between HIV-1 Gag and phosphoinositide derivatives based on surface plasmon resonance
Biochemistry , 49 , 5109-5115  (2010)
原著論文4
Endo M, Gejima S,Takamune N, et al.
Treatment of breast cancer cells with proteasome inhibitor lactacystin increases the level of sensitivity to cell death induced by Human immunodeficiency virus type 1
Biol. Pharm. Bull. , 33 , 1903-1906  (2010)
原著論文5
Takamune N, Irisaka Y,Yamamoto M,et al.
Induction of extremely low protein expression level by fusion of C-terminal region of Nef
Biotechnol. Appl. Biochem.  (2012)
原著論文6
Yamamoto M, Harada K, Shoji S, Misumi S, Takamune N
Identification of essential cis element in 5'UTR of Nef mRNA for Nef translation.
Curr HIV Res. , 12 , 213-219  (2014)
原著論文7
Dochi T, Nakano T, Inoue M, Takamune N, Shoji S, Sano K, Misumi S.
Phosphorylation of human immunodeficiency virus type 1 capsid protein at serine 16, required for peptidyl-prolyl isomerase-dependent uncoating, is mediated by virion-incorporated extracellular signal-regulated kinase 2.
J Gen Virol. , 95 , 1156-1166  (2014)
原著論文8
Harada K, Takamune N, Shoji S, Misumi S.
Clearly different mechanisms of enhancement of short-lived Nef-mediated viral infectivity between SIV and HIV-1
Virol J. , 11 , 222-  (2014)
原著論文9
Ohta H, Takamune N, Kishimoto N, Shoji S, Misumi S.
N-myristoyltransferase 1 enhances human immunodeficiency virus replication through regulation of viral RNA expression level.
Biochem Biophys Res Commun , 463 , 988-993  (2015)

公開日・更新日

公開日
2016-10-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
201124019Z