ウィリス動脈輪閉塞症

文献情報

文献番号
199700971A
報告書区分
総括
研究課題名
ウィリス動脈輪閉塞症
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
福内 靖男(慶應義塾大学)
研究分担者(所属機関)
  • 大澤真木子(東京女子医科大学)
  • 宝金清博(北海道大学)
  • 福井仁士(九州大学)
  • 池田秀敏(東北大学)
  • 吉本高志(東北大学)
  • 松島善治(東京医科歯科大学)
  • 橋本信夫(国立循環器病センター)
  • 池田栄二(慶應義塾大学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 神経・筋疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本症では約10%ではあるが、親子、兄弟、双子例などの家族内発症の報告がある。これら家族内発症例を中心にして遺伝子解析、遺伝学的検討により発症原因を追求する。また、登録患者の追跡調査、脳循環動態異常などの病態の経時的検討、治療別予後調査などにより、ウィリス動脈輪閉塞症の治療方針の確立を図る。
研究方法
(略)
結果と考察
(略)
結論
1.片頭痛発作を認めるウィリス動脈輪閉塞症の家系に注目し、CADASILやFamilial hemiplegic migraineの原因遺伝子が存在する19番染色体、19q12領域を検索した。検索の結果、ウィリス動脈輪閉塞症全体では、19q12と本症との連鎖は否定的であった。2.家族性ウィリス動脈輪閉塞症3家系を対象として連鎖解析を引き続き行った。常染色体22本すべてにつき解析し、第3、10、12、13染色体が連鎖している可能性が残り、さらに検討を加える予定である。3.本症との合併例が存在するHirschsprung病に着目し、エンドセリンB受容体の遺伝子検索を行ったが、異常は認められなかった。4.今までに行ったHLAの研究から、家族性ウィリス動脈輪閉塞症において6番染色体の遺伝子解析を行った。その結果、D6S441においては、20例の兄弟例のうち、IBD(identical by descent)=0は無く、1が12例、2が8例であり、ウィリス動脈輪閉塞症との連鎖を示すmicrosatellite-markerである可能性が示唆された。5.ウィリス動脈輪閉塞症患者の新規登録と登録患者の追跡調査を行った。新規患者54名(確診例50名,疑診例4名)を加え、登録患者合計1,004名(確診935名、疑診69名)になった。男女比は1:1.8であった。確診例のうち、1年以上追跡が可能であったのは309名で、平均追跡期間は6.8 ± 4.6年であった。本年度1年間の再発例は44名で、14.2%であった。内訳は、出血2名、けいれん2名、TIA30名、梗塞3名、その他7名であった。初回発作型別に比較すると、虚血型は出血型に比し有意に若年で発症し、高率に外科的治療を受け、予後は良好であったが、再発回数が多かった。虚血発症型の再発回数は、初発年齢が低いほど、追跡年数が長いほど、初発が梗塞よりもTIAの場合ほど、多かった。一方、虚血型の予後は初発年齢が高いほど、再発が多いほど、初発がTIAよりも梗塞の場合ほど、悪かった。6.ウィリス動脈輪閉塞症と甲状腺機能亢進症との合併について検討した。本症の5.6%という高率に甲状腺機能亢進症を認めた。7.直接、間接血行再建後の血管造影所見の変化について検討した。その結果、もやもや血管は小児例ではほぼ全例で減少し、成人例でも約半数の症例で減少した。間接血行再建術後に発達する動脈は、深側頭動脈、中硬膜動脈が多く、浅側頭動脈からの間接的血管新生は少なかった。これらのことから、間接的血行再建術では深側頭動脈・中硬膜動脈の温存が重要であることが明らかとなった。8.小児ウィリス動脈輪閉塞症38症例の経年的な知的予後について検討した。その結果、知能は経年的に明らかに低下することが明らかになった。また、手術例では術前後で知能に明らかな変化はみられなかった。9.本症に対する安全な麻酔法を確立するために、血行再建術に際して、静脈麻酔薬プロポフォールを用いた完全静脈麻酔と笑気・イソフルレンによる吸入麻酔を行い、脳表血流、頚静脈球酸素飽和度、脳酸素飽和度を測定した。吸入麻酔では脳表血流が低下し、頚静脈球酸素飽和度が上昇する場合が認められた。このことから、吸収麻酔では盗血現象が起こり虚血合併症を誘発する可能性があり、完全静脈麻酔の方が適していると結論した。10.本症における血行再建術の脳出血予防効果を明らかにするために、脳出血の原因の1つである末梢性脳動脈瘤の切除標本2例の病理学的検討を行った。病理学的には、2例とも仮性動脈瘤であったことから、出血源である場合には仮性動脈瘤であっても再出血の可能性が高く、直達手術の適応であると考えられた。11.間接的血行再建術の適応を臨床症状から判断する方法を検討した。その結果、ウィリス動脈輪閉塞症全体では、標準的EDASで約70%に良好な血管新生が得られることが判明した。特に、8歳以上で発症した症例では、ほぼ全例に良好な血管新生が認め
られた。逆に、発症後9.5年以上経過した症例、知能が極端に悪い症例、虚血発作が見られない症例、5歳以下の発症で高度の固定神経症状のある側、知能が100以上で頭痛のみの症例では血管新生が得られず、手術の適応はないと結論した。12.過換気後の脳血流の変化を検討した。ウィリス動脈輪閉塞症では、過換気中よりも過換気後に血流量が低下する領域が存在し、CO2負荷、ダイアモックス負荷と同様の変化を示した。脳波でのre-build upとの関連で興味がもたれる。13.ウィリス動脈輪閉塞症の脳循環動態を検討するため、EPIによるperfusion imageを用いて、脳血流量(CBF)と脳血液量(CBV)の定量化を試みた。若年者では、皮質と白質のCBVは3~5ml/100gおよび1~2ml/100gで、CBFは60~70ml/100g/minおよび25~30ml/100g/minと、PETで報告されているものに近い値が得られた。一方、高齢者では、平均通過時間が極めて長く、絶対値の計算が困難であった。したがって、本法は心拍出量の低下がない若年者、すなわちウィリス動脈輪閉塞症の脳循環動態測定に適していると考えられた。14.ウィリス動脈輪閉塞症の原因は未だ明らかになっていないが、原因遺伝子解析プロジェクトで成果があがり始めており、さらに検討を進める予定である。

公開日・更新日

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