HIV感染病態に関わる宿主因子および免疫応答の解明

文献情報

文献番号
201124009A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染病態に関わる宿主因子および免疫応答の解明
課題番号
H21-エイズ・一般-009
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
横田 恭子(国立感染症研究所 免疫部)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 勇悦(琉球大学大学院医学研究科)
  • 宮澤 正顯(近畿大学医学部)
  • 神奈木 真理(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
  • 有吉 紅也(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 石坂 幸人(国立国際医療センター研究所 難治性疾患研究部)
  • 徳永 研三(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 立川 愛(東京大学医科学研究所)
  • 小柳 義夫(京都大学ウイルス研究所)
  • 上野 貴将(熊本大学エイズ学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
31,968,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
制御不能なHIV増殖と潜伏感染リザーバーの存在はエイズ病態形成の主たる要因である。本研究班では、ウイルス制御に関わる宿主因子の同定とその作用機構の解明、HIV感染後の病態形成に重要な役割を果たす多様な抗HIV免疫応答の解析を2本の柱とし、宿主因子を利用したウイルス増殖制御と有効な抗HIV免疫応答誘導による感染拡大・潜伏化の阻止をめざす。
研究方法
1)HIVがコードするVpu, Vpx, Vprを培養細胞に発現させ、これらと相互作用する宿主タンパクを蛋白生化学、分子生物学的手法にもとづいてin vitro解析した。2)ヒト臍帯血造血幹細胞移入したヒト化マウスモデルを用い、HIV増殖にかかわるvpuの機能、CCR5あるいはCXCR4を補助受容体とするR5型あるいはX4型HIV-1の感染様式について解析した。3)麻疹外被レンチウイルスベクター(MV Lenti)やOX40Lシグナルを介したウイルス制御手法について検討した。4)イタリアやタイのコホートにおいて暴露非感染者や長期未発症者のゲノム情報およびHIV Gagのゲノム情報を蓄積し、エイズ病態進行との関係を解析した。5)慢性HIV感染者におけるT細胞機能障害やCTL機能、調節性T細胞による免疫調節システムについて解析した。
結果と考察
1)Vpuの抗BST-2機能補助因子やVpxの標的タンパク候補、Vprのintegrase非依存的なプロウイルスDNA挿入頻度に関与するトポイソメラーゼIを同定した。これらは新たな治療標的となりうる。2)ヒト化マウスモデルにより、生体内でVpuとBST2分子の拮抗を明らかにし、CCR5を受容体とするHIVのCXCR4+CCR5+CD4+記憶T細胞への優位な感染成立を再現することができた。3)R5型 HIV-1の感染増殖抑制効果を有するOX40/OX40L系刺激抗体やSLAMを標的とするMV Lentiの系の治療応用への可能性が開けた。4)イタリアとタイのコホート研究により、病態に関わるRac2やHLA等の宿主遺伝的要因とウイルス増殖制御機構を明らかにし、CTLのエピトープ予測が容易となった。5)慢性HIV感染者におけるT細胞機能低下の機構、CTLエピトープの交差性、regulatory T細胞の動態等、エイズ病態を左右する重要な因子や今後の治療法開発に有用な知見が蓄積された。
結論
ウイルスと相互作用する細胞因子や宿主の免疫機構の解析から、新たな細胞タンパクがいくつか同定され、免疫制御を乱すR5型HIV-1感染の病態形成における役割、その抑制のための手法の開発に向けての重要な知見が蓄積された。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201124009B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV感染病態に関わる宿主因子および免疫応答の解明
課題番号
H21-エイズ・一般-009
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
横田 恭子(国立感染症研究所 免疫部)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 勇悦(琉球大学大学院医学研究科)
  • 宮澤 正顯(近畿大学医学部)
  • 神奈木 真理(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
  • 有吉 紅也(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 石坂 幸人(国立国際医療センター研究所 難治性疾患研究部)
  • 徳永 研三(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 立川 愛(東京大学医科学研究所)
  • 小柳 義夫(京都大学ウイルス研究所)
  • 上野 貴将(熊本大学エイズ学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班では、ウイルス制御に関わる宿主因子の同定とその作用機構の解明、HIV感染後の病態形成に重要な役割を果たす多様な抗HIV免疫応答の解析を2本の柱とし、宿主因子を利用したウイルス増殖制御と有効な抗HIV免疫応答誘導による感染拡大・潜伏化の阻止をめざす。
研究方法
HIVがコードするVpu, Vpx, Vprを培養細胞に発現させ、これらと相互作用する宿主タンパクを蛋白生化学、分子生物学的解析を行った。ヒト臍帯血造血幹細胞移入したヒト化マウスモデルを確立し、HIV増殖にかかわるVifやVpuの機能、CCR5あるいはCXCR4を補助受容体とするR5型あるいはX4型HIV-1の感染様式について解析した。SLAM標的麻疹外被レンチウイルスベクター(MV Lenti)やOX40Lシグナルを介したウイルス制御手法を検討した。イタリアやタイのコホートにおいて暴露非感染者や長期未発症者のゲノム情報およびHIV Gagのゲノム情報を蓄積し、エイズ病態進行との関係を解析した。慢性HIV感染者におけるT細胞機能障害やCTL機能、調節性T細胞による免疫調節システムの構築と解析を行った。
結果と考察
Vpuの局在とBST-2分解補助因子、Vpxの標的となりうる新規DCタンパク、DNA損傷を誘導するVprによるintegrase非依存的なDNA挿入とトポイソメラーゼIの機能が明らかになった。ヒト化マウスのHIV-1感染モデルを用い、VifやVpuと宿主タンパクの生体内相互作用、X4型とR5型HIV-1同時感染における記憶T細胞へのR5型優位な感染が実証された。SLAMを標的とするMV LentiによるDC-T細胞への感染伝播抑制やOX40/40L系シグナル増強によるHIV感染増殖抑制効果は、iTregの役割解明も含めて今後ヒト化マウスモデルでの評価が重要となる。コホート研究では、Rac2遺伝子の機能と進化生物学的解析、蓄積されたHLAとGagアミノ酸変異情報を活用したCTLエピトープ予測プログラムにより、アジア人独特の遺伝的背景に基づく病態理解が容易となった。また、病態進行の早い日本人慢性HIV感染者のT細胞活性化・疲弊状態と関連するIL-2の発現低下、HIV特異的CTLのT細胞受容体分子の構造と機能、インフルエンザウイルスエピトープとの交差反応性が明らかになり、遺伝的因子のみならず個体が経験した免疫学的背景の影響が示唆された。
結論
病態に関わる様々な研究対象をそれぞれ独自の手法で解析した結果、治療法開発に向けて今後の研究の基盤となりうるいくつかの新しい重要な知見が蓄積された。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201124009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HIV増殖制御に関わる新規宿主因子の同定とウイルス蛋白との相互作用やエイズ病態形成の鍵となるR5型HIV-1の静止期記憶細胞への選択的感染のヒト化マウスモデルにおける検証、自然抵抗性を賦与するRac2高発現誘導機構や長期未発症に関与するアジア人独特のHLA型の発見、T細胞活性化や調節性T細胞によるHIV増殖調節の免疫機構等、ウイルス増殖を制御する新規治療法の開発につながる基盤的知見が多く蓄積された。これらの成果は国際的シンポジウムで討議され、世界的評価の高い国際雑誌に発表された。
臨床的観点からの成果
本研究の成果は日常の診療や診断に即座に役立つものではないが、長期治療の間に発生する慢性的免疫不全状態とHIV感染やそれに伴う日和見感染病原体増殖の免疫機構を理解する上での有益な情報を数多く提供する。即ち、これらの情報は、診療医が実際の臨床現場において感染者の病態を的確に診断し、その治療方針を決定する上での科学的根拠となりうるものである。
ガイドライン等の開発
基礎医学研究としての成果は即座にガイドライン等の開発に寄与するものではない。
その他行政的観点からの成果
エイズの感染拡大は、感染層が若い世代であることからわが国のみならず国際的にも大きな社会問題である。本基礎研究班で明らかとなった宿主因子やウイルス感染増殖制御のための免疫学的手法は、将来の感染予防ワクチン開発の一助となり、HIV感染者の病態を左右する免疫関連因子やCTLエピトープと交差反応性の解明は、治療法開発のための重要な基盤となる。このような基礎研究の積み重ねによってもたらされる成果は、エイズウイルスの蔓延をくい止める新たな方策の発見にも繋がり、わが国の保険医療行政上大きく貢献する。
その他のインパクト
主要な国際雑誌での成果報告のみならず、米国、ドイツ、英国等で開催された国際シンポジウムでの発表や討議を介して世界のHIV研究者と最新の情報を共有し、本研究に役立てることができた。更に、本基礎医学研究の成果を医療現場で役立てるため、多方面にわたる分野の研究者との共同研究もいくつか開始されたことは、将来的にインパクトのある成果を達成するために役立つと期待される。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
65件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
142件
学会発表(国際学会等)
50件
その他成果(特許の出願)
1件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
1件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
ヒト免疫不全ウイルス感染阻害物質
詳細情報
分類:
発明者名: 田中勇悦
権利者名: 琉球大学
特許の名称
新規核移行ペプチド
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2008/054563
発明者名: 石坂幸人、長谷川正勝、野原聡
権利者名: 国立国際医療研究センター総長
取得年月日: 20090908
国内外の別: 欧州での特許承認

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamamoto, T., Samri, A., Marcelin, A., et al.
Effect of lentivirus encoding HIV-1 Nef-U3 shRNA on the function of HIV-specific memory CD4+ T cells in patients with chronic HIV-1 infection.
AIDS , 23 , 2265-2275  (2009)
原著論文2
Yamamoto, T., Tsunetsugu-Yokota, Y., Mitsuki, Y-Y., et al.
Selective transmission of R5 HIV-1 over X4 HIV-1 at the dendritic cell–T cell infectious synapse is determined by the T cell activation state.
PLoS Pathogen , 5 (1) , e1000279-  (2009)
原著論文3
Iwabu, Y., Fujita, H., Kinomoto, M., et al.
HIV-1 accessory protein Vpu internalizes cell-surface BST-2/tetherin through transmembrane interactions leading to lysosomes.
J. Biol. Chem. , 284 (50) , 35060-35072  (2009)
原著論文4
Nie, C., Sato, K., Misawa, N., et al.
Selective infection of CD4+ effector memory T lymphocytes leads to preferential depletion of memory T lymphocytes in R5 HIV-1-infected humanized NOD/SCID/IL2Rγnull mice.
Virology , 394 , 64-72  (2009)
原著論文5
Miyazawa M., L. Lopalco, F. Mazzotta, et al.
The ‘immunologic advantage" of HIV-exposed seronegative individuals.
AIDS , 23 , 161-175  (2009)
原著論文6
Iwabu, Y., Kinomoto, M., Tatsumi, M., et al.
Differential anti-APOBEC3G activity of HIV-1 Vif proteins derived from different subtypes.
J. Biol. Chem. , 285 (46) , 35350-35358  (2010)
原著論文7
Hoshino, S., Konishi, M., Mori, M., et al.
HIV-1 Vpr induces TLR4/MyD88- mediated IL-6 production and reactivates viral production from latency.
J Leukoc. Biol. , 87 , 1133-1143  (2010)
原著論文8
Sato, K., Nie, C., Misawa, N., et al.
Dynamics of memory and naive CD8+ T lymphocytes in humanized NOD/SCID/IL-2Rnull mice infected with CCR5-tropic HIV-1.
Vaccine , 28 , 32-37  (2010)
原著論文9
Sato, K., Izumi, T., Misawa, N., et al.
Remarkable lethal G-to-A mutations in vif-proficient HIV-1 provirus by individual APOBEC3 proteins in humanized mice.
J. Virol. , 84 (18) , 9546-9556  (2010)
原著論文10
Tanaka, R., Takahashi, Y., Kodama, A., et al.
Suppression of CCR5-tropic HIV type 1 infection by OX40 stimulation via enhanced production of β-chemokines.
AIDS Res. Hum. Retroviruses , 26 (10) , 1147-1154  (2010)
原著論文11
Ahmed, N., Hayashi, T., Hasegawa, A., et al.
Suppression of human immunodeficiency virus type 1 replication in macrophages by commensal bacteria preferentially stimulating Toll-like receptor4
J Gen Virol. , 91 , 2804-2813  (2010)
原著論文12
Gesprasert G., Wichukchinda N., Mori M., et al.
HLA-associated immune pressure on Gag protein in CRF01_AE-infected individuals and its association with plasma viral load.
PLoS One , 5 (6) , 11179-  (2010)
原著論文13
Fujii, H., Ato, M., Takahashi, Y., et al.
HIV-1 Nef impairs multiple T-cell functions in antigen- specific immune response in mice.
Int. Immunol. , 23 (7) , 433-441  (2011)
原著論文14
Kobayashi, T., Ode, H., Yoshida, T., et al.
Identification of amino acids in the human tetherin transmembrane domain responsible for HIV-1 Vpu interaction and susceptibility.
J. Virol. , 85 (2) , 932-945  (2011)
原著論文15
Sironi, M., F. R. Guerini, C. Agliardi, et al.
An evolutionary analysis of RAC2 identifies haplotypes associated with human autoimmune diseases.
Mol. Biol. Evol. , 28 (12) , 3319-3329  (2011)
原著論文16
Nakayama K., Nakamura H., Koga M., et al.
Imbalanced Production of Cytokines by T Cells Associates with the Activation/Exhaustion Status of Memory T Cells in Chronic HIV Type 1 Infection.
AIDS Res. Hum. Retroviruses , 27 (7)  (2011)
原著論文17
Mori M., Sriwanthana B., Wichukchinda N., et al.
Unique CRF01_AE Gag CTL Epitopes Associated with Lower HIV-Viral Load and Delayed Disease Progression in a Cohort of HIV-Infected Thais.
PLoS One , 6 (8) , 22680-  (2011)
原著論文18
P. Mwimanzi, Z. Hasan, R. Hassan, et al.
Effects of naturally-arising HIV Nef mutations on cytotoxic T lymphocyte recognition and Nef’s functionality in primary macrophages
Retrovirology , 8 (50)  (2011)
原著論文19
Adachi T., Tanaka R., Kodama A., et al.
Identification of an unique CXCR4 epitope whose ligation inhibits infection by both CXCR4 and CCR5 tropic human immunodeficiency type-I viruses.
Retrovirology , 8 (84)  (2011)
原著論文20
Terahara, K., Yamamoto, T., Mitsuki, Y-y., et al.
Fluorescent reporter signals, EGFP, and DsRed, encoded in HIV-1 facilitate the detection of productively infected cells and cell-associated viral replication levels.
Front. Microbiol. , 2 (280) , 1-11  (2012)

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
2016-10-03

収支報告書

文献番号
201124009Z