神経変性疾患

文献情報

文献番号
199700968A
報告書区分
総括
研究課題名
神経変性疾患
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
田代 邦雄(北海道大学医学部神経内科)
研究分担者(所属機関)
  • 進藤政臣(信州大学医学部第三内科)
  • 中村重信(広島大学医学部第三内科)
  • 永津俊治(藤田保健衛生大学総合医科学研究所)
  • 水野美邦(順天堂大学医学部神経学)
  • 中野今治(自治医科大学神経内科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 神経・筋疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の対象疾患は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性進行性筋萎縮症、球脊髄性筋萎縮症、脊髄空洞症、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、進行性核上性麻痺、線条体黒質変性症、ペルオキシソーム病、ライソソーム病の10疾患であるが、本研究班の主要疾患としてのALS、PDおよびその関連疾患を中心に基礎的、臨床的研究を発展させ、これら難病の治療法の開発も視野に入れた調査研究を行うことを目的とする。
研究方法
1997年9月5日にワークショップを開催し、疫学、生化学、治療面から、紀伊半島のALSの疫学像の変遷、PDおよび関連疾患に関する新しい生化学的知見、ALSの治療評価法が発表された。また、神経変性疾患の研究の今後の新しい方向性を求めて、magnetic resonance axonographyの原理と臨床応用、アジアおよび欧米のPD研究の現況、ALS WFN subcommitteeおよびinternational symposium on ALS/MNDの活動についても紹介があり、神経変性疾患に関する共同研究体制が討論された。研究報告会(班会議)は1998年2月6~7日に行われ、ALS関連、PD関連の57題の研究成果が発表された。
結果と考察
神経変性疾患関連、ALS関連、脊髄性進行性筋萎縮症・球脊髄性筋萎縮症、PD関連、進行性核上性麻痺・その他に分け、分野別の結果とその考察を行った。
1. 神経変性疾患関連
神経変性疾患の分子病態および治療法を解明するため、アルツハイマー病における神経脱落の分子機構を検討し、Gβ、γ異存性神経細胞死が提唱された。また、神経変性疾患病巣部の酸化的変化より酸化または変異蛋白の易凝集性と除去機構とのアンバランスによる可能性が示唆された。
2. ALS関連
1) 基礎=ALS脊髄におけるグルタミン酸受容体、特にAMPA/KA受容体を解析した神経細胞死関連研究、heavy neurofilament subunitの研究、multifocal motor neuropathyなどで高値を示す抗GM1抗体の病態機序が検討された。
2) 遺伝子=分子インデックス法による遺伝子発現プロファイリング、家族性ALS関連変異Cu/Zn SOD蛋白の培養細胞発現系で細胞質内にaggregatesを形成し細胞障害に関連する可能性、また、本邦家系で7つの異なった異常が見い出されたCu/Zn SOD遺伝子変異と臨床的特徴との関連性、紀伊半島のALS/パーキンソニズム痴呆複合でのApoEおよびCYP2D6遺伝子多型の比較検討がなされた。
3) 病理=中枢神経系に神経原線維変化が多発する神経病理学的特徴を有するALS/パーキンソニズム痴呆症例の三重県内の地理的分布、ALS脊髄前角細胞およびBetz細胞でのゴルジ装置の免疫組織、また、ALS剖検例における神経根の病理学的検討が報告された。
4) 生理=ALSとPDの血圧・心拍の日内変動を中心とした自律神経機能の検討、頭部磁気刺激によって脊髄前角運動ニューロンで生じるEPSPに関する研究、 また、経頭蓋的磁気刺激によるALSの上位運動ニューロン障害の経時的評価が発表された。 
5) 臨床、治療=Axotomyによって生じる運動ニューロン死に対するSR57746Aの有効性、ALSに対するメチルコバラミンの超大量治療、また、ALS、PDなどの患者の心理状態の解析が報告された。
3. 脊髄性進行性筋萎縮症、球脊髄性筋萎縮症
1) 遺伝子・病理・治療=沖縄県に多発する沖縄型神経原性筋萎縮症の疾患遺伝子座が3q13.1領域の3cMに存在すること、球脊髄性筋萎縮症の異常アンドロゲン受容体の免疫染色による研究、同疾患に対する男性ホルモン製剤であるfluoxymesteroneによる治療的試みが報告された。
4. PD関連
1) 基礎・病因=培養ラット中脳ニューロンにおけるTNF-ceramde pathwayの作用、培養中脳ニューロンでglycationの中間産物である3-deoxyglucosoneおよびmethylglyoxal のneurotoxicity、8-oxo-dGTPaseの蛋白発現と細胞局在、また、ドーパミンニューロン神経細胞死に関連するbcl-2とsoluble Fasの変化が報告された。
2) 病因・疫学=ALS、PDとボルナ病ウイルス感染との関連性、 特定疾患PD申請者の患者調査、PDとALSの神経変性疾患の生命予後に関するプロジェクト研究が提案された。
3) 遺伝子=MPP+によるPDの神経細胞死に関わるBcl-2ファミリーの変化の解析、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素の遺伝子多型性とPDとの関連、 相模原市大沼地区の常染色体優性遺伝形式をとる家族性パーキンソニズムにおける第5染色体短腕5p15.3領域のハプロタイプ解析、パーキンソニズムとCharcot-Marie-Tooth病類似の下肢筋萎縮を呈した一家系の臨床と分子遺伝学的解析、また、第6番染色体長腕の領域に原因遺伝子座があると考えられる常染色体劣性若年性パーキンソニズム14家系の遺伝子解析が発表された。
4) 病理=常染色体優性遺伝形式を示し、顕著なジストニアとパーキンソニズムを呈した若年性パーキンソニズムの1剖検所見、PDの大脳皮質の病理所見、実験的サルMPTPパーキンソニズムの大脳皮質第?・?層の病理変化、常染色体優性遺伝形式を呈するPDでのアミロイド蛋白前駆体免疫染色、 MPTP処理PDモデルサルとPD患者脳におけるGDNFの分布を検討、およびGDNF遺伝子を組み込んだAAVベクターの培養細胞への遺伝子導入研究が報告された。
5) 薬理・病態=MPTP処理マウスでのドパミンアゴニストがL-dopaによるTH陽性細胞障害を軽減すること、髄液中のNO代謝産物の測定、COMT遺伝子多型性にみられるVV型とMM型とL-dopa治療との関連性、パーキンソニズムにおける視床下核、サルPDモデルにおける視床下核の高頻度電気刺激研究が報告された。
6) 治療=PDに対するposteroventral pallidotomyの効果と長期予後、日本脳炎ウイルス感染ラットPDモデルでTRH-SRの有効性、ラットでの6-hydroxydopamineによるドパミン神経障害でcyclospolin Aをはじめとするimmunophilin結合薬剤の神経保護作用、末期パーキンソニズム患者でのバルプロ酸の効果が発表された。
7) 臨床=自律神経不全を伴うPDでの大脳皮質の潜在的な異常、PDの認知速度、日常記憶能力に関する研究がなされた。
5. 進行性核上性麻痺・その他
進行性核上性麻痺での黄斑部機能異常、髄液中タウ蛋白測定、PD、ALSと多系統萎縮症との比較検討、山陰地方と瀬戸内地方のハンチントン病有病者の創始者効果が発表された。
結論
本研究班は最も歴史のある厚生省調査研究班であり、その伝統である班員の自由な発想のもとに研究が進められ、横断的なつながりがみられるテーマでの共同研究、研究協力の推進も盛んである。最終年度に向けて各個研究の発展に期待するとともに、課題を定め集中的研究により、何が達成できたのかという問いに答えられるように推進する。

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