運動失調症

文献情報

文献番号
199700967A
報告書区分
総括
研究課題名
運動失調症
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
金澤 一郎(東京大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木秀直(北海道大学医学部)
  • 真野行生(北海道大学医学部)
  • 田中一(新潟大学脳研究所)
  • 服部孝道(千葉大学医学部)
  • 柳澤信夫(国立中部病院)
  • 水澤英洋(東京医科歯科大学医学部)
  • 宇川義一(東京大学医学部附属病院)
  • 長谷川一子(北里大学東病院)
  • 湯浅龍彦(国立精神・神経センター国府台病院)
  • 神田武政(東京都立神経病院)
  • 岩田誠(東京女子医科大学)
  • 山田正夫(国立小児病院)
  • 黒岩義之(横浜市立大学医学部)
  • 岩淵潔(神奈川県総合リハビリテーションセンター)
  • 加知輝彦(国立中部病院)
  • 安田武彦(国立療養所東名古屋病院)
  • 柳本真市(奈良県立奈良病院)
  • 中島健二(鳥取大学医学部)
  • 酒井徹雄(国立療養所筑後病院)
  • 有村公良(鹿児島大学医学部)
  • 滝山嘉久(自治医科大学)
  • 天野殖(滋賀医科大学)
  • 垣塚彰(大阪バイオサイエンス研究所)
  • 田邊勉(東京医科歯科大学医学部)
  • 阿部訓也(熊本大学医学部)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 神経・筋疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
運動失調症調査研究班の対象疾患は昭和50年に本班の前身が発足して以来6年間(祖父江逸郎班長)は脊髄小脳変性症のみであったが、その後の6年間(飯塚礼二班長)は二次性の運動失調も含めた運動失調症全体となった。次の5年間は(平山恵造班長)は主たる対象は脊髄小脳変性症に戻すと同時に広義の脊髄小脳変性症に含められるシャイ・ドレーガー症候群をも取り込み、それに関連して自律神経症状についても積極的に本班の対象症候とした。その次の班の第1期4年間(班長金澤)も、前班の方針を継承したが最近の医学の進歩に対応して、遺伝性脊髄小脳変性症の遺伝子解析に力を注いだ。平成9年度は新制班の2年目に当たり、目標の第一にこの遺伝性脊髄小脳変性症の遺伝子同定とその病態解析を挙げた。さらに、脊髄小脳変性症の治療について現在では小脳性運動失調に対するTRHの注射治療があるのみであることに鑑み、新しいアイディアや経験による治療法の発見を第二の目標にした。その他本班の伝統である小脳を中心とた、生物学的基礎研究、小脳性運動失調にかかわる臨床生理学的研究を推進することを第三の目標とした。
研究方法
結果と考察
研究成果=平成9年度の研究成果
遺伝性脊髄小脳変性症の遺伝子解析:遺伝性脊髄小脳変性症には、常染色体優性遺伝する遺伝性OPCA(SCA1及びSCA2)、遺伝性CCA、マシャド・ジョセフ病(MJD)及び歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)、さらに常染色体劣性遺伝するフリードライヒ失調症などがある。我が国の研究者によってMJD及びDRPLAの遺伝子座を確定しその遺伝子を同定した。昨年度までに、SCA1、SCA2、MJD、DRPLAの4病型の遺伝子が確定したが、これらすべて遺伝子内のCAGリピートの異常伸長が、その本質であった。従ってPCRにより診断ができるようになった。こうした進歩を受けて平成9年度には、いくつかの重要な発展があった。まず、従来からCAGリピートの異常伸長によることが推定されながらも遺伝子そのものは同定されていなかったCCAについて、我が班員によってその大半の症例が極く最近遺伝子が同定されたSCA6であることが確定的になった。SCA6はカルシウムチャンネル1Aα遺伝子のC端に近い領域に正常存在でも存在する短いCAGリピート(4~16)がわずかであるが確実にその数が増加する(21~27)ことにより発病するとされた。この状態はCAGリピート病ではありながら、リピート数の伸長の度合いが著しく少なく、従来のそれとは趣を異にしている。一方、我が班ではCCAの遺伝子同定に向けて連鎖研究を進めており、その座が第19染色体短腕にあることをつきとめたが、カルシウムチャンネル遺伝子の座がまさにそこであった。そこで、すでに収集してあったCCA症例のDNAを用いて検索した結果我が国で最も多い遺伝性脊髄小脳変性症がこのSCA6のサブタイプであることを明らかにした。臨床的には、発病年齢がやや高いこと、経過が著しく長いこと、小脳性運動失調以外の神経症状が殆どないこと、などを特徴とし、病理学的には小脳のプルキンエ細胞を中心とした小脳皮質変性を特徴とする比較的単純な変化を示すものである。一方、昨年度までの班員の研究によりその他のCAGリピート病であることが判明したMJDについて、ポリグルタミン鎖が長くなるにつれて培養細胞死が誘導されることが明らかになった。さらに、この遺伝子のコンストラクトの作成に成功し、蛋白を大量に精製することが可能になった。臨床的には、 MJDの臨床像とCAGリピート数との関係を調べた結果によると、本症の小脳・脳幹の萎縮の程度はCAGリピート数と強く正相関しており、しかも萎縮の程度を年齢と関連させた時にその相関は明らかであったので、本症はおそらく生直後から萎縮は始まっているであろうことが示唆された。もう一つのCAGリピート病であるDRPLAについては、単一精子におけるCAGリピート数の解析を行い、著しい不安定性を確認し、臨床との相関を証明した。さらにCAGリピート数78をもつ異常DRPLA遺伝子をES細胞に導入したトランスジェニックマウスを作成したところ、DRPLA患者と同様な体細胞モザイク及びその進行を再現できた。その他、DRPLA遺伝子産物である蛋白と結合する蛋白の同定に関する研究も始まっており、本年度は酵母-ツーハイブリッド系を用いてヒト胎児脳cDNAライブラリーを スクリーニングを検索し、ある蛋白を抽出した。これは受容体チロシンキナーゼ基質の一つであり、長いmRNAは脳に特異的に発現するものであった。以上のような分子生物学的研究の成果の上に立って、脊髄小脳変性症の病型分類あるいは臨床統計に関する研究も行われた。その結果、北海道においては遺伝性脊髄小脳変性症は全体の40%を占め、その内で多いのはMJDとSCA6であり、他の病型は稀であることが報告された。一方、小児期に発病する脊髄小脳変性症はまだ十分検討が加えられておらず今後の課題であることが指摘された。
脊髄小脳変性症の病態を把握するための臨床生理学的研究:視覚性事象関連電位は認知機能の異常検出に有効とされているが、小脳型多系統変性症ではMRI上橋萎縮の強い症例では、このP300の異常を見いだす頻度が高いことがわかった。脊髄小脳変性症では様々な眼球運動障害が起こるが、CCAの眼球運動異常は比較的軽度であり、特に発病後数年を経ても眼球運動障害が軽微のとどまる場合、あるいは注視眼振が出現しない場合にはCCAを考慮する必要がある。脊髄小脳変性症では、時に声帯麻痺が生じることがあり、放置すれば突然死の原因ともなり得る。特に多系統変性症ではその頻度が著しく高く、声帯筋麻痺が外転筋(後筋)に限局して生じていることが知られている。これは臨床的には特異的な吸気性喘息として現れ、音響学的には高い周波数として捕らえられる。脊髄小脳変性症、特に小脳型多系統変性症では、起立性低血圧の頻度が高く、しばしば失神として現れ臨床的に最も重大な症状になり得る。そこで、起立時の脳循環の変動を近赤外線を用いて検討した。その結果、OPCAでは起立性低血圧症状の有無にかかわらず、起立時の脳の酸素化ヘモグロビン量が低下しており、体循環が保たれている早期から脳循環のautoregulation障害があることがわかった。
脊髄小脳変性症の薬物治療:脊髄小脳変性症の小脳性運動失調に対しては、現在TRHの注射が認可されているのみである。そこで、本班では自律神経症状に対する治療も含めていくつかの試みが続けられている。まず、MJDに対するテトラヒドロビオプテリン治療の試みについてであるが、合成抗菌剤としてのsulfamethoxazole-trimethoprimが偶然MJDの臨床症状に有効であったという知見に基づき、その効果が脳内のビオプテリンを増加させるという仮説に立った試みである。7名の患者についてオープン試験により高用量・長期投与を試み、用量の増加とともに中等度改善を示す症例の明らかな増加をみた。現在公式に治験中である。次に、小脳における神経伝達物質としてグルタミン酸が重要であることが知られている。そこで小脳におけるグルタミン酸代謝を調節することにより小脳性運動失調の改善を期待する試みを行った。神経細胞内グルタミン酸代謝改善法としてバリン、ロイシン、イソロイシンなどの分枝アミノ酸投与をsingle-blind cross over法で脊髄小脳変性症患者10名について行った。7日間の点滴投与法であった。その結果、1例の著効例を含めて5例でなんらかの自・他覚的症状改善効果を認めた。重篤な副作用はなく多数例での試みが必要である。
小脳に関係した生物学的研究:RNA結合蛋白をコードする遺伝子QkIをノックアウトすると、QkIレベルの低下に伴ってクウェイキングの神経症状が悪化することがわかった。遺伝性てんかんラットには、発作型の異なる3群があるが、3群に共通して海馬体の錐体細胞層CA1領域に異常な神経細胞の集簇が認められることがわかった。従来知られていなかったネコの遺伝性運動失調症の系統が見いだされた。これは常染色体劣性遺伝する。病理的変化は小脳皮質とオリーヴ核に限局しており、ヒトのCCAのモデルとなり得る。
当該分野に関する国外での研究状況の概要:遺伝子解析の分野では、我が班の班員の手によってCAGリピート病であるMJD、DRPLA及びSCA2の遺伝子が同定され、SCA6もCCAの主体であることが明らかになった。またリピート数と臨床病態との関連についても研究を進めており、諸外国を完全にリードしている。一方、TRH療法も我が国での研究の成果であるが、それをさらに進めた新しい運動失調に対する薬物治療の試みを積極的に進めており、テトラヒドロビオプテリンはすでに臨床治験中であり、世界をリードしている。
結論

公開日・更新日

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