遅発性ウイルス感染

文献情報

文献番号
199700966A
報告書区分
総括
研究課題名
遅発性ウイルス感染
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
北本 哲之(東北大学医学部病態神経学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 小船富美夫(国立感染症研究所)
  • 小峰茂(長崎大学医学部細菌学)
  • 高須俊明(日本大学医学部神経内科)
  • 品川森一(帯広畜産大学獣医学科公衆衛生)
  • 中村健司(東京大学医科学研究所獣医学)
  • 中村好一(自治医科大学公衆衛生)
  • 長嶋和郎(北海道大学医学部病理学第二)
  • 三好一郎(東北大学医学部附属動物実験施設)
  • 保井孝太郎(東京都神経科学総合研究所微生物学免疫学)
  • 毛利資郎(九州大学医学部動物実験施設)
  • 黒田康夫(佐賀医科大学内科)
  • 佐藤猛(国立精神神経センター国府台病院)
  • 立石潤(老人保健施設春風)
  • 田中智之(和歌山県立医科大学微生物学)
  • 玉井洋一(北里大学医学部生化学)
  • 二瓶健次(国立小児病院神経科)
  • 檜垣惠(聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター)
  • 堀田博(神戸大学医学部微生物学)
  • 松田治男(広島大学生物生産学部免疫生物学)
  • 山内一也((財)日本生物科学研究所)
  • 堂浦克美(九州大学医学部脳研病理)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 神経・筋疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、プリオン病、SSPE、PMLの3疾患の病態解明と発症予防である。この目的を達成するために、プリオン病に関しては、診断法の確立、モデル動物の開発と病態解明をめざす基礎的研究を中心に行い加えてプリオン病の全国調査の解析を今年度から行うこととした。 一方、SSPEに関しては臨床疫学調査に加えて、麻疹ウイルスと宿主の防御機構を中心に発症機構解明への糸口を探り、PMLに対してはJCウイルス調節領域の遺伝子解析とin vitroでの人工偽ウイルスの樹立をめざした。
研究方法
(略)
結果と考察
(略)
結論
1.プリオン病 a. 診断法の確立
何より重要と考えたのは、信頼できるモノクローナル抗体を数多く作製することである。このため、大腸菌を用いたレコンビナント蛋白とペプチドを利用して抗体作製を行った(田中智之、檜垣惠、松田治男)。マウスのモノクローナル抗体の系では、多数の抗体のうち1つの抗体がプリオン蛋白と反応しWestern blot及び免疫組織学的に使用可能となった。特筆すべきは、ニワトリのモノクローナル抗体の系で2種類のマウスとヒト・プリオン蛋白に共通して反応する抗体が作製できた。この抗体の反応性は高く、十分イムノアッセイ法として利用できるものであった。次に、組織中に含まれる異常プリオン蛋白を効率よく検出するために、コラーゲンやゼラチンにスクレピー感染脳を添加し前処理法の開発を行った(品川森一)。実際に用いる前処理法としては、ポリエチレングリコール沈殿が非常に有効にプリオン蛋白を濃縮することを明らかとした。 
b. モデル動物の開発 ヒトへの感染性を検討する上でヒト型のプリオン蛋白遺伝子の導入は必要不可欠である。この目的のため、遺伝子導入法としてトランスジェニック(Tg)法(三好一郎、北本哲之)と遺伝子置換法(中村健司、北本哲之)の両方法を実施した。Tg法ではマウスの自然なプリオン蛋白遺伝子を用いて蛋白翻訳領域をヒト型、ヒツジ型、ウシ型に変更し、Tgマウスを作製した。作製したTgマウスは、そのmRNA・蛋白の発現量が野生型マウスの等倍から20倍と過剰発現に成功した。発現は、中枢神経系の神経細胞に最も多く認められ、一般臓器でもNeural Crest由来の細胞を中心に広く分布していた。現在、これらのTgマウスはノックアウト・マウスと交配し内因性のマウス・プリオン蛋白をなくし、完全なヒト型とすると共に、すでに感染実験を行い140日を経過している(毛利資郎)。もう1つのアプローチである遺伝子置換法は、昨年度クローニングした2種類のES細胞からキメラ・マウスをへてF1マウスの作製に成功し、そのうち1種類のマウスでは完全なヒト化に成功した。モデル動物の作製は順調に進んでいる。
c.基礎的研究 プリオン病に感染したマウスの脳に特異的に高発現する遺伝子の検索を引き続き行った(片峰 茂、堂浦克美)。これは、プリオン病の病態解明をめざすと共に早期診断の開発のための基礎的研究である。この結果2つのグループは、それぞれCathepsinS、CystatinC、LysozymeM、Mpg-1、HEXBというマクロファージ系の蛋白の高発現を確認した。これらのクローニングした分子を中心に特異抗体を作製し早期診断をめざすと共にこれらの分子のノックアウト・マウスの作製を計画中である。また、プリオン蛋白の遺伝子発現の修飾を培養細胞系で検討しNeuroblastomaの細胞で幾つかのグリア由来のサイトカインにより、プリオン蛋白のmRNAのup-regulationが起こることを確認した(黒田康夫)。これらのサイトカインのうちTNFαに関しては、この遺伝子のノックアウト・マウスを用いてプリオンの感染実験を行ったところプリオン病の感受性、病理像にまったく野生型マウスと差がみられずTNFαは、プリオン病感染の必須因子でないことが明らかとなった(玉井洋一)。また、プリオンの選択的不活化の試みとして液化エチレンオキサイド(LEO)が有効であることを発見した(品川森一)。2%LEOで感染価は10万分の1に減少し0.7%で1000分の1と減少した。今後、プリオンの消毒法として使用可能な方法である。
d.CJDの全国サーベイランス 今年度から、本研究班がCJDの全国調査の解析を行うこととなった(中村好一、佐藤猛、立石潤、北本哲之)。昨年度までの重複症例を除く、69例が報告され内訳は66例がCJD 、3例がGSSであった。この解析では、1997年発症のCJDが20例と少なく、報告方法の改善が求められた。このうち特筆すべきは、更に12例の硬膜移植例の報告がなされ、以前の結果と併せると55例の硬膜移植例が確認されたことになる。今回の12例は、1986年と87年に硬膜移植を受けている例が8例あり、平均の潜伏期間は10年間であった。また、従来の日本のCJDにはないflorid plaquesをもつ硬膜移植例の3例の報告がなされた。florid plaquesは、英国のnew variant CJDの1つの特徴とされてきたが、この3例も非典型的な臨床症状を示し若年発症という点を除けば臨床・病理像からnew variant CJDと区別するのが困難である。区別するためにはWestern blotが必要であることが報告された。
2.SSPE
基礎的研究としては、麻疹感染に関わる免疫機構、動物を用いた脱髄脳炎、正常人における麻疹ウイルスの保有率を中心に研究を進めた(山内一也、小船富美夫、堀田博)。麻疹感染をサルモデル系で作製し、その免疫反応の経過を検討した結果、血液中のインターフェロン活性が感染後3日目から上昇し5日目にピークとなった。感染後の免疫不全状態は6日目が極期で急速に回復する現象が認められた(山内一也)。また、SSPEにみられる脱髄性病変のモデルとして、リスザルの系を確立してきたが、今回はもっと実験に用い易いマウスそしてハムスターでも脱髄病変の作製に成功した(小船富美夫)。麻疹ウイルスの神経病原性、脱髄の機構解析に有用な手段となると思われる。次に、正常人と考えられる法医解剖例51例から麻疹ウイルスの遺伝子が19.6%と高率に検出され脳以外の組織でも広くウイルス遺伝子が存在することを明らかにした。但し感度の問題か、ウイルス蛋白の存在及びウイルスの分離はこれらの症例では検出できなかった(堀田博)。臨床的研究として、まず1972年から1996年までの日本のSSPEの死亡例について検討した(二瓶健次)。起因となった麻疹の感染については1974年と1984年にそれぞれピークがみられ、SSPEの死亡までの臨床経過は平均男65ヶ月、女72ヶ月であった。治療に関しては無治療の臨床経過が平均45ヶ月、イソプリノシン使用例では78ヶ月、インターフェロンの併用で67ヶ月であった。最近の治療は明らかに死亡を少なくし、死亡までの期間を延長していた。次に、海外のSSPE多発地での検索を行った(高須俊明)。パキスタン・カラチ、ニューギニアでは、人口100万人あたり最高88人とSSPEの多発がみられ、現在カラチの麻疹ウイルスの遺伝子解析を行っておりパキスタン株は野外株の5つの系統には分類されず新しい6番目の系統であることが明らかとなったが、麻疹ウイルス及びSSPEウイルスの分子性状とその神経病原性の検討には更なる知見の集積が必要である。
3.PML
JCウイルスに関してはウイルスの調節領域のクローニングを3症例のPML患者脳より行った結果、調節領域の遺伝子再編成が認められるものの、その再編成は症例間はもとより、同一個体内に存在するJCウイルス間でも多様性があり、もとの典型的なJCウイルスに近い配列を有するものも存在することが明らかとなった(長嶋和郎)。また、人工JCウイルスを作製することにより増殖の制御機構、感染の成立過程、免疫学的反応などのウイルス研究を可能にするため、哺乳類細胞で発現可能な組換バキュロウイルスを用いた系と昆虫細胞を用いた系でウイルス粒子を形成させる試みを行ったが、後期構造蛋白のみの発現では蛋白の核内移行はみられたものの、ウイルス粒子の形成には至らなかった。よってJCウイルスの粒子形成には核になるDNAが必要であろうと考えられた(保井孝太郎)。

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