アミロイドーシス

文献情報

文献番号
199700965A
報告書区分
総括
研究課題名
アミロイドーシス
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
石原 得博(山口大学医学部病理学第一講座)
研究分担者(所属機関)
  • 下条文武(福井医科大学)
  • 前田秀一郎(山梨医科大学)
  • 今井浩三(札幌医科大学)
  • 榊佳之(東京大学)
  • 池田修一(信州大学)
  • 東海林幹夫(群馬大学)
  • 樋口京一(信州大学)
  • 中里雅光(宮崎医科大学)
  • 森啓(東京都精神医学総合研究所)
  • 篠田友孝(東京都立大学)
  • 玉岡晃(筑波大学)
  • 坂下直実(熊本大学)
  • 横田忠明(小倉記念病院)
  • 河野道生(山口大学)
  • 原茂子(虎ノ門病院)
  • 山田正仁(東京医科歯科大学)
  • 麻奥英毅(広島赤十字原爆病院)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 代謝系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アミロイドーシスを1,ALアミロイドーシス、2,家族性ポリニュ-ロパチ-(FAP)、3,脳アミロイドーシス、4,透析アミロイドーシス、5,その他に分け、以下の点を明らかにする。また、新しいタイプのアミロイドーシスを発見し、さらにすべてのタイプに共通のアミロイド線維形成機序を解明する。1,AL;アミロイド原性蛋白の一次構造を決定し、前駆体蛋白産生細胞である形質細胞を組織化学的および分子遺伝学的に検討し、その細胞の役割を明らかにする。2,FAP;新たな遺伝子変異を検出できる蛋白化学・分子生物学的手法を開発する。トランスジェニックおよびノックアウトマウスを用いて、異型トランスサイレチン(TTR)が多発性神経炎を起こす機序を解明する。肝臓移植や血漿浄化法による治療法を開発する。3,脳;老人斑や脳血管アミロイドにおけるβ蛋白沈着機序を明らかにする。家族性アルツハイマー病(FAD)病脳におけるプレセニリン(PS)遺伝子発現の役割を解明し、早期発症型FAD脳におけるアミロイド分子種の変動を解析する。アルツハイマー病における神経細胞の変性に関与する遺伝子を同定し、変性メカニズムを探る。4,透析;Apolipoprotein E(Apo E)およびantichymotrypsin(ACT)とその多型性の果たす役割を明らかにし、アミロイドーシスの発症機序を解明する。透析治療方法、その変換とアミロイドーシスの病態を対比検討し、今後の透析治療の方向性を明らかにする。5,その他;実験的AAアミロイドーシスにおいてApo E、serum amyloid P component(SAP)などの役割およびamyloid enhancing factor(AEF)の本態と作用機序を明らかにする。老化アミロイドーシスについては、SAMP1マウスを用いてアミロイド線維蛋白共沈蛋白質を同定し発症機構を明らかにし、遺伝子治療法を開発する。
研究方法
(略)
結果と考察
(略)
結論
 [1,各種アミロイドーシス共通のアミロイド線維形成機序] 1)アミロイド促進因子(AEF): ユビキチンのAEF効果について検討し、抗ユビキチン抗体を用いてAEF中のユビキチンの除去によるAEFの効果の消失を試みたがアミロイドの沈着を認め、ユビキチンがAEFであることを明らかにすることはできなかった。 2)アミロイド線維形成機序: a.βアミロイド線維の試験管内形成に及ぼすApo Eの阻害効果を検討し、Apo Eが脳内βアミロイド沈着の生理的阻害物質である可能性を示唆した。 b.Advanced glycation end products(AGEs)修飾β2-ミクログロブリン(β2-m)の透析アミロイド伸長反応への影響を検討し、AGEs-β2-mの効果は、native β2-mに比較して反応が乏しく、AGEsはアミロイド沈着後に二次的に発生したもので、アミロイド線維に直接関与している可能性は低いと推測した。 c.アデノウイルスを用いた遺伝子治療でマウスアミロイドーシス発症を抑制した。B型apoA-IIがAApoAIIの伸長を阻害することをin vivoにおいて証明し、各種アミロイドーシスにおけるアミロイド線維の伸長を抑制する variantsの探索が治療法の開発に有用である。 3)共存蛋白: 変異導入マウスを用いてアミロイドーシスの発症機構の解析を行い、無SAPマウスでは対照野生マウスに比しAAアミロイドーシスが有意に遅れて惹起された。 [2,ALアミロイドーシス] 1)5例の限局性ALアミロイドーシスではApo E遺伝子型とアミロイド沈着には明らかな関連は認めなかったが、浸潤した形質細胞から産生された免疫グロブリンL鎖がアミロイド沈着をもたらす可能性を示唆した。 2)12例の全身性、22例の限局性アミロイドーシスにおける形質細胞のモノクローナリティーを検討し、免疫組織化学的および分子病理学的手法により形質細胞のモノクローナリティーを証明した。 3)骨髄腫症例で、病期2以上、亜分類Bを有する、BJP陽性、λタイプに多くアミロイドーシスを認めた。また、骨髄腫の十分な治療効果がアミロイドーシスの発症または進展を遅らせる可能性が強いと推測した。 4)ALを合併した骨髄腫患者における骨髄腫細胞の分化度を検討し、必ずしもIg高産生の骨髄腫細胞の存在は必要ないことを示唆した。 5)全身性ALアミロイドーシスで、末梢神経障害その他の症状で発症する例は適格な診断が遅れ、治療も遅れる
ことが臨床上問題となっていることを指摘した。全身性ALアミロイドーシスで神経・筋を主徴とした症候群を伴った症例を臨床病理学的に検討した。 [3,FAP] 1)I型FAPのアミロイド形成にはTTRのCys10側鎖が関与するVal→Met置換による高次構造の変化に伴い、Cys10の側鎖が高次構造内部から高次構造外部にフリーに存在することが可能となる。このCys10側鎖同志の架橋によるアグリゲートがアミロイド蛋白形成のトリガーとなると考えられた。 2)血液中のfreeTTRとCys-結合型TTRのバランスの変化が、FAPのアミロイド沈着機構に重要な役割を果たし、この変化を制御することがアミロイド沈着を抑制する鍵を握る可能性が示唆された。 3)extracellular superoxide dismutase(EC-SOD)異常をともなったFAPの剖検例では遺伝子異常によりEC-SODの血管内皮への結合能が低下して変異EC-SODの血中濃度が増大する。その結果、血管壁での活性酸素障害が亢進し、全身の血管周囲を中心に大量のアミロイド沈着が生じたことが示唆された。 4)FAPの発症前遺伝子診断は適切に施行されれば十分有用である。 5)FAP患者より新たなTTR異常を同定した。ドミノ肝臓移植術を受けた患者を追跡調査することは、変異TTRによるアミロイド沈着の解明に有用であることを示唆した。 6)FAP患者に選択的TTR吸着カラムPA-01を使用したが、週1回の施行ではTTR濃度は持続的に低下せず、症状の改善や進行の停止はみられなかった。 7)FAPに近似したモデルマウスの確立を目指し、ジーンターゲッティング法を用いて、マウス内在性のttr遺伝子にFAPの原因となる点変異を導入した。 [4,脳アミロイドーシス] 1)ヒト腎臓ではTTRが阻害(sequestration)蛋白として不溶化しやすいAβ42に結合し、Aβ42は凝集、沈着を免れている可能性が示唆された。 2)日本人高齢者で脳アミロイドアンギオパチーとApo E、PS-1、α1-ACT遺伝子多型との関連を検討し、PS-1多型が脳アミロイドアンギオパチーの程度と関連する可能性を示した。 3)in vitroにおけるnon-Aβ component of AD amyloid(NACP)共存下でAβはNACPを含む凝集・線維化物を生成し、その生成速度は促進された。 4)アミロイド前駆体蛋白(APP)のプロセッシングにおいて、カテプシンDがAβアミロイドの形成および沈着の促進に重要な役割を果たしていた。 5)脳アミロイド蓄積では、アポリポ蛋白Jはその結合型Aβ分子種に対し、アミロイド線維形成を抑制するプロテクティブな因子として機能しており、その両者の相互作用の破綻は、Apo Eなどの促進因子の関与によりアミロイド線維形成につながる可能性を強く示唆していた。 6)脳脊髄液tau、Aβ1-40/42、Aβ ratioおよびAD indexはアルツハイマー病の生化学的診断マーカーとして有用であった。 7)アルツハイマー病脳では対照脳に比べ、Aβ40、Aβ42のいずれもが有意に増加している。PS-1やAPP717の突然変異は脳のAβ代謝に影響し、より重合しやすいAβ42の増加を促進させることによってアミロイド線維形成を促進し、早期発症の家族性アルツハイマー病を生じる可能性が高い。 8)FAD原因遺伝子プレセニリンとAβアミロイド前駆体蛋白(APP)との関連性を検討し、PS1およびPS1突然変異型遺伝子を導入したCHO695細胞ではAPPとPS1との直接的な結合を示唆する知見は得られていない。 [5,透析アミロイドーシス] 1)β2-m除去のために、従来のダイアライザーでそのファイバーの充填率を増加させたダイアライザーを開発し、好結果を得た。 2)β2-m吸着カラム使用における治療効果の指標としてサイトカインの動態を検討し、IL1-βの有意な産生抑制が認められ、臨床症状の改善も認められた。 [6,その他] 限局性アミロイドーシスで新たなアミロイド蛋白由来と考えられる2症例を報告した。1例はソマトスタチン由来と考えられ、他の1例は外傷後の角膜潰瘍部に沈着したアミロイドで免疫組織化学的にはリゾチームの局在が認められた。

公開日・更新日

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