臓器移植患者の予後およびQOLの向上のための真菌やウイルス感染症の予防・診断・治療に関する研究

文献情報

文献番号
201123009A
報告書区分
総括
研究課題名
臓器移植患者の予後およびQOLの向上のための真菌やウイルス感染症の予防・診断・治療に関する研究
課題番号
H21-新興・一般-009
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
西條 政幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 一山 智(京都大学大学院医学研究科 臨床病態検査学)
  • 井上 直樹(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 大野 秀明(国立感染症研究所 生物活性物質部)
  • 片野 晴隆(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 加藤 俊一(東海大学医学部 造血幹細胞移植)
  • 木内 哲也(名古屋大学大学院医学系研究科 移植外科学)
  • 木村 宏(名古屋大学大学院医学系研究科 分子総合医学専攻 微生物・免疫学講座ウイルス学)
  • 錫谷 達夫(福島県立医科大学 微生物学教室)
  • 谷口 修一(虎の門病院 血液内科)
  • 森 康子(神戸大学大学院医学研究科 臨床ウイルス学)
  • 吉川 哲史(藤田保健衛生大学医学部 小児科学・臨床ウイルス学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
48,960,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臓器移植(以下,移植)医療はより高度化し,移植を受ける患者が年々増加している.移植患者の予後とQOLを改善するために,移植患者における感染症の現状を解析し,移植患者におけるウイルスや真菌感染症の診断や治療法の開発を手がけ,将来を見据えた対応策を提示することが目的である.
研究方法
薬剤耐性ヘルペスウイルス(HSV,VZV,CMV)感染症に対する治療戦略構築のための研究,進行性多巣性白質脳症の病理学的解析と診断への応用,移植後EBV関連リンパ増殖症におけるウイルス感染細胞同定,同種造血幹細胞移植後の呼吸器ウイルス感染症に関する前方視的疫学調査,HHV-6に対する細胞性免疫能の測定法の開発と評価がなされた.真菌感染症対策のための研究として,日本で分離された北米型Cryptococcus gattiiの病原性,生体肝移植後感染症の臨床疫学調査,新規技術を用いた細菌,真菌感染症の迅速で正確な感染症診断技術の開発とその評価,等がなされた.さらに肝移植後慢性期の成人および小児例における混合インフルエンザワクチンの有効性と安全性に関する研究がなされた.
結果と考察
移植患者における薬剤耐性ヘルペスウイルス感染症の病態とその特徴が明らかにされた.新規抗ヘルペス薬が見出された.HHV-6等の病原体に対する細胞性免疫能を測定する高感度ELISPOT法等が開発された.移植後EBV関連リンパ増殖症の診断に有用なFISH法が開発された.真菌感染症対策のために新規技術を用いた細菌,真菌感染症の迅速で正確な感染症診断技術の開発が試みられたが,解決されるべき課題が残っている.Cryptococcus gattii JP01株のマウスにおける病原性はCryptococcus属の中でも高病原性を有していた.肝移植後慢性期の成人および小児例における混合インフルエンザワクチン接種の安全性と有効性を示唆する成績が得られた.移植医療では,薬剤耐性ヘルペスウイルス感染症対策,呼吸器ウイルス感染症の院内感染症対策の重要性と困難性が明らかにされ,その対策が喫緊の課題であると考えられる.この他にも多くの残された課題がある.
結論
今後も移植医療の質の向上が図られ,移植医療を受ける患者が増加するものと予想される.移植術急性期の感染症対策だけでなく,移植術を受けた患者の慢性期(後期)における感染症対策を通じたQOLの向上に繋がる研究もこれまで以上に望まれる.

公開日・更新日

公開日
2012-05-31
更新日
-

文献情報

文献番号
201123009B
報告書区分
総合
研究課題名
臓器移植患者の予後およびQOLの向上のための真菌やウイルス感染症の予防・診断・治療に関する研究
課題番号
H21-新興・一般-009
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
西條 政幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 一山 智(京都大学大学院医学研究科臨床病態検査学)
  • 井上 直樹(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 大野 秀明(国立感染症研究所 生物活性物質部)
  • 片野 晴隆(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 加藤 俊一(東海大学医学部 造血幹細胞移植)
  • 木内哲也(名古屋大学大学院医学系研究科 移植外科学)
  • 木村 宏(名古屋大学大学院医学系研究科 分子総合医学専攻 微生物・免疫学講座ウイルス学)
  • 錫谷 達夫(福島県立医科大学 微生物学教室)
  • 谷口 修一(虎の門病院 血液内科)
  • 森 康子(神戸大学大学院医学研究科 臨床ウイルス学)
  • 吉川 哲史(藤田保健衛生大学医学部 小児科学・臨床ウイルス学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
造血幹細胞移植を含む臓器移植(以下,移植)医療では,患者の予後は徐々に改善されつつあるものの,現在でも移植患者では感染症の治療に難渋し,亡くなられる場合が多い.移植患者における感染症は,克服または改善を要する問題点のひとつである.本研究班では,移植患者の予後やQOLの向上を目的とした.
研究方法
その目的のために,1)移植関連感染症スクリーニング対象疾患としてリンパ球脈絡髄膜炎ウイルス感染症の診断法の開発と整備,2)移植患者におけるウイルス感染症,真菌感染症の流行の解析,病態,対策に関する研究,3)新規技術を用いた移植患者における真菌・細菌感染症診断法の開発とその有用性の評価,4)アデノウイルス,JCウイルス,BKウイルス同時検出システム開発,5)移植患者におけるウイルス病原体に対する細胞性免疫応答の評価法の開発とそれを応用した細胞性免疫再構築の評価,6)移植患者の晩期合併症としての感染症として問題となる移植後EBウイルス関連リンパ増殖症の診断法の開発と臨床的有用性の評価,7)進行性多巣性白質脳症の病理学的診断法の評価,8)薬剤耐性単純ヘルペスウイルス感染症やサイトメガロウイルス感染症に対する診断法,治療法に関する研究,9)肝移植後慢性期の患者に対するインフルエンザワクチン,B型肝炎ワクチン接種の有効性と安全性に関する研究,9 )新規抗ヘルペスウイルス薬の作用機序の解明とin vivoイメージング法による有効性の評価システム開発,等の研究がなされた.
結果と考察
造血幹細胞移植患者や肝移植患者等における薬剤耐性ヘルペスウイルス感染症,EBウイルスによる移植後EBウイルス関連リンパ増殖症やJCウイルス,BKウイルス感染症等の診断システム,リンパ球脈絡髄膜炎ウイルス感染症の診断システムが整備された.各種病原体に対する細胞性免疫評価システムも開発された.網羅的遺伝子検出による真菌・最近感染症の診断法の開発,各種病原体に対する診断システムが開発されたが,その有用性についてはまだ結論を得ていない.造血幹細胞移植患者を含む臓器移植患者におけるヘルペスウイルス感染症対策マニュアルが作成された.
結論
今後も移植医療の質の向上が図られ,移植医療を受ける患者は増加するものと予想される.移植術急性期の感染症対策だけでなく,移植術を受けた患者の慢性期(後期)における感染症対策を通じたQOLの向上に繋がる研究もこれまで以上に望まれる.

公開日・更新日

公開日
2012-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201123009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
リンパ球脈絡髄膜炎ウイルス感染症,活動性CMV高感度検出法,進行性多巣性白質脳症診断法,EBウイルス関連リンパ増殖性疾患診断のためのFISH法,JC,BK,アデノウイルス同時検出法,等が開発・整備された.肝移植後患者におけるワクチン(インフルエンザ,B型肝炎)接種のあり方に資する成績を得た.薬剤耐性ヘルペスウイルス感染症や脳炎・脳症の発生状況,生体肝移植後の感染症の実態,呼吸器ウイルス感染症の病棟内感染の実態,等が明らかにされた.HHV-6等各種病原体に対する細胞性免疫測定系が確立された.
臨床的観点からの成果
移植患者におけるウイルス・真菌感染症の実態が明らかにされた.特に病棟内での呼吸器ウイルス感染症の流行対策は,患者予後を低下させ,かつ,その予防が比較的困難であることが明らかにされた.薬剤耐性HSV感染症の診断が可能な施設の整備,移植患者における呼吸器ウイルス感染症予防対策研究,コマーシャルラボにおける脳脊髄液中のJCV検査の整備,移植患者のワクチン接種のあり方を評価する研究,侵襲性真菌感染症対策のための臨床的調査,移植患者の晩期感染性合併症の病態の臨床研究の重要性が示された.
ガイドライン等の開発
H24年3月に「臓器移植患者におけるヘルペスウイルス感染症に対する診断・治療・予防マニュアル」を刊行した.
その他行政的観点からの成果
臓器移植患者における感染症治療や予防について,行政や関連学会の診断あるいは治療ガイドラインに成果を反映することが期待される.移植前に適切な対応をとることで合併症の頻度の低下,ひいては医療費の低減につながってくるものと考える.新たな薬剤を製薬メーカー等において開発する契機を提供する.移殖に伴うヘルペスウイルス感染症の治療方法を改善できるようになる.
その他のインパクト
シンポジウム「臓器移植におけるウイルス感染症対策」と題するシンポジウムが,平成21年11月13日(金) 午後3時から午後5時30分に,国立感染症研究所第一会議室で開催された.

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
90件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
71件
学会発表(国際学会等)
25件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamada S, Nozawa N, Katano H, et al.
Characterization of the guinea pig cytomegalovirus genome locus that encodes homologs of human cytomegalovirus major immediate-early genes, UL128, and UL130.
Virology , 391 , 99-106  (2009)
原著論文2
Yamada S, Kosugi I, Katano H, et al.
In vivo imaging assay for the convenient evaluation of antiviral compounds against cytomegalovirus in mice.
Antiviral Res , 88 , 45-52  (2010)
原著論文3
Gotoh K, Ito Y, Ohta R, Iwata S, et al.
Immunologic and virologic analyses in pediatric liver transplant recipients with chronic high Epstein-Barr virus loads.
J Infect Dis , 202 , 461-469  (2010)
原著論文4
Funahashi Y, Iwata S, Ito Y, et al.
Multiplex real-time PCR assay for quantifying BK polyomavirus, JC polyomavirus, and sdenovirus DNA dimultaneously.
J Clin Microbiol , 48 , 825-830  (2010)
原著論文5
to Y, Takakura S, Ichiyama S, et al.
Multicenter evaluation of prototype real-time PCR assays for Epstein-Barr virus and cytomegalovirus DNA in whole blood samples from transplant recipients.
Microbiol Immunol , 54 , 516-522  (2010)
原著論文6
Kanno T, Sato Y, Nakamura T, et al.
Genotypic and clinicopathological characterization of Kaposi's sarcoma-associated herpesvirus infection in Japan.
J Med Virol , 82 , 400-406  (2010)
原著論文7
Shiota T, Kurane I, Morikawa S, et al.
Long-term observation of HSV-1 infections in a child with Wiskott-Aldrich syndrome and possible mechanism of TK-negative HSV-1 in humans.
Jpn J Infect Dis , 64 , 121-126  (2011)
原著論文8
Shiota T, Wang L, Ito M, et al.
Expression of herpes simplex virus type 1 recombinant thymidine kinase and its application to a rapid antiviral sensitivity assay.
Antiviral Res , 91 , 142-149  (2011)
原著論文9
Nakamichi K, Kurane I, Saijo M.
Evaluation of a quantitative real-time PCR assay for detection of JC polyomavirus DNA in cerebrospinal fluid without the need for nucleic acid extraction.
Jpn J Infect Dis , 64 , 211-216  (2011)
原著論文10
Morio T, Atsuta Y, Tomizawa D, et al.
Outcome of unrelated umbilical cord blood transplantation in 88 patients with primary immunodeficiency in Japan.
Brit J Haematol , 154 , 363-372  (2011)
原著論文11
Gotoh K, Ito Y, Suzuki E, et al.
Effectiveness and safety of inactivated influenza vaccination in pediatric liver transplant recipients over three influenza seasons.
Pediatr Transplant , 15 , 112-116  (2011)
原著論文12
Ito Y, Kawabe S, Kojima S, et al.
Identification of Epstein-Barr virus-infected CD27+ memory-B cells in liver or stem cell transplant patients.
J Gen Virol , 92 , 2590-2595  (2011)
原著論文13
Gotoh K, Ito Y, Maruo S, et al.
Replication of Epstein-Barr virus primary infection in human tonsil tissue explants.
PLoS One , 6 , 25490-  (2011)
原著論文14
Kawamura Y, Sugata K, Ihira M, et al.
Different characteristics of human herpesvirus 6 encephalitis between primary infection and viral reactivation.
J Clin Virol , 51 , 12-19  (2011)
原著論文15
Ogawa-Goto K, Ueno T, Oshima K, et al.
Detection of active human cytomegalovirus by the promyelocytic leukemia body assay in cultures of PBMCs from patients undergoing hematopoietic stem cell transplantation.
J Med Virol , 84 , 479-486  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
2018-06-08

収支報告書

文献番号
201123009Z