原発性高脂血症

文献情報

文献番号
199700964A
報告書区分
総括
研究課題名
原発性高脂血症
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
北 徹(京都大学医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 斉藤康(千葉大学医学部)
  • 松沢祐次(大阪大学医学部)
  • 馬淵宏(金沢大学医学部)
  • 山田信博(東京大学医学部)
  • 及川真一(東北大学医学部)
  • 太田孝男(熊本大学)
  • 佐々木淳(福岡大学医学部)
  • 児玉龍彦(東京大学先端科学技術研究センター)
  • 武城英明(千葉大学医学部)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 代謝系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまでの調査研究班において原発性高脂血症の疾患概念、定義が示され、我が国における疾患別の頻度、特徴、治療法、予後がまとめられてきた。しかしながら、研究の進歩により疾患によっては定義そのものを修正したり、下記に述べる疾患についての病態解析を進め、さらに発症頻度についても詳しい調査を行う必要が生じてきた。また、分子生物学の普及に伴いそれぞれの原発性高脂血症について遣伝子レベルの検討が盛んに実施され始めた経緯がある。そこで私共の班においては、以下の5つの研究に焦点をしぼり、班研究を行うことを目的とする。(1)原因が明らかにされていない原発性高脂血症の実態調査と病態解析(2)我が国における脂質代謝異常の遺伝疫学、および遺伝子レベルの解析(3)高脂血症及び粥状動脈硬化発症進展の分子機構の解析ならびに発生工学的手法を用いた新たな動物モデルの作出(4)高脂血症治療薬の副作用調査(5)高脂血症治療法(食事、及び運動療法)のガイドラインの作成
研究方法
(1)原因が明らかにされていない原発性高脂血症の実態調査と病態解析。ここでは以下の三つの疾患に焦点を絞り検討したい。すなわち、動脈硬化との関係が深い疾患として、a)家族性高コレステロール血症(FH)b)家族性複合型高脂血症(FCHL)、動脈硬化との関係がはっきりしない疾患として、c)高HDL血症、特にコレステロールエステル転送蛋白(CETP)欠損症について。a)家族性高コレステロール血症(FH):FHは、高頻度(l 名/500名)に発症し、LDL受容体異常により発症することが既に明らかにされている代表的高脂血症である。ところが、FH患者間にはその予後(心筋梗塞の発症など)、治療反応性などその病態像に大きな違いがあることが知られている。近年、遺伝子解析が行われるようになり、LDL受容体遣伝子のどの部位に異常が生じているのかが明らかにされてきた。そこで、FHの病態と遣伝子レベルの解析結果とを比較検討し、両者の関係をはっきりさせ予後判定、治療方針へ反映させたい。b)家族性複合型高脂血症(FCHL):FCHLは100~200名に1名の割合で発症することが1973年のGoldsteinらによるシアトル市の調査で発表された。当時FCHLの原因は単一遣伝子異常と考えられていたが、その後必ずしも単一遺伝子の異常ではなく、いくつかの遣伝子の異常が重なり合っている可能性が示唆され、その基準が必ずしも単純でないと考えられるようになった。FCHLは、その発症頻度、病態、原因について、詳細な検討が必要な疾患として原発性高脂血症の中では最も注目されているが、なかなか実態調査が困難な疾患である。また、原発性高脂血症調査研究班で既に作られた診断基準で疫学調査をするには極めて困難が予想される。そこで、まずFCHLが含まれることを前提としたゆるい診断規準を設定し、fieldを定めてその疫学調査を、疫学班との共同で行いたいと考えている。そこから、徐々に診断基準をきつくして(具体的には、non FHであるが家族歴を有すること、同一個人における高脂血症のphenotypeの変動IIa←→IIb←→IV、LDLの小粒子化、hyperapo Bなど)絞り込みをはかり、最終的には、FCHLの頻度、病態、病因にせまりたいと考えている。また、専門的調査としては、既に作製されたFCHLの診断基準にのっとり、家系調査が行われているすべての家系をリストアップして、FCHLと関係が深いとされる遣伝子アポCIII、リポタンパクリパーゼ(LPL)、ミクロゾームトリグリセリド転送蛋白(MTP)などに異常があるかを検討していく予定である。c)コレステロールエステル転送蛋白(CETP)欠損症を中心とした高HDL血症:日本人に比較的多いとされる高HDL血症の発症頻度、その病態、病因を明らかにしたい。高HDL血症の中でも、その原因として明らかにされてきた、CETP遺伝子異常、肝性トリグリセリドリパーゼ(HTGL)遣伝子異常がどの程度の頻度であるかを明らかにしたい。また、動脈硬化との関連の不明なCETP欠損症について、その遺伝子異常が集積する秋田県大曲地域を中心に動脈硬化との関連につき検討を進めたい。(2)我が国における脂質代謝異常の遺伝疫学、および遺伝子レベルの解析。すでに脂質代謝関連の遣伝子が
多く単離されているので、それをもとに我が国における高脂血症における遣伝子レベルでの研究をまとめ(遣伝疫学調査)、遣伝子異常が病態とどの様に関わるかを明らかにしていきたい。これらの結果を外国症例とも比較検討することにより我が国に特徴的な疾患があるのかについても検討する予定である。また、脂質代謝関連の新たなる遣伝子の単離も合わせて試みる予定である。これらの資料をもとに高脂血症の臨床的診断基準と、遣伝子診断基準とを結びつけて新しい診断基準を作製したい。そのための問題点を明らかにしながら、今までの診断基準の見直しを計りたい。(3)高脂血症及び粥状動脈硬化発症進展の分子機構の解析ならびに発生工学的手法を用いた新たな動物モデルの作出。脂質代謝に重要と考えられる基礎研究の推進、および発生工学的手法を用いた(脂質関連酵素、アポ蛋白、受容体のノックアウトマウスを用いた)脂質代謝異常の病態解析を通して、高脂血症の病態解析および治療法への応用を考える。(4)高脂血症治療薬の副作用調査。有効な高脂血症治療薬が広く使用されるようになってきたが一方で副作用の慎重な観察が必要である。ことに、横紋筋融解症の定義がはっきりしていないこと、実施医に十分理解されていないこと、本症が起こりやすい基礎疾患などについての情報が不足している。これらの点につき、特にHMG-CoA還元酵素阻害剤ならびにフィブラート系薬剤について調査したい。(5)高脂血症治療法(食事、及び運動療法)のガイドラインの作成。食事療法については、従来比較的検討が遅れていた分野である。研究期間を通じて諸外国との整合性を含めて班員全体で検討していく予定である。
結果と考察
(略)
結論
原発性高脂血症の実態調査については房総半島の安房地区における家族性複合型高脂血症(FCHL)の疫学調査により以下のことが明らかになった。(1)館山地域の検診受診者約2,000人を虚血性心疾患の既往の有無で2分類し、血清脂質値及び他の冠動脈危険因子について比較検討したところ、TCおよびLDL-Cが男女ともに優位に高値であった。(2)安房地区における検診受診者約4,300人について動脈硬化危険因子と虚血性心疾患発症率とを比較した結果約2.9%の125人に高脂血症(TC 220 およびTG 200 mg/dl 以上)が確認された。また、能登半島におけるFCHL67症例の血清脂質と冠動脈硬化症の研究によりFCHLの診断にはコレステロール215mg/dl, トリグリセリド150mg/dl以上を基準として考えるのが妥当であろうと示唆された。これらの家系内で冠動脈疾患が43例(64%)あり、心筋梗塞の発症年齢は男性54才、女性63才であった。冠動脈硬化の因子として男性では年齢、女性では高アポB血症、低HDL血症との関係が示唆され、FCHLにおいては血清脂質以外の因子の関与も考えられた。家族性高コレステロール血症(FH)患者の病態解析については、脂質代謝異常症患者登録に基づいて施行した結果、現在までにFHホモ型19例、ヘテロ型595例が登録された。冠動脈疾患はホモ型73%、ヘテロ型37%であった。一方脳血管障害、閉塞性動脈硬化症はホモ型には認められず、ヘテロ型でも各2%と低頻度であった。遺伝子解析についてはわが国に多い4種類の変異についての病態を調査した結果FH全体に比べ高コレステロール血症,冠動脈疾患合併率ともに高値の傾向があった。次にCETP欠損症における動脈硬化の発症についての検討では、特定のCETP遺伝子異常が多発している秋田県大曲地方を中心とした疫学調査に加え、高HDL血症症例に頚動脈超音波検査を行って内膜肥厚の有無とその程度を定量的に評価した結果、CETP欠損症に起因する高HDL血症患者では頚動脈の動脈硬化性病変が対照群に比べ加齢と共に進行していることが明らかになった。大動脈脈波速度も同様であった。これらの結果よりCETP欠損症に起因する高HDL血症は抗動脈硬化性ではなく、むしろ動脈硬化惹起性であることが確認された。小児のFHおよびCETP欠損症のマススクリーニングの研究においては、FHに関してはLDL-C、アポB濃度共に成人に比し小児では低値であり、今後の生活習慣の適性化(食事内容、肥満の防止etc)により虚血性心疾患発症の予防可能性
が示された。CETPに関しては、小児ではCETP遺伝子異常が高HDL血症とは直接結びつかず、成人患者の高HDL血症には他の環境要因の関与が示唆された。粥状動脈硬化発症進展の分子機構についても多くの成果が見られたがそれらは分担研究報告に示すとおりである。高脂血症治療薬の副作用調査では以下のことが明らかになっている。Bezatol SR(1991年3月市販)。7485例の市販後調査モニター症例総数のうち212例が副作用有りとして登録された。CPK上昇は63例(0.84%)と最も多く、多くの症例は施設正常値をわずかに上回る程度であった。1,000を越える3症例は、7,220、3,616、1,023であったが、いずれも横紋筋融解症の有無については不明である。このモニター追跡症例以外に副作用の報告例をみた。横紋筋融解症の報告は、発売時から5年半の経過で124例あったが、全例で腎不全、高血圧、糖尿病、心疾患、高尿酸血症の順で合併症を有する症例であった。HMG-CoA還元酵素阻害剤との併用については26例あり、そのうち何らかの腎疾患を有する症例が22例あった。副作用発生例の約半数が投与2週間以内に発症した。Pravastatin(Mevalotin) 約180万人の服用患者延べ人数のうち副作用の報告が819例、うち重篤な副作用としての報告が65例あり、肝機能障害1例、27例が横紋筋融解症であった。

公開日・更新日

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