副腎ホルモン産生異常

文献情報

文献番号
199700962A
報告書区分
総括
研究課題名
副腎ホルモン産生異常
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
名和田 新(九州大学医学部内科学第三講座)
研究分担者(所属機関)
  • 藤枝憲二(北海道大学医学部小児科)
  • 成瀬光栄(東京女子医科大学第二内科)
  • 田中廣壽(旭川医科大学第二内科)
  • 林晃一(慶應義塾大学医学部内科学)
  • 加藤茂明(東京大学分子細胞生物学研究所)
  • 諸橋憲一郎崎国立共同研究機構基礎生物学研究所)
  • 宮森勇(福井医科大学医学部第三内科)
  • 五十嵐良雄(浜松医科大学)
  • 荻原俊男(大阪大学医学部第一内科)
  • 宮地幸隆(東邦大学医学部第一内科)
  • 関原久彦(横浜市立大学医学部第三内科)
  • 斎藤康(千葉大学医学部第二内科)
  • 安田圭吾(岐阜大学医学部第三内科)
  • 田中一成(京都大学医学部臨床病態医科学)
  • 田苗綾子(国立小児病院内分泌代謝科)
  • 笹野公伸(東北大学医学部第二病理)
  • 竹森洋(大阪大学医学部分子生理学)
  • 後藤公宣(九州大学医学部附属病院総合診療部)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 内分泌系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 厚生省特定疾患調査研究班は、過去20数年の実績を踏まえ、今後の展望をもとに平成8年より根本的再編成され、内分泌系疾患調査研究班の一つとして副腎ホルモン産生異常症の班がスタートし、2年目に入り、その班長としてお世話させていただいております。
班としての対象疾患が設定され、その研究課題として以下のように目標を設定した。
(1)原発性アルドステロン症:アルドステロン産生腫瘍の発生機構の分子レベルよりの解明。副腎腫瘍化及び癌化の機構と機能性腫瘍としてのアルドステロン産生機構を増殖因子、癌抑制遺伝子及びステロイド合成酵素レベルより解明し、新規の副腎産生腫瘍化因子を同定する。
(2)副腎酵素欠損症:
・StAR異常症(Prader病):StAR異常症は日本に多い疾患で、その遺伝子診断が可能となって来たが、臨床病態との関連がまだ明らかでなく、遺伝子異常と病態との関連を解明する。
・11bHSD2異常症(AME症候群):低レニン性高血圧症のひとつとしてAME症候群の病因として11bHSD2遺伝子異常が解明されたので、その遺伝子異常と病態との関連を明らかにし、本態性高血圧症における11bHSD2遺伝子異常の関与を明らかにすると共に、他の機能を解明する。
(3)グルココルチコイド抵抗症:グルココルチコイドレセプター及びそれを修飾するレドックス、cofactorのレベルよりグルココルチコイド抵抗性の機序を解明し、グルココルチコイド抵抗症の病因を分子レベルより解明する。
(4)偽性低アルドステロン症:アルドステロン抵抗性の機序をミネラルコルチコイドレセプター、転写調節因子(cofactor)及び電解質チャンネルの分子レベルより解明し、偽性低アルドステロン症の病因を解明する。
(5)副腎低形成(Addison病):
・副腎の発生機構の分子レベルよりの解明とDAX-1異常症、Ad4BP(SF-1)異常症を同定し、副腎腺腫におけるAd4BP、DAX-1の機能を明らかにする。
・副腎の発生分化、zonationを任る因子を同定し、その分子機構を解明する。
研究方法
結果と考察
結果、考察および 上記の目標に従い、第一回内分泌調査研究合同班会議を平成9年6月3日に東京において第70回日本内分泌学会のシンポジウム「臨床内分泌学の進歩」として取り上げ、第二回副腎ホルモン産生異常症調査研究班会議を平成9年12月12日東京において行い、班員ならびに研究協力者の研究成果について発表を行い、発表終了後評価症委員会を開催した。
以下、その成果の総括的概要について述べる
(1)副腎疾患の全国疫学調査
本研究班による副腎疾患の全国調査は過去数回行われたが、対象病因を特定したため、真の疫学調査とは言い難い面があった。今回、疫学班と共同で制度の高い全国疫学調査を予定、進行中である。今回の調査の特徴として、一定規模以上の病院は全てを、小規模の病院は無作為に抽出し全国の病院と対象として事、さらに、前期に稀少副腎疾患(副腎酵素欠損症、先天性アジソン病、偽性低アルドステロン症、AME症候群)、比較的頻度の高い副腎疾患(原発性アルドステロン症、(preclinical)Chishing症候群、アジソン病、褐色細胞腫)と2回に分けて調査し、副腎疾患のほぼ全体の実態を把握する事を目的としている事である。
(2)原発性アルドステロン症(APA)
新規副腎腫瘍因子としてアポトーシス関連遺伝子であるbcl2、mcl-1/EAT、bax、bakの発現をAPAを含む副腎腫瘍において検討し、腫瘍形成のメカニズムを追求した(林)。
アルドステロン産生副腎癌における遺伝子異常をComparative genomic hybridization(CGH)法により両性腫瘍25例、悪性腫瘍12例の比較において悪性度とホルモン産生能の違いにより、遺伝子発現異常の相違がある可能性を明らかにした(関原)。
アルドステロン産生腫瘍(APA)の細胞周期蛋白としてproliferating nuclear antigen(PCNA)、cyclin E、cdk2、p27、p57、p16の発現量を検討し、細胞増殖異常機構の検討が進められ、副腎腫瘍では、正常副腎に比較して細胞増殖能は亢進し、悪性度により細胞周期促進蛋白としてcyclin E、cdk2が亢進し、抑制蛋白としてのP27kiplが抑制されている事を明らかにした(斎藤)。
ラット及びヒト副腎球状層及びAPAにおいてPGE受容体サブタイプEP4が局在する事をEP4mRNAより明らかにし、PGE2/EP4系のアルドステロン産生における役割を示唆した(田中)。
APAに関与するアンギオテンシノーゲン(AGT)遺伝子型をPCR-RFLPにて決定し、G152A、A20Cのアリル頻度がAPA患者で偏った分布を示し、コアプロモーター領域の多型はAPA患者において偏位しており、本症の成因にAGT遺伝子異常の関与が示唆された(荻原)。
副腎腫瘍における癌抑制遺伝子p53の病態生理学的意義を解明するため、副腎腫瘍組織のp53遺伝子のエクソン4から9をPCR-SSCPにて解析し、P53遺伝子変異は褐色細胞の多発化あるいは悪性化と密接に関連する事が示唆されたが、機能性副腎皮質腺腫発生における役割は少ないと考えられた(成瀬)。
突発性アルドステロン症(IHA)の病態解明を目的としてアルドステロン合成酵素遺伝子CYP11Bの遺伝子異常について検討した。IHAに認められる高アルドステロン症の発症メカニズムにはアルドステロン産生能を亢進させる遺伝子異常は関与していないと考えられた(宮森)。
(3)副腎酵素欠損症
・StAR異常症
先天性副腎リポイド過形成症11例において、StAR遺伝子の遺伝子変異の多様性を検討した。全ての症例でStAR遺伝子の変異が同定された。エクソン7のナンセンス変異Q258Xが22alleles中12allelesで認められ頻度が高かった。残りの1alleleでは、これまでに報告のないR217T変異を同定した。発現実験により、R217T変異は素プライス異常を起こして先天性リポイド過形成症をきたす事を明らかにした(田苗)。
StAR遺伝子異常を同定リポイド過形成症例の性腺機能を解析した。XX個体では思春期年齢においてLH、エストラジオール値の上昇がみられ、二次性徴、性周期の発現が見られた。ステロイド産生過程にはStAR依存性過程と非依存性過程が存在する事を明らかにした(藤枝)。
・11bHSD2異常症
腎型11bHSD(11bHSD2)遺伝子変異がAME症候群を来す事を遺伝子及びホルモン学的に明らかにし、本態性高血圧症における11bHSD2の遺伝子多型の有無を検討するためPCR-SSCP法を確立した。少なくともコード領域にpolymorphismは検出されなかった。正常副腎には腎の約10%程度のmessageが存在し、一部の副腎腫瘍では発現増加が疑われた(安田)。
免疫組織化学染色で、11bHSD2がヒトの腎臓に存在するが、ヘンレ系蹄には存在しない事を示唆する結果を得た。
ラットの下垂体を摘出し、遠位尿細管、集合管はコントロールとほぼ同様に染色され、下垂体摘出により影響は受けないものと考えられた(宮地)。
胎生期、腫瘍、炎症性腸疾患を含む鉱質コルチコイド標的組織である大腸上皮細胞における11bHSDの発現は胎生後期になるまで大腸上皮では発現せず、腫瘍では腺管形成を含む分化と密接な関係を示し、炎症性腸疾患ではクローン病と潰瘍性大腸炎との間で11bHSD2の発現動態に差異が認められた(笹野)。
ストレプトゾトシン糖尿病ラットで、高血糖、低インスリン血漿を認めた。また血圧の上昇を示すとともに腎臓における11bHSD2の酵素活性及び遺伝子発現は低下を示し、インスリン補充により正常化した。インスリン依存性糖尿病における高血圧の発症にはステロイド代謝異常が示唆された(五十嵐)。
MR-AF2の転写促進能を仲介するcofactorをYeast two-hybrid screeningにより検索し、SRC-1についてはAF2転写活性の増強を確認した。これらのMR転写促進系を用いて、リガンド代謝酵素である11bHSD2の遺伝子変異の機能解析への応用を試み、R208H変異で酵素活性が消失する事、患者のAMEの原因がR208H及びR337H、DY338の複合ヘテロ接合体変異である事を明らかにした(加藤)。
(4)グルココルチコイド抵抗症
グルココルチコイド抵抗性のメカニズムを、グルココルチコイド受容体(GR)の核移行をCOS7細胞において、発現したGFP-GRを使用してレドックス制御の面から解明し、GRの核移行がレドックス制御を受ける事、そして、それがグルココルチコイド応答性遺伝子発現に制御と密接にリンクする事を明確にした(田中)。
大量dexによる抑制を全く認めなかった2症例の高度のグルココルチコイド抵抗性の原因を検索するため、摘出ACTH産生下垂体腺腫内のグルココルチコイド受容体(GR)a、bのmRNAを検討し、GRa発現の低下がCushing病でみられる高度のグルココルチコイド抵抗性の原因の一つとなる可能性を示した(名和田)。
(5)副腎低形成
副腎や腺腫の機能発現と形成過程にAd4BPとDAX-1の機能をP450遺伝子の転写活性能の有無などの点から検討した。Ad4BPとDAX-1がともに副腎や性腺の機能発現には不可欠な転写因子であるが、P450遺伝子に対し正、及び負の調整を行う事、またAd4BPがDAX-1遺伝子の発現量を調節する事で負の調節の程度を調節する事を明らかにした(諸橋)。
ラットの球状帯細胞とその他の層の細胞を分離し、subtraction法により、球状帯に特異的に発現しているZog遺伝子のクローニングに成功した。胎児期及び副腎皮質再生時に球状層細胞が束状層細胞への分化する過程に伴って発現が抑制される事を見出し、その転写抑制について検討した(竹森)。
ヒトAd4BP遺伝子の転写開始点よりE box配列を含む-97~-84塩基の間で劇的な活性の低下を認め、E box配列の重要性が示唆された。女性先天性副腎低形成3症例のAd4BP遺伝子塩基配列を決定したが、変異は同定されず、さらに新しい責任遺伝子が存在する事が示唆された(後藤)。
結論

公開日・更新日

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