ホルモン受容機構異常

文献情報

文献番号
199700960A
報告書区分
総括
研究課題名
ホルモン受容機構異常
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
春日 雅人(神戸大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 女屋敏正(山梨医科大学)
  • 小西淳二(京都大学医学部)
  • 紫芝良昌(虎ノ門病院)
  • 妹尾久雄(名古屋大学環境医学研究所)
  • 對馬敏夫(東京女子医科大学)
  • 長瀧重信(放射線影響研究所)
  • 新美仁男(千葉大学医学部)
  • 松本俊夫(徳島大学医学部)
  • 水梨一利(東北大学医学部)
  • 加藤茂明(東京大学分子細胞生物学研究所)
  • 清野佳紀(岡山大学医学部)
  • 生山祥一郎(九州大学医学部)
  • 杉本利嗣(神戸大学医学部)
  • 森井浩世(大阪市立大学医学部)
  • 中村浩淑(浜松医科大学)
  • 赤水尚史(京都大学医学部)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 内分泌系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ホルモン作用機構の異常に起因すると推定される原因不明、治療法未確立で、かつ後遺症を残すおそれの少なくない疾患について、診断基準の作製、治療法の確立、さらに原因の解明を行なうことである。具体的には、(1)偽性副甲状腺機能低下症、(2)ビタミンD受容機構異常症、(3) TSH受容体異常症、(4)甲状腺ホルモン不応症を対象疾患として、(A)副甲状腺関連疾患では、(?)偽性副甲状腺機能低下症Ib型における副甲状腺ホルモン受容体遺伝子の解析、(?)副甲状腺機能低下症ならびに新生児重症副甲状腺機能亢進症における副甲状腺カルシウム感知受容体遺伝子の解析、(?)ビタミンD1α水酸化酵素のcDNAクローニングとビタミンD抵抗型クル病?型における解析、(B)甲状腺関連疾患では、(?)TSH受容機構異常症における病因の解明、(?)甲状腺ホルモン不応症における甲状腺ホルモン受容体の役割の解析、(?)バセドウ病眼症の病因とその臨床指標の解明、が本年度の主な研究課題である。

研究方法
結果と考察
結論
(A)副甲状腺関連疾患
(?)偽性副甲状腺機能低下症Ib型における副甲状腺ホルモン受容体遺伝子の解析
Gs蛋白に異常を認めない偽性副甲状腺機能低下症Ib型では副甲状腺ホルモン受容体の異常が想定され、その遺伝子のコーディングシークエンスに関して、現在迄に精力的に検討されたが変異は認められなかった。更にその2つのプロモーター領域についても検討したが遺伝子変異は認められなかった。本年度は腎特異的新しいプロモーター3を同定し、この領域の異常を5名の偽性副甲状腺機能低下症Ib型患者について検討した。その結果、この部位の検討においても疾患特異的塩基配列変異は認められなかった。従って偽性副甲状腺機能低下症Ib型は副甲状腺ホルモン受容体の遺伝子異常でない可能性が高くなってきた。
(?)副甲状腺機能低下症ならびに新生児重症副甲状腺機能亢進症における副甲状腺カルシウム感知受容体遺伝子の解析
副甲状腺カルシウム感知受容体は、細胞外カルシウム濃度を感知し、副甲状腺ホルモン分泌の調節に重要な役割を果たしている。この遺伝子の各種疾患における変異について検討した。新生児低カルシウム血症より発見された家族性副甲状腺機能低下症の2家系で、この遺伝子の788番目のPheがCysに変化している変異を認めた。この変異遺伝子を培養細胞に発現して検討した結果、この変異によりカルシウム感知受容体の機能が亢進していることが明らかとなった。すなわち、この変異は、受容体の膜貫通部位の変異であり、G蛋白との共役に変化を生じその機能が亢進し、重症(血中のCa濃度4.8-6.4mg/dl) の副甲状腺機能低下症を生じることが示唆された。一方、血中Caが上昇する新生児重症副甲状腺機能亢進症においては、185番目のArgがstop codonに、670番目のGlyがGluに変異している異常を見い出した。後者は膜貫通部位の変異であり、この変異遺伝子を培養細胞に発現して検討した結果、この変異によりカルシウム感知受容体は細胞外のカルシウム上昇を感知しえないことを見い出した。すなわち、カルシウム感知受容体遺伝子の変異により新生児重症副甲状腺機能亢進症も生じると考えられた。以上より、カルシウム・リンの調節障害のみられる症例では、本遺伝子変異のスクリーニングが今後重要と考えられた。
(?)ビタミンD1α水酸化酵素のcDNAクローニングとビタミンD抵抗性クル病?型における解析
ビタミンDはカルシウム代謝,骨代謝,免疫応答制御など多彩な生理作用を有しているが、その作用は腎臓において1α水酸化酵素により25(OH)D3から産生された活性化ビタミンD3〔1α,25(OH)2D3〕によりなされる。また、活性化ビタミンD3により1α水酸化酵素はネガティブフィードバックを受けていることも知られており、1α水酸化酵素は血中の1α,25 (OH)2D3濃度を調節する上で最も重要な酵素である。そこで本酵素のcDNAをクローニングした結果、本酵素はP450遺伝子ファミリーに属する新規の約55kDaの蛋白であることが判明した。ビタミンD抵抗性くる病?型では本酵素活性の異常が想定されており、その遺伝子変異について検討中である。
(B)甲状腺関連疾患
(?)TSH受容機構異常症における病因の解明
TSH受容体に対する抗体は、バセドウ病や一部の甲状腺機能低下症患者で認められ、その発症に関与していると考えられているが、そのエピトープに関しては不明であった。これらの患者からTSH受容体抗体の遺伝子を単離し、モノクロナル抗体を大量に産生し、そのエピトープを同定した。その結果、バセドウ病ならびに甲状腺機能低下症のいずれにおいても、そのエピトープは互いにわずかな相異を示しつつも、共に細胞外部に存在するN端側で、TSHの結合部位とも異なることが判明した。これらの病因的意義については、検討中である。
(?)甲状腺ホルモン不応症における甲状腺ホルモン受容体の役割の解析
甲状腺ホルモン受容体にはisoformが知られているが、我国も含め、現在までにその遺伝子異常が報告されているのはβ isoformのみである。そこで、C末端アミノ酸欠失を持つ変異甲状腺ホルモン受容体遺伝子α1を発現するトランスジェニックマウスを作製し、このisoformの機能につき検討した。その結果、このようなマウスの出産率が高度に低下していること、出産してきたマウスも発育不良を示したことより、甲状腺ホルモン受容体遺伝子α1の異常は致死的となる可能性が高く、そのため、α1 isoform遺伝子の異常は未だ報告されていないと推測された。またβ isoformの機能を明らかにするために、甲状腺ホルモン受容体遺伝子βのノックアウトマウスについて検討した。その結果、このノックアウトマウスでは、甲状腺ホルモンによるTSH分泌のネガティブフィードバックに障害が認められ、このisoformが甲状腺ホルモンによるTSH分泌調節に必要であることが明らかとなった。更に、肝臓におけるマリックエンザイムの転写調節はβ isoformによってのみ調節されており、isoform特異的な甲状腺ホルモン作用がはじめて明らかにされた。これらの知見は、甲状腺ホルモン不応症の病態解析に今後有用と考えられた。
(?)バセドウ病眼症の病因とその臨床指標の解明
バセドウ病眼症の病因はなお不明の点が多く、根本的治療法も確立されていない。このような眼症患者では、眼窩の脂肪組織の増大が認められる症例が存在することが報告されている。また、TSH受容体が脂肪細胞に発現し、TSHやバセドウ病患者の甲状腺刺激型抗TSH受容体抗体が脂肪細胞中のcAMPレベルを上昇させ、その増殖をひきおこすことが報告されている。本年度は、このTSH受容体遺伝子の発現調節機構を検討し、脂肪細胞と甲状腺細胞では、同じプロモーターにより転写されるが、両者では異なる転写調節機構が存在することを明らかにした。従って、脂肪細胞に特異的な転写因子の同定がバセドウ病眼症の病態解明につながる可能性が示唆されたといえる。一方、臨床的にはバセドウ病眼症患者の複視の可逆性を画像診断から予測できるか検討した。その結果、MRI-T2強調画像で全てのバセドウ病眼症患者において外眼筋肥大と外眼筋T2レベル高値を認めた。この中で、外眼筋の高信号域(T2レベル高値)の中に低信号域(T2レベル低値)が斑状に混在するものをT2パターンが不均一、混在しないものをT2パターンが均一とすると、後者ではステロイドパルス療法で全て複視の可逆的改善を認めたが、前者では複視の改善が認められなかった。すなわち外眼筋T2強調画像のパターンによって、複視のステロイド療法による可逆性を予測できる可能性が示唆された。

公開日・更新日

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