ベーチェット病

文献情報

文献番号
199700959A
報告書区分
総括
研究課題名
ベーチェット病
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
大野 重昭(横浜市立大学)
研究分担者(所属機関)
  • 猪子英俊(東海大学医学部分子生命科学系遺伝情報部門)
  • 小野江和則(北海道大学免疫科学研究所病理部門)
  • 木村穣(東海大学医学部分子生命科学系遺伝情報部門)
  • 滝口雅文(熊本大学エイズ学研究センターウイルス制御分野)
  • 藤野雄次郎(東京大学医学部附属病院分院)
  • 吉崎和幸(大阪大学健康体育部健康医学第一部門)
  • 太田正穂(信州大学医学部法医学教室)
  • 坂根剛(聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター)
  • 橋本喬史(帝京大学医学部内科リウマチ・膠原病研究室)
  • 宮田幹夫(北里大学医学部眼科学教室)
  • 望月學(久留米大学医学部眼科学教室)
  • 水木信久(横須賀共済病院眼科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 免疫疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
課題I ベーチェット病の分子遺伝学的発症機構の解析
課題II ベーチェット病の新しい薬物療法の開発
研究方法
結果と考察
課題I については、HLA クラス I 領域におけるシークエンシング解析を行い、また、MICA(MHC class I chain-related gene A), MICB(MHC class I chain-related gene B)遺伝子の多型性を解析した結果、MICAとMICB遺伝子間には明らかな連鎖不平衡は認められず、MICA~HLA-B遺伝子間に位置するマイクロサテライトMIBが本病と強く相関していた。MICB遺伝子タイピングでは、本病との有意な相関は認められなかったことより、本病発症にMICB遺伝子は直接関与しておらず、本病の原因遺伝子はMICA~HLA-B遺伝子間のマイクロサテライトMIBを頂点とした近傍領域に存在する可能性が示唆された。また,MICA及びMICB遺伝子を導入したトランスジェニックマウス(Tg)を作製し、本病の発症機構の解明を試みた.MICA導入マウスでは、成体に成長したものは皆無であった。ヒトMICB mRNA発現群では、非発現群(non-Tgを含む)に較べ、有意にその体重の減少、及び白血球の増加が認められた。ヒトMICAの過剰発現は、マウスの成長に悪影響を与える可能性が示唆され,ヒトMICBの発現は、マウスの発生に対しMICA程激甚な作用を及ぼさないが、成長及び造血系に影響を与えるようである。MICA及びMICB遺伝子はマウスにおいても存在し、進化的に保存された遺伝子であり、生体において何らかの重要な機能を担うことが推測された。一方,本病の免疫学的病態に間する研究によりベーチェット病患者T細胞は、205Kd CD45RA分子の発現亢進によりLckの制御領域が脱リン酸化され、T細胞受容体刺激伝達系の一連のリン酸化反応の制御不全があることが明らかとなった.また活動性ぶどう膜炎を有する患者群ではT細胞は活性化マーカの発現が亢進しており軽度の活性化状態にあるもののOKT-3刺激に対する反応性は低く,さらにOKT-3刺激後の抗Fas抗体によるアポト-シスの誘導が抑制されており、これが炎症の遷延化に関与している可能性が示唆された。また、患者好中球は、in vivoでTNF-αmRNAを発現し、LPS刺激により過剰なTNF-αの産生が誘導され,そのアポトーシスは抗TNF-alpha中和抗体添加で促進された。これよりベーチェット病では患者好中球自身あるいは他の免疫担当細胞が過剰産生するTNF-αにより、好中球の機能過剰のみならず寿命の延長にも関与し、primingされた好中球の異常な蓄積を引き起こすと考えられた。さらにベ-チェット病末梢血リンパ球はFasLを過剰に発現し,ベ-チェット病皮膚病変部ではFasL 陽性細胞ならびにTUNEL陽性細胞が認められたことよりベ-チェット病皮膚病変部ではFas/FasLを介したアポト-シスが起こり、病態形成において一定の関与をしている可能性が示唆された。
課題II の結果では、ぶどう膜炎の実験モデルを用いたいくつかの研究でぶどう膜炎に対する新しい薬物療法の可能性が示唆された.まず,実験的自己免疫性網膜ぶどう膜炎(EAU)において血中TNF-alpha濃度が、免疫9日以降有意に上昇し,この時期に抗TNF-alpha抗体にて治療しEAUは抑制されたことから,抗TNF-alpha抗体治療が有用である可能性が示唆された。また,エンドトキシン誘発ぶどう膜炎(EIU)に,有色家兎の眼球から分離回収した網膜色素上皮保護蛋白(RPP)をEIU硝子体内に注入し,硝子体蛋白濃度の有意差な低下と網膜における過酸化脂質量の有意差がみられたことから、EIUにおいてRPPは網膜組織障害を軽減させる作用を有し、RPPがぶどう膜炎の治療薬になる可能性が示された。さらに,実験的自己免疫性前部ぶどう膜炎に対する本邦で開発された新しい免疫抑制剤FTY720の点眼薬の効果を検討した。免疫当日からの点眼実験では、FTY720点眼群では用量依存的にぶどう膜炎の発症が抑制された。発症日から点眼した治療実験においても、FTY720点眼群はぶどう膜炎の炎症を抑制し治療効果が認められた。FTY720のぶどう膜炎に対する抑制効果は点眼した眼のみならず、点眼していない眼においても認められ、FTY720点眼群の末梢血リンパ球数は、対照群に比べ有意に低かった。以上のことからFTY720点眼薬は、実験的自己免疫性前部ぶどう膜炎の発症抑制と治療効果があるが、その効果は全身的に吸収された結果生じたものと考えられた。また、腸管ベーチェット治療を将来の目標として炎症性腸疾患のモデルマウスを用いて抗IL-6受容体抗体による治療実験を行った。Balb/c SCIDマウスにCD4+CD45RB high T細胞とIFN-γを投与し腸炎モデルマウスを作成し,抗IL-6受容体抗体を投与すると腸炎の部分的改善が見られた。この結果から,抗IL-6レセプター抗体による腸管ベーチェット治療への応用が示唆された。進行性神経ベーチェット病に対するメソトレキセート(MTX)少量パルス療法を8例の患者に行い、髄液IL-6の低下がみられたことから、中枢神経内の免疫反応を抑制することが明らかになった。3例で若干の進行が認められたものの、全体としてはIQ値やMRIの有意の変動は見られず、その有効性に十分期待がもたれた。
以上の結果より、本病.発症の原因遺伝子および免疫学的病態の解明が進み、またいくつかの薬物が本病の新しい治療法として応用できる可能性が示唆された。
結論

公開日・更新日

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更新日
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