自己免疫疾患

文献情報

文献番号
199700958A
報告書区分
総括
研究課題名
自己免疫疾患
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
宮坂 信之(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 小池隆夫(北海道大学)
  • 加藤智啓(聖マリアンナ医科大学)
  • 上阪等(東京医科歯科大学)
  • 竹内勤(埼玉医科大学)
  • 広瀬幸子(順天堂大学)
  • 坂根剛(聖マリアンナ医科大学)
  • 田中良哉(産業医科大学)
  • 鍔田武志(東京医科歯科大学)
  • 原まさ子(東京女子医科大学)
  • 平形道人(慶応大学)
  • 西本憲弘(大阪大学)
  • 江口勝美(長崎大学)
  • 橋本博史(順天堂大学)
  • 松下祥(熊本大学)
  • 簑田清次(自治医科大学)
  • 菅井進(金沢医科大学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 免疫疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
自己免疫疾患の中でも、全身性エリテマト-デス(SLE)、多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)、シェ-グレン症候群(SS)の3疾患に研究対象を絞り、これらの難治性病態の成立機序の解明と新たな治療法の開発を行うことを目的とする。
研究方法
主として免疫学的手法及び分子生物学的手法を主な研究手法とし、動物モデルや患者由来の血清、細胞などを用いてT細胞レセプタ-分子、表面抗原、接着分子、サトカイン、アポト-シス、トレランス、自己抗原エピト-プなどの面からin vivo およびin vitroにおいて多角的に解析を行う。また、臨床症例の解析から、難治性病態の疾患活動性の指標の探索、難治性病態の新たな治療法の開発もあわせて行う。
結果と考察
SLEにおける過剰な抗DNA抗体産生機構を解析する目的で、多角的な検討が行われた。まず、竹内はSLE患者T細胞シグナル伝達機構について解析を行い、1)CD3架橋後のTCRζ鎖チロシンリン酸化はSLE患者で有意に低下していること、2)SLE患者T細胞のTCRζ鎖発現は有意に低下していること、3)TCRζ鎖遺伝子の解析ではITAM3及びその直前のGTP/GDP結合部位の変異/欠失が認められること、を明らかにし、SLE患者T細胞シグナル伝達機構の異常にTCRζ鎖の遺伝子レベルでの異常が深く関与していることを世界に先駆けて初めて明らかにした。加藤はSLE患者T細胞クロナリティを急性増悪前後で経時的に解析し、急性増悪では新たなクロ-ンが出現し、病態形成に関与している可能性を示唆した。上阪はSLE患者CD8陽性T細胞では疾患活動性にかかわらずNKB1陽性細胞が減少しており、このサブセットに属する細胞は細胞傷害性分子を発現するエフェクタ-CD8細胞であることから、SLEの発症にNKB1分子の低発現が関与する可能性を示唆した。田中は皮膚病変を有するSLE患者では末梢血T細胞のうち、Th2,Tc2がCLAを高発現することにより皮膚内皮細胞と高接着して皮膚に浸潤する可能性を提唱した。
SLEB細胞の面からの解析では、坂根はSLE患者では陽性荷電抗DNA抗体産生におけるレセプタ-エディティングの異常があり、これが過剰な抗DNA抗体産生に寄与している可能性を推測した。広瀬は自己抗体産生B1陽性細胞(CD5陽性)のアポト-シスに対する抵抗性をヒト臍帯血を用いて検討し、B1陽性細胞にはFas発現が異なる2群が存在し、Fas低発現細胞はアポト-シス抵抗性であることを初めて明らかにした。自己抗体に関する研究では、加藤がT細胞活性化に重要な関与をしているcostimulatory molecules であるCTLA-4(CD152)に対する自己抗体がSLEを始めとする各種自己免疫疾患患者で検出されることを明らかにし、本抗体の存在が生体内における免疫応答に影響を及ぼし病態を修飾する可能性を報告した。
アポト-シスに関する研究では、橋本はステロイド治療に抵抗性のSLE患者T細胞はin vitroにおいてもステロイドによってアポト-シスが誘導されにくく、これはBcl-2 を発現増強しているCD8陽性T細胞が主体であることを明らかにした。坂根はSLE患者でFasリガンドに対する自己抗体が検出されることを報告し、本抗体の認識するエピト-プの解析を行った。鍔田はすでにSLEモデルマウスB細胞はB細胞レセプタ-架橋によって誘導されるアポト-シスに抵抗性であることを報告しているが、今回はB細胞アポト-シスに対するc-Myc とp53 の影響を解析し、c-Myc の過剰発現はB細胞アポト-シスを増強するが、この過程にはp53 は関与していないことを報告した。宮坂は自己免疫疾患モデルにおける経口寛容成立での粘膜組織特異的接着分子MAdCAM-1の関与を検討する目的でラットMAdCAM-1遺伝子の単離とモノクロ-ナル抗体の作製に成功し、これを用いて今後の検討を行うことを報告した。
抗リン脂質抗体症候群(APS)はSLEに合併することが多く、難治性病態として知られるが、小池は病態形成に関与していることが推測されている抗カルジオリピン抗体が認識するアミノ酸配列をファ-ジランダムペプチドライブラリ-を用いて同定した。また、APS患者血漿中のエンドセリン1(ET-1)を測定し、動脈血栓の既往のある患者では血清ET-1値が上昇していること、ヒトモノクロ-ナル抗カルジオリピン抗体は血管内皮細胞からのET-1産生を促進することを明らかにした。松下はβ2-glycoproteinIに特異的なT細胞株の樹立とエピト-プ解析に応用するために自己反応性T細胞株の効果的な樹立方法について検討し、抗CD29抗体による刺激が有用であることを明らかにした。
西本はメサンギウム細胞増殖性腎炎を自然発症するIL-6トランスジェニックマウスを用いて抗IL-6レセプタ-抗体の抗腎炎作用を検討し、本抗体が腎炎の発症を阻止すること、ル-プス腎炎患者尿中にはIL-6が検出されることから、ル-プス腎炎に対する抗IL-6レセプタ-抗体の応用の可能性を提唱した。簑田は、リンパ球誘導作用を有する免疫抑制剤FTY720のル-プスマウスに対する治療効果を検討し、リンパ節増殖抑制と生存率の延長がみられることを報告した。
PM/DM患者は臨床的多様性を示すことが知られているが、平形は筋炎患者の中で抗Signal Recognition Particle (SRP)抗体を有する患者の臨床的特徴を解析し、本抗体を認める患者群はステロイド抵抗性筋炎が特徴的であり、その免疫学的多様性とHLAクラスII遺伝子との関連性を示唆した。原は膠原病に合併した間質性肺炎症例における血清KL-6値の臨床的意義について検討し、血清KL-6値は膠原病に合併する間質性肺炎に対する診断のみならず、活動性及び重症度のマ-カ-として有用であることを報告した。また、膠原病に合併した間質性肺炎に対するシクロスポリン(CyA)療法に関する全国調査(びまん性肺疾患分科会との協同研究)の結果を解析し、CyAがきわめて有効であり、特にPM/DMに合併した間質性肺炎の治療にきわめて高い有効性を示すことを世界に先駆けて初めて明らかにした。
菅井はSSにおけるリンパ増殖性病変の好発の原因を調べる目的でVκ germline 遺伝子再構成を検討し、SS患者でVg遺伝子が高率に再構成していることを明らかにした。江口はSS患者口唇唾液腺におけるアポト-シスについて検討し、導管破壊機序としてFas及びFasリガンドを介するアポト-シスの関与を示唆した。また、SS患者に抗HTLV-1抗体陽性者が高率にみられることからHTLV-1Taxの抗アポト-シス作用について検討し、HTLV-1TaxはNF-κBの活性化により、caspase-3 の活性化抑制を介して抗アポト-シス作用を示すことを明らかにした。
結論
SLE、PM/DM、SSの3疾患の難治性病態形成に関与する分子群、細胞間相互作用の存在が明らかになりつつある。これらを人為的に制御することにより、難治性病態の新たな治療法となりうることが推測される。実際に、PM/DMを始めとする各種膠原病に合併する間質性肺炎に対する治療としてシクロスポリンが応用され、当分科会を中心にして行われた全国調査の結果、本剤が膠原病に合併する間質性肺炎の治療薬剤としてきわめて高い有効性を有することが明らかにされた。今後、さらに難治性病態に対する新たな治療法の開発を目指したい。

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