難治性血管炎

文献情報

文献番号
199700957A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性血管炎
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 博史(順天堂大学膠原病内科)
研究分担者(所属機関)
  • 小出純(埼玉医科大学総合医療センター)
  • 小林茂人(順天堂大学)
  • 居石克夫(九州大学)
  • 鈴木和男(国立感染症研究所)
  • 中島伸之(千葉大学)
  • 沼野藤夫(東京医科歯科大学)
  • 安田慶秀(北海道大学)
  • 由谷親夫(国立循環器センター)
  • 吉木敬(北海道大学)
  • 吉田雅治(東京医科大学八王子医療センター)
  • 中林公正(杏林大学)
  • 尾崎承一(京都大学)
  • 亀山香織(慶応大学)
  • 鈴木登(聖マリアンナ医科大学)
  • 寺嶋一夫(順天堂大学)
  • 松岡康夫(川崎市立川崎病院)
  • 吉田俊治(藤田保健衛生大学)
  • 東みゆき(国立小児病院)
  • 西村泰治(熊本大学)
  • 能勢眞人(愛媛大学)
  • 簑輪眞澄(国立公衆衛生院)
  • 安河内幸雄(東京医科歯科大学)
  • 松本美富士(名古屋市立大学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 免疫疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治性血管炎の成因と病態発症機構を明らかにし、その成果を臨床的診断と治療に還元し、患者のQOLの向上を図ることを目的とする。研究の対象疾患は、高安動脈炎(大動脈炎症候群、TD)、バージャー病、側頭動脈炎、結節性多発動脈炎(PN)、ウェゲナー肉芽腫症(WG)、アレルギー性肉芽腫性血管炎(AGA)、抗好中球細胞質抗体関連血管炎(ANCA関連血管炎)、悪性関節リウマチ(MRA)、抗リン脂質抗体症候群(APS)である。
研究方法
重点課題をかかげ小委員会を設置し以下の如く研究を進めた。(1) 難治性血管炎の成因と病態発症機構の究明(動物モデル、病因に関する小委員会)。血管炎のin vitro, in vivoのモデルおよび新鮮人材料を用い、血管炎感受性遺伝子座の同定、遺伝子導入による病態発症機構の解析、血管障害制御分子の同定などの検討を行った。(2) ANCA関連血管炎の病態発症機序と治療法の開発(ANCAに関する小委員会)。遺伝子組み換えプロテナーゼ3(PR3)を用いたPR3-ANCA血清との反応性、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)断片パネルを用いたMPO-ANCAエピトープの解析、患者末梢血B細胞からのモノクローナルMPO-ANCAの樹立、血管内皮細胞上のANCAとサイトカインの発現、PR3とMPO以外のANCAについての臨床的意義などの検討を行った。(3) 難治性血管炎の疫学、予後、QOLに関する研究(大型血管炎ならびに中・小型血管炎の小委員会)。ANCA関連血管炎、APS、側頭動脈炎について難病の疫学調査研究班との共同研究で全国疫学調査を実施した。TDでは、都道府県に登録されている患者調査票を基に全国の実態調査を行う。PN、WG、AGA、MRAについて予後と免疫療法に関する実態調査を行う。
大型及び中・小型血管炎のQOL評価法の作成をFS-36を基盤において検討した。(4) 難治性血管炎の診断基準と治療指針に関する研究(大型血管炎ならびに中・小型血管炎の臨床に関する小委員会)。大型血管炎については、TDとバージャー病の重症度分類を検討した。中・小型血管炎では、現在提唱されているPN、WG、AGAの診断基準の感度と特異度の検討を行うとともに、これらの疾患の重症度分類を検討した。
結果と考察
膠原病疾患群を自然発症するMRL/Mp-lpr/lprマウスについてその病態発症に関わる遺伝子をマイクロサテライトマーカーを用いて検討すると、血管炎感受性遺伝子座の少なくともそのひとつが第4染色体の35cMにマップされ、他の病態と遺伝的に分離されることが示された。血管炎をはじめとする自己免疫疾患を自然発症するHTLV-1LTR-env-pX遺伝子導入ラット(env-pXラット)を用い、血管炎の病因がリンパ球側にあるのか標的細胞側にあるのかを解析するために骨髄細胞および脾細胞の移入実験を行った。その結果から、env-pXラットの胸腺の異常で血管炎惹起性の自己反応性T細胞がpositive selectionされている可能性があることが示唆された。NZB/WF1マウスもpANCAの病原性を解析するモデルとなることが明らかにされた。血管壁障害修復過程における平滑筋細胞の動態を解析する目的で、G1期停止とアポトーシス誘導に関与する野生型(wt)p53機能をin vitro、in vivoで検討した。遺伝子導入されたウシ平滑筋細胞はPDGF刺激後もS期移行が有意に抑制され、adriamycin併用によってアポトーシスによる細胞数の減少が誘導された。これにより、血管内膜肥厚の抑制機序におけるp53遺伝子の重要性が示され、将来の遺伝子治療の可能性を示唆した。TDでは、抗内皮細胞抗体の陽性率が高いことが示された。血管炎にみられる好中球浸潤の程度に応じMMP-9の活性が促進される傾向がみられた。血管内皮E-セレクチンの細胞内リン酸化は白血球の接着によって調節を受けていることが示唆された。また、MRA,RA患者血清IgGは好中球のL-セレクチンをdown-regulateし、CD11b/CD18をup-regulateした。抗原ペプチド遺伝子の導入によるHLAクラスIIを介したCD4+T細胞への抗原提示システムの開発の可能性が示された。スーパー抗原を介するT細胞活性化と通常のペプチド抗原を介する抗原刺激によるT細胞活性化では細胞表面分子の関与に相違が認められることが示された。
患者末梢血B細胞から少なくとも数種類の抗MPO人モノクローナル抗体産生クローンが樹立された。患者cANCA陽性血清はPR3の酵素活性に対する影響から少なくとも3群に分けられることが示唆された。MPO断片パネルを用い患者血清のANCAエピトープ解析を行った結果、病態と関連するものはMPO分子のH鎖のNあるいはC末端に反応性が高い。さらに、微量のフラグメントを用いたエピトープ解析用のELISAの系を確立した。HUVECを用いて難治性ANCA関連血管炎の患者血清ないしIgGを添加するとIL-1αの発現を認め、特にTNFα添加後にconstitutiveな発現を認めた。HMG1/2は好中球において独特な存在様式が示唆され、pANCAの対応抗原であることが確認されているが、本抗体はAGAで陽性率が高いものの他疾患におけるpANCAの陽性率と必ずしも相関しない。エラスターゼ、カテプシンなどに対する他のANCAの存在も示された。
TDではHLA-B52とB39が密接に関連し、特に後者は腎血管病変を有する症例に多い。現在特定疾患に認定され医療補助を受けている4,809名のTDの患者について実態調査をすべく調査票を作成した。前回施行されたバージャー病の疫学調査の解析では、罹患動脈は下肢のみが最も多く、全体として発生頻度は従来の報告よりも低い。現在、難病の疫学調査研究班との共同研究でANCA関連血管炎症候群、側頭動脈炎、APSの全国疫学調査を実施している。また、PN、WG、AGAの3疾患の予後と免疫抑制療法に関する全国調査を実施中である。中・小型血管炎のQOL評価表を作成し、予備調査を行っている。大型血管炎の診断と治療に関しては、経食道エコー法によるTDの動脈瘤の組織診断の可能性、バージャー病における抗血小板療法と血小板機能との関連、TDにおける胸部大動脈瘤の手術適応時期などについて報告された。TDの重症度分類(案)を作成したが、他の疾患についても作成中である。1996年度に改訂された古典的PN、WG、AGAの診断基準は、特異度に優れていたが感度が低く改良の必要があると考えられた。一方、顕微鏡的PNとMRAは感度、特異度ともに優れ、その妥当性を確認した。
結論
血管炎の動物モデルにおいて、血管炎責任遺伝子の同定、血管炎における標的細胞側とエフェクター細胞側の遺伝子発現による病態への関与、G1期停止とアポトーシス誘導に関与する遺伝子導入による動脈内膜肥厚の抑制などを明らかにした。ANCA関連血管炎では、患者末梢血B細胞からの抗MPOモノクローナル抗体産生クローンを樹立し、病態に関連するMPO-ANCAのエピトープの解析とエピトープ解析用のELISA系を確立した。ANCA関連血管炎症候群、側頭動脈炎、APSの全国疫学調査を実施中である。PN、WG、AGAの3疾患の予後と免疫抑制療法に関する全国調査を進めており、これらの疾患のQOL評価表を作成した。TDに関しては特定疾患に認定されている全国の患者を対象に実態調査を予定している。当分科会が担当している特定疾患について重症度分類を作成中で、TDについては案を提示した。古典的PN、WG、AGAの診断基準の見直しが必要である。

公開日・更新日

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