新世代人工内耳に対応した内耳薬剤徐放技術の開発

文献情報

文献番号
201122047A
報告書区分
総括
研究課題名
新世代人工内耳に対応した内耳薬剤徐放技術の開発
課題番号
H22-感覚・若手-006
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 弥生(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 坂本 幸士(東京大学 医学部附属病院)
  • 狩野 章太郎(東京大学 医学部附属病院)
  • 松本 有(東京大学 医学部 臨床医工学部門 )
  • 樫尾 明憲(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
2,348,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人工内耳は20世紀最高の発明とも言われ、最も成功した人工臓器のひとつである。1970年代の実用化以降、単チャンネルからマルチチャンネルへ、スピーチプロセッサのIC化といった様々な改良がなされてきたが、近年になり大きなパラダイム・シフトが起きている。それは、人工内耳自体の性能向上に沿った中等度難聴への適応拡大・両耳装用、さらには人工内耳と補聴器の併用(EAS)などに代表される「人工内耳治療の普遍化」である。EASは欧州ではすでに10年前より臨床での使用が始まっているが、日本でも2010年に厚生労働省「高度医療評価会議」で承認され、普及への第1歩を踏み出した。
 しかしながら、こうした新世代人工内耳に対応した内耳保護技術は必ずしも充分ではない。EASを行うためには残存聴力の温存が必須であるが、電極挿入により起こる内耳組織破壊・繊維化などのために不可逆的に喪失してしまうことが多い。したがってより安全で低侵襲な人工内耳手術術式を開発するとともに、手術時には繊維化を防ぎ、蝸牛細胞を保護・再生する薬剤を内耳局所に投与することが望まれている。
 本研究ではこれまで習得した内耳薬剤徐放技術・アポトーシス防止技術を統合して内耳薬剤徐放機能を備えた低侵襲型人工内耳を開発、人工内耳埋込時に起きる組織損傷を極限まで抑える技術を開発する。
 さらにこの技術が完成すれば、人工内耳治療に限らず突発性難聴や進行性難聴などの様々な内耳疾患の普遍的な治療法として応用が期待できると考えられる。
研究方法
生体適合性を持つ3つの材料につき、ダミー人工内耳を作成、以下の試験を行って内耳薬剤徐放材料としての性能を検証した。・電極コーティングの特性検査(光学顕微鏡・電子顕微鏡検査)・通電検査(音響インピーダンス検査・サイクリックボルタンメトリー・電気化学インピーダンス・スペクトロスコピー・繰り返し通電検査・一過性電位測定) ・耐損傷検査(電子顕微鏡)。さらに選んだ人工材料を用いて、齧歯類モデルでの動物実験を行った。
結果と考察
3種の材料を検討し、製品の形状や特性、加工の容易性などから最終的にポリマーゲルを選定、動物実験用薬剤徐放電極を作成した。動物実験ではコートした電極がモルモット内耳に強い炎症反応を惹起しないこと、また、電極挿入の容易さを容易になることを確認した。
結論
本研究課題では、研究代表者らが有するバイオマテリアル技術および内耳アポトーシス予防技術を統合し、薬剤徐放機能付き人工内耳などの新たな内耳治療手技の開発を行った。今後、徐放性能の最適化および臨床試験への準備を進めて行く。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201122047B
報告書区分
総合
研究課題名
新世代人工内耳に対応した内耳薬剤徐放技術の開発
課題番号
H22-感覚・若手-006
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 弥生(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 坂本 幸士(東京大学 医学部附属病院)
  • 狩野 章太郎(東京大学 医学部附属病院)
  • 松本 有(東京大学 医学部 臨床医工学部門)
  • 樫尾 明憲(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人工内耳は20世紀最高の発明とも言われ、最も成功した人工臓器のひとつである。1970年代の実用化以降、単チャンネルからマルチチャンネルへ、スピーチプロセッサのIC化といった様々な改良がなされてきたが、近年になり大きなパラダイム・シフトが起きている。それは、人工内耳自体の性能向上に沿った中等度難聴への適応拡大・両耳装用、さらには人工内耳と補聴器の併用(EAS)などに代表される「人工内耳治療の普遍化」である。EASは欧州ではすでに10年前より臨床での使用が始まっているが、日本でも2010年に厚生労働省「高度医療評価会議」で承認され、普及への第1歩を踏み出した。しかしながら、こうした新世代人工内耳に対応した内耳保護技術は必ずしも充分ではない。EASを行うためには残存聴力の温存が必須であるが、電極挿入により起こる内耳組織破壊・繊維化などのために不可逆的に喪失してしまうことが多い。したがってより安全で低侵襲な人工内耳手術術式を開発するとともに、手術時には繊維化を防ぎ、蝸牛細胞を保護・再生する薬剤を内耳局所に投与することが望まれている。本研究ではこれまで習得した内耳薬剤徐放技術・アポトーシス防止技術を統合して内耳薬剤徐放機能を備えた低侵襲型人工内耳を開発、人工内耳埋込時に起きる組織損傷を極限まで抑える技術を開発する。さらにこの技術が完成すれば、人工内耳治療に限らず突発性難聴や進行性難聴などの様々な内耳疾患の普遍的な治療法として応用が期待できると考えられる。
研究方法
ゼラチン・ハイドロゲルなどの生体適合性を持つ4種の材料につき、ダミー人工内耳を作成、以下の試験を行って内耳薬剤徐放材料としての性能を検証した。・電極コーティングの特性検査・通電検査・耐損傷検査(電子顕微鏡) さらに選んだ人工材料を用いて、齧歯類モデルでの動物実験を行った。
結果と考察
4種の材料を検討し、製品の形状や特性、加工の容易性などから最終的にポリマーゲルを選定、動物実験用薬剤徐放電極を作成した。薬剤徐放が可能であることを確認し、動物実験ではコートした電極がモルモット内耳に強い炎症反応を惹起しないこと、また、電極挿入が容易になること、および薬剤徐放電極では有意に電極挿入時以降の聴力の回復が早いことを確認した。
結論
本研究課題では、研究代表者らが有するバイオマテリアル技術および内耳アポトーシス予防技術を統合し、薬剤徐放機能付き人工内耳などの新たな内耳治療手技の開発を行った。今後、徐放性能の最適化および臨床試験への準備を進めて行く。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201122047C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ハイブリッド型人工内耳は人工内耳と補聴器を組み合わせた機器として開発された。高周波音は蝸牛に挿入した電極から電気信号として聴神経に伝え、低周波音は外耳道に挿入する補聴器のような部分から鼓膜に伝える。これを実現するには、人工内耳埋込術後の急性期の蝸牛障害を予防し、蝸牛を保護して残存聴力を温存する技術の開発が必須である。
 本研究課題では、研究代表者らが有するバイオマテリアル技術および内耳アポトーシス予防技術を統合し、薬剤徐放機能付き人工内耳などの新たな内耳治療手技の開発を行った。
臨床的観点からの成果
海外ではハイブリッド型人工内耳も使用されはじめており、騒音下での聴取能力の向上が報告されている。 本邦では近い将来に認可が下りることが想定されているが、本邦での施行例は少ないのが現状である。我々は東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科において、東京大学医学部臨床試験審査委員会の承認を受け、成人患者を対象にハイブリッド型人工内耳装用の臨床試験を開始した。
ガイドライン等の開発
ハイブリッド型人工内耳の臨床例を蓄積し、その後の経過を追跡ことにより、どのような患者にハイブリッド型人工内耳が最も適しているかのガイドラインを策定できる可能性がある。
その他行政的観点からの成果
難聴による社会経済上の損失を補償:米国での調査では、高度難聴者が世帯主の家庭は軽度難聴者の家庭に比べ年間収入が$12,000(約132万円)少ない。こうした聴覚障害のマクロ経済に対する影響は、全国の世帯収入減が1,220億ドル、これに伴う連邦の税収入減が180億ドルと計算されている。したがってより高性能で適応範囲が広い人工内耳を開発し中高度難聴者を救済することは社会経済上充分に意味のあることと考えられる。
その他のインパクト
内耳再生医療への展開:内耳への遺伝子導入、幹細胞治療の研究が現在盛んに行われているが、今回の人工内耳電極による薬剤徐放システムを内耳への幹細胞供給源として用いればこのような内耳再生医療にも応用できる可能性がある。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
14件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201122047Z