原発性免疫不全症候群

文献情報

文献番号
199700956A
報告書区分
総括
研究課題名
原発性免疫不全症候群
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小宮山 淳(信州大学小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 小林邦彦(北海道大学小児科)
  • 近藤直実(岐阜大学小児科)
  • 今野多助(東北大学加齢医学研究所)
  • 辻芳郎(長崎大学小児科)
  • 布井博幸(熊本大学小児科)
  • 眞弓光文(福井医科大学小児科)
  • 矢田純一(東京医科歯科大学小児科)
  • 宮脇利男(富山医科薬科大学小児科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 血液系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
原発性免疫不全症候群の疫学調査、病因および病態の解明、新しい診断法や治療法の開発などを目標に、昭和49年の研究班発足からの研究を継続し発展させてきている。
近年、原発性免疫不全症候群の数種疾患では責任遺伝子が解明され、確定診断に大きく貢献している。その結果、一段と正確な疫学調査が可能となった。また、責任遺伝子を活用した診断は、疾患のスクリーニングや保因者診断への応用が期待される。さらに、責任遺伝子の変異が病態発症に関わる機構の解明は、疾患の理解を深め、適切な治療法を開発する上にきわめて重要な情報を提供するものと思われる。したがって、原発性免疫不全症候群に包括されるさらに多くの疾患についても責任遺伝子が明らかにされ、それらが臨床的に活用されていくことが望まれる。
原発性免疫不全症候群の多くの疾患は適切な治療なくしては致死的であり、治療法の一層の改良とともに新しい治療法の開発は強く待たれるところである。治療法が進歩し予後は改善されつつあるが、患者の多くが生活の質(QOL)に関する諸問題を抱えていることも事実である。患者QOLについての調査と対策も重要な課題であろう。
本研究班では、これらの点を踏まえて次の事項を重点目標とした。
1.疫学調査研究
免疫不全症候群の臨床像は多彩であり、診断に苦慮することは稀でないが、数種疾患では遺伝子診断の導入によって正確な診断が可能となってきた。全国的な疫学調査を継続し、免疫不全症候群の正確なデータを集積していく。
2.責任遺伝子の解明と遺伝子診断法の確立
責任遺伝子が判明している疾患については、責任遺伝子の変異が病態発現に関わる機構を解明する。また、臨床的に有用な遺伝子診断法を確立してスクリーニング、保因者診断などに応用していく。
原発性免疫不全症候群には30種類を超える多くの疾患があり、その大多数ではまだ責任遺伝子が解明されていない。そこで、これらの疾患についても責任遺伝子の解明に努める。
3.治療法の改良と新しい治療法の開発
骨髄移植の適応拡大などを検討するとともに、遺伝子治療開発に向けて基礎的研究を進める。
患者のQOLをさらに向上させるべく、日常的な治療や管理の一層の改良を図る。

研究方法
結果と考察
結論
研究成果
1.疫学調査研究
1)発生頻度
全国調査登録を継続し、新規に男9例、女2例が登録された。その結果、平成10年1月15日現在の登録総数は1,117名となり、内訳では男803名(71.9%)、女314名(28.1%)となっている。
2)遺伝子診断の実情
X連鎖重症複合免疫不全症、X連鎖無ガンマグロブリン血症、X連鎖高IgM症候群、Wiskott-Aldrich症候群、Ataxia-telangiectasiaの5疾患については、すでに遺伝子診断が可能となっており、その実施状況について調査を行った。
これら5疾患の109例についてアンケート調査し、70例の回答が得られ、41例(58.6%)で遺伝子診断の実施が確認された。疾患別の実施状況では、X連鎖重症複合免疫不全症12例中7例(58.3%)、X連鎖無ガンマグロブリン血症29例中18例(62.1%)、X連鎖高IgM症候群9例中6例(66.7%)、Wiskott-Aldrich症候群13例中9例(69.2%)、Ataxia-telangiectasia7例中1例(14.3%)となっている。前年度の調査以降に追加された症例は、X連鎖重症複合免疫不全症の1例とX連鎖無ガンマグロブリン血症の5例のみであった。
本研究班としても遺伝子診断の普及に積極的に取り組み、診断のレベルアップを図っていくべきであろう。
2.遺伝子診断法の確立
1)X連鎖無ガンマグロブリン血症
Btk(Bruton'styrosine kinase)遺伝子の変異によるB細胞の分化障害に基づく疾患である。Btk蛋白が減少ないし消失することから、単球上の本蛋白発現をフローサイトメトリーで解析する方法を開発し、日常診療への応用を可能にした。これまでに遺伝子解析にて確定診断された36例に本法を施行し、大多数例(98%)においてBtk蛋白の低下または欠損を証明できた。本法によって、新たな症例を見いだした。患者の母親についての検索から、保因者ではBtk発現がモザイクパターンを示すことを明らかにした。
2)Wiskott-Aldrich症候群
本疾患では、WASP遺伝子変異によってWAS蛋白に異常が起こる。WAS蛋白をWestern blot analysisで検出する方法の診断的有用性を検討した。8例から得たEBV-芽球化B細胞株について、抗WASPモノクローナル抗体を用いてWestern blot analysisを行ったところ、全例においてWAS蛋白の異常が認められた。本法はスクリーニングに有用であり、さらに簡便な方法としてフローサイトメトリー法へ応用していきたい。
3.責任遺伝子と病態の解明
1)X連鎖重症複合免疫不全症
責任遺伝子はγc鎖遺伝子であり、γc鎖はIL-2、4、7、9、15レセプターに共有される。本疾患の発症にいずれのシグナル伝達障害が最も関与するのかについて検討した。患者から単離した変異γc鎖を、γc鎖を発現していないT細胞株にIL-7レセプターα鎖とともに遺伝子導入し、サイトカインに対する反応性をみた。その結果、この変異γc鎖を発現したT細胞株では、IL-2およびIL-15に比し、IL-7によるシグナルが減弱していた。したがって、本疾患の発症にはγc鎖を介したIL-7シグナル伝達障害が重要な役割を担っていることが示唆される。
2)X連鎖無ガンマグロブリン血症
責任遺伝子Btkが関与するシグナル伝達機構やその相互作用する分子を解明する一助として、Btkのチロシンキナーゼとしての基質特異性を検索した。その結果、Btk依存的なWASP(Wiskott-Aldrich症候群の責任遺伝子)のリン酸化を解析することによって、Btkの生理的基質特異性について新知見が得られた。またB細胞抗原レセプターのクロスリンクによってWASPがチロシンリン酸化されることを明らかにし、WASPと非レセプター型チロシンキナーゼの新しいリンクの可能性を示した。
3)高IgM症候群
高IgM症候群の中に女性例が存在することが知られているが、その病因や病態は不明である。10例の女性例について、B細胞のCD40刺激に対する反応性とT細胞のCD40リガンドの発現を検討した。患者のB細胞は、抗CD40抗体とIL-4刺激による増殖反応とIgE産生能において多彩な異常を示した。活性化T細胞のCD40リガンドの発現は一部の症例で低下していた。X染色体と14番染色体の相互転座によってCD40リガンド遺伝子が断裂し、RNAのエクソン4以降に未知の配列が続き、genomic DNAのイントロン4に断裂点があることが判明した。したがって、女性の高IgM症候群はCD40シグナル伝達の多彩な異常とCD40リガンド遺伝子の欠陥に起因することが明かとなった。
X連鎖高IgM症候群では好中球減少症が高頻度に合併するが、その成因は不明である。新鮮凍結血漿の投与によって好中球減少症が回復する症例の経験から、投与血漿中の可溶性CD40リガンドによる好中球産生亢進の可能性につき検討した。CD34+造血幹細胞は種々の造血因子存在下でCD40を発現し、可溶性CD40リガンドの作用によって増殖と好中球系への分化が誘導されることがわかった。
4)IgG2欠乏症
本疾患はIgGサブクラス欠乏症の一つで、中耳炎や下気道感染を反復する。血清IgG2値が測定感度以下の兄弟例において、1793insGという遺伝子変異を初めて同定した。この変異によって膜型IgG2重鎖はフレームシフトをきたし、Mエクソンにコードされる膜貫通ドメインや細胞内ドメインを完全に失い、異なるアミノ酸配列となることを見いだした。また、この解析に用いた方法は、IgG2欠乏症の解析に広く利用できるものであることを示した。
5)CD8欠損症
CD8欠損を伴う複合型免疫不全症は、T細胞レセプターからのシグナル伝達に関わるチロシンキナーゼの一つであるZap-70の異常によって起こる。本疾患の本邦第1例を経験し、Zap-70蛋白発現の欠失を証明するとともに、Zap-70遺伝子に2か所の点変異を見いだした。現在、Zap-70遺伝子とZap-70蛋白異常との関連について検討中である。
6)重症蚊アレルギーにおけるEBV特異的細胞性免疫障害
本疾患ではEBV感染NK細胞増多があり、その病理的意義が注目されている。患者からIL-2依存性のNK細胞株を樹立し、EBV特異的キラーT細胞活性につき検討した。その結果、本疾患ではEBV特異的キラーT細胞の誘導がさまざまなステップで障害されていることを明らかにした。
3.治療法の改良と新しい治療法の開発
1)骨髄移植の適応拡大
DiGeorge症候群で骨髄移植を施行し、免疫能の回復を確認している。したがって、本疾患の治療法の一つとして骨髄移植が有効であることを実証した。
Chediak-Higashi症候群で非血縁者間骨髄移植を行い、血液・免疫学的改善をみている。本疾患では、患者のほとんどが白血球異常に起因する血球貪食症候群によって死亡する。したがって、骨髄移植による正常血球造血能の構築は予後を著しく改善するものと期待される。
2)患者QOLの改善
当研究班の班会議において、「先天性免疫不全症患者と家族の会」の代表者から、患者QOLに関する報告を得た。患者QOLの実情を把握し、改善に向けて努力していきたい。

公開日・更新日

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