小児Auditory Neuropathyの診療指針の確立

文献情報

文献番号
201122025A
報告書区分
総括
研究課題名
小児Auditory Neuropathyの診療指針の確立
課題番号
H21-感覚・一般-003
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
松永 達雄(独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター 聴覚・平衡覚研究部 聴覚障害研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 泰地 秀信(国立成育医療研究センター耳鼻咽喉科)
  • 守本 倫子(国立成育医療研究センター耳鼻咽喉科)
  • 坂田 英明(目白大学言語聴覚学科、埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科)
  • 浅沼 聡(埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科)
  • 仲野 敦子(千葉県こども病院耳鼻咽喉科)
  • 小渕 千絵(国際医療福祉大学言語聴覚学科)
  • 小河原 昇(神奈川県立病院機構神奈川県立こども医療センター耳鼻咽喉科)
  • 益田 慎(広島県立広島病院小児感覚器科)
  • 杉内 智子(関東労災病院耳鼻咽喉科)
  • 新田 清一(済生宇都宮病院耳鼻咽喉科)
  • 南 修司郎(独立行政法人国立病院機構東京医療センター耳鼻咽喉科)
  • 加我 君孝(独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
12,705,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Auditory Neuropathy(AN)は、他の感音難聴と比べて著しく言語聴取力が低く、小児では補聴器を装用しても言語獲得が困難な難聴である。また通常の感音難聴と異なる多様な組み合わせの聴覚検査所見を呈するために診断および聴覚評価が困難である。本研究では日本人小児ANの有病率と要因、臨床的特徴、リハビリテーション効果を解明し診療指針を確立することを目的とした。
研究方法
本研究では、小児ANについて、1) 有病率と発症要因、2) 難聴の臨床的特徴および遺伝子変異、3) 言語発達を明らかにして診療指針を作成した。有病率は、横断研究により研究期間中の小児難聴の確定数とAN確定数から、発達時期別に決定した。ANの発症要因、難聴の臨床的特徴、言語発達および遺伝子変異はケースコントロール研究により決定した。
結果と考察
小児難聴を専門とする耳鼻咽喉科外来を受診する日本人小児難聴でのANの有病率は約3.8%と推定された。AN診断例の86.4%は3才6ヵ月未満の受診であり、特に乳幼児での鑑別診断が重要性と考えられた。小児AN 64例の検討では症候群性AN が29例、非症候群性AN が35例であった。症候群性ANの合併症は脳神経障害が最多であり、未熟児 / 低出生体重児に伴う合併症が次いで多いが、その多くはやはり脳神経障害を伴っていた。非症候群性ANではAN確実例23例中の16例でOTOF遺伝子変異が原因であった。OTOF遺伝子変異陽性で人工内耳を実施した8例のいずれも効果良好であったが、OTOF遺伝子変異陰性で人工内耳を実施した4例の2例は効果が低かった。OTOF遺伝子変異陽性例を陰性例と鑑別できる臨床的特徴はなく、遺伝子診断が人工内耳適応の判定に重要と考えられた。以上の研究成果と過去の報告から小児ANの診療指針(案)を作成した。
結論
小児Auditory Neuropathyの頻度は小児難聴の約3.8%である。その診断では、症候群性と非症候群性に分けて、それぞれの特徴とサブタイプを理解して鑑別診断する必要がある。 その治療では、 補聴器あるいは人工内耳をサブタイプの病態を理解して適正な活用方法を選択する必要がある。これらの検討から小児ANの診療指針(案)を作成した。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201122025B
報告書区分
総合
研究課題名
小児Auditory Neuropathyの診療指針の確立
課題番号
H21-感覚・一般-003
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
松永 達雄(独立行政法人国立病院機構東京医療センター臨床研究センター 聴覚・平衡覚研究部 聴覚障害研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 泰地 秀信(国立成育医療研究センター耳鼻咽喉科)
  • 守本 倫子(国立成育医療研究センター耳鼻咽喉科)
  • 坂田 英明(目白大学言語聴覚学科、埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科)
  • 浅沼 聡(埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科)
  • 仲野 敦子(千葉県こども病院耳鼻咽喉科)
  • 小渕 千絵(国際医療福祉大学言語聴覚学科)
  • 小河原 昇(神奈川県立こども医療センター耳鼻咽喉科)
  • 益田 慎(広島県立広島病院小児感覚器科)
  • 杉内 智子(関東労災病院耳鼻咽喉科、感覚器センター)
  • 新田 清一(済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科)
  • 南 修司郞(国立病院東京医療センター耳鼻咽喉科)
  • 加我 君孝(国立病院機構東京医療センター臨床研究センター)
  • 尾藤 誠司(国立病院東京医療センター臨床研究センター 政策医療企画研究部 臨床疫学室)
  • 新正 由紀子(国立病院機構東京医療センター臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Auditory Neuropathy(AN)は、他の感音難聴と比べて著しく言語聴取力が低く、小児では補聴器を装用しても言語獲得が困難な難聴である。また通常の感音難聴と異なる多様な組み合わせの聴覚検査所見を呈するために診断および聴覚評価が困難である。本研究では日本人小児ANの有病率と要因、臨床的特徴、リハビリテーション効果を解明し診療指針を確立することを目的とした。
研究方法
本研究では、小児ANについて、1) 有病率と発症要因、2) 難聴の臨床的特徴および遺伝子変異、3) 言語発達を明らかにして診療指針を作成した。有病率は、横断研究により研究期間中の小児難聴の確定数とAN確定数から、発達時期別に決定した。ANの発症要因、難聴の臨床的特徴、言語発達および遺伝子変異は、過去の診断症例と新規症例を検討してデータベースを構築し、ケースコントロール研究により決定した。
結果と考察
小児難聴を専門とする耳鼻咽喉科外来を受診する日本人小児難聴でのANの有病率は約3.8%と推定された。小児AN 64例の検討では症候群性AN が29例、非症候群性AN が35例であった。症候群性ANの合併症は脳神経障害が最多であり、未熟児 / 低出生体重児に伴う合併症が次いで多いが、その多くはやはり脳神経障害を伴っていた。非症候群性ANではAN確実例23例中の16例でOTOF遺伝子変異が原因であった。遺伝子型と聴力レベルに相関があり、遺伝子型から聴力レベルをある程度予測できることが判明した。OTOF遺伝子変異陽性で人工内耳を実施した8例のいずれも効果良好であったが、OTOF遺伝子変異陰性で人工内耳を実施した4例の2例は効果が低かった。OTOF遺伝子変異陽性例を陰性例と鑑別できる臨床的特徴はなく、遺伝子診断が人工内耳適応の判定に重要と考えられた。以上の研究成果と過去の報告を基にした小児ANの診療指針(案)を作成した。
結論
小児Auditory Neuropathyの頻度は、小児難聴の約3.8%であり、症候群性と非症候群性に分けてそれぞれの特徴とサブタイプを理解して診療すべきこと、遺伝子診断がANの早期診断と効果的治療法の選択に役立つことが判明した。これらの検討から小児ANの診療指針(案)を作成した。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201122025C

成果

専門的・学術的観点からの成果
小児Auditory Neuropathy(AN)の頻度は、小児難聴の約3.8%であり、サブタイプを理解して診療する必要があることが判明した。補聴器あるいは人工内耳の適応決定では、各サブタイプの病態を理解して選択する必要があり、OPA1遺伝子診断、OTOF遺伝子診断 がANの早期診断と効果的治療法の選択に役立つことが判明した。成果は国内の学会、雑誌に発表され大きな反響があった。海外の雑誌(Clinical Genetics)にも受理直前の段階にある。
臨床的観点からの成果
症候群性ANでは脳神経障害の合併を考慮する必要が示された。症候群性ANの難聴の特徴は合併症の種類により様々であり、個別に診療方針を検討する必要が確認された。非症候群性ANでは高い頻度で一定の難聴の特徴が認められ、その原因は約70%がOTOF遺伝子変異であり、このサブタイプでは人工内耳効果が高いことが日本人の特徴として確認された。また、小児ANでは3歳までに鑑別診断することで良好なリハビリテーション効果につながることが判明した。
ガイドライン等の開発
小児ANの有病率と要因、臨床的特徴、リハビリテーション効果を解明し、これらの研究成果と過去の報告を基にして、各担当者がクリニカルクエスチョン、推奨文、解説、文献を作成して、小児ANの診療指針(案)を研究代表者が編集した。これを最終年度の総括報告書および総合報告書に添付した。
その他行政的観点からの成果
これまで国内の小児ANの発症頻度は不明であり、医療者における認知も低かった。本研究により日本人における発症頻度を初めて把握できたため、今後の情報の普及により本症の認知と診断率を向上する。これまでわが国の小児AN症例の報告は極めて少なく、標準的診療も確立されていなかった。本研究成果として本症の診療指針(案)が作成されたことにより、本症の早期診断・早期治療が促進され、本症に対する不必要な検査、治療を回避できる。これは小児難聴の診療効果を向上し、社会の活性化につながる成果である。
その他のインパクト
小児ANに対するOTOF遺伝子検査は、小児人工内耳手術適応の重要な検査として認知され、実際に全国からの遺伝子診断の依頼に応えて貢献できるようになった。本研究で得られた小児ANの診療に関する情報および本症の診療指針(案)は今後、論文、学会、公開講座、専門書籍あるいは一般書籍、パンフレット、インターネットのホームページなど様々な方法で普及していく。

発表件数

原著論文(和文)
9件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
38件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
5件
1)小児難聴シンポジウム「言葉の発達が難しい小児難聴と向き合う」東京 平成22年2月21日、2)小児ANの診療指針(案)を公開 等

特許

特許の名称
難聴疾患の予防又は治療剤
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2011-007581
発明者名: 務台英樹、松永達雄、藤井正人
権利者名: 国立病院機構
出願年月日: 20110118
国内外の別: 国内
特許の名称
内耳性難聴治療薬
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2015-007849
発明者名: 細谷誠、藤岡正人、岡野栄之、小川郁、松永達雄
権利者名: 細谷誠、藤岡正人、岡野栄之、小川郁、松永達雄
出願年月日: 20150119
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
泰地秀信、守本倫子、松永達雄
Auditory neuropathy spectrum disorderの乳幼児期におけるASSR閾値
Audiology Japan , 53 (1) , 76-83  (2010)
原著論文2
仲野敦子、有本友季子、松永達雄、他
Otoferlin遺伝子変異が確認された小児難聴症例の検討
Otol Jpn , 22 (1) , 47-52  (2012)
原著論文3
Matsunaga T, Mutai H, Kunishima S, et al.
A prevalent founder mutation and genotype-phenotype correlations of OTOF in Japanese patients with auditory neuropathy.
Clin Genet , 82 (5) , 425-432  (2012)
10.1111/j.1399-0004.2012.01897.x.
原著論文4
Mutai H, Suzuki N, Shimizu A,et al.
Diverse spectrum of rare deafness genes underlies early-childhood hearing loss in Japanese patients: A cross-sectional, multi-center next-generation sequencing study.
Orphanet J Rare Dis , 8 (1) , 172-172  (2013)
10.1186/1750-1172-8-172.

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201122025Z