特発性造血障害

文献情報

文献番号
199700954A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性造血障害
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
溝口 秀昭(東京女子医科大学血液内科)
研究分担者(所属機関)
  • 浅野茂隆(東大医科研病態薬理)
  • 小峰光博(昭和大学藤が丘病院内科血液)
  • 澤田賢一(北海道大学医学部第二内科)
  • 朝長万左男(長崎大学医学部附属原医研内科)
  • 外山圭助(東京医科大学第一内科)
  • 仁保喜之(九州大学医学部第一内科)
  • 三浦恭定(自治医科大学血液学)
  • 村手隆(名古屋大学医学部第一内科)
  • 吉田弥太郎(京都大学東南アジア研究センター人間環境部門)
  • 清水弘之(岐阜大学医学部公衆衛生)
  • 浦部晶夫(関東逓信病院血液内科)
  • 大野竜三(浜松医科大学第三内科)
  • 梶井英治(自治医科大学法医学・人類遺伝学)
  • 金倉譲(大阪大学医学部血液腫瘍内科)
  • 厨信一郎(岩手医科大学第三内科)
  • 月本一郎(東邦大学医学部第一小児学)
  • 堀田知光(東海大学医学部第四内科)
  • 別所正美(埼玉医科大学第一内科)
  • 金丸昭久(近畿大学医学部第三内科)
  • 八幡義人(川崎医科大学血液内科)
  • 木村昭郎(広島大学原放医研血液内科)
  • 上田孝典(福井医科大学第一内科)
  • 平井久丸(東京大学医学部無菌治療部門)
  • 木下タロウ(大阪大学部生物病研究所難治疾患バイオ分析部門)
  • 中尾真二(金沢大学医学部第三内科)
  • 三谷絹子(東京大学医学部第三内科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 血液系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 従来の特発性造血障害調査研究班が平成8年度から改組され血液系疾患調査研究班の分科会として再出発した。血液系疾患調査研究班としては、このほかに原発性免疫不全症分科会と血液凝固異常症分科会の2分科会がある。特発性造血障害調査研究班の担当する疾患は従来再生不良性貧血、不応性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、溶血性貧血であったが、平成8年からは再生不良性貧血、不応性貧血、溶血性貧血に骨髄線維症が加わり、そのかわり特発性血小板減少性紫斑病は血液凝固異常症分科会で扱うことになった。
以上述べたように本分科会では、再生不良性貧血、溶血性貧血、不応性貧血及び骨髄線維症の疫学、病因・病態、診断、治療、予後などにつき研究の展開を図る。特に、平成8年度から基礎班からの強力な研究協力が得られれ病態の解明、それに基づく診断及び治療の改善を目指す。以下に今後2年間の各疾患の研究計画を示す。
再生不良性貧血:成因における免疫学的機序及び幹細胞の遺伝子異常の解明に努め、さらにその原因となるウイルスあるいは他の背景因子の解明に努める。治療に関しては種々の免疫抑制療法及びサイトカイン療法の単独ならびに併用療法の有用性を検討する。Fanconi貧血における病態を明らかにし、遺伝子治療の開発を目指す。合併する発作性夜間血色素尿症(PNH)の原因遺伝子PIG-Aの異常の関与を明らかにし、遺伝子治療の可能性を検討する。
後天性溶血性貧血:抗赤血球自己抗体の対応抗原を明らかにし、それによって病態の解明、診断基準の改定と診断精度の向上に努める。PIG-A遺伝子が原因遺伝子であることが明らかにされ、それに基づく遺伝子治療を目指す。
不応性貧血:再生不良性貧血の診断基準と整合性のある診断基準を作成する。遺伝子の異常を明らかにし、遺伝子治療を目指す。種々の免疫抑制療法、分化誘導療法およびサイトカインの有用性を評価する。幹細胞移植の普及と成績向上を図る。
骨髄線維症:平成8年度に作成した診断基準に基づいて診断された症例の疫学調査を行う。骨髄線維症の成因ならびに病態の解明に努め、さらにその背景因子を明らかにする。治療指針を作成する。
研究方法
(略)
結果と考察
(略)
結論
1.再生不良性貧血
清水研究協力者が中心となり、ケースコントロールスタディを開始し、計49例の症例が集積された。更に症例を集積し、その背景因子を解明する予定である。
我が国のFanconi貧血においてFAC遺伝子の異常が29例中8例に認められ、またC群以外のFanconi貧血患者5例中4例でFAA遺伝子異常を認め、我が国にも欧米と同様の遺伝子異常があることを明らかしにし、その遺伝子治療の可能性を示した。前班から継続して、肝炎後再生不良性貧血の原因ウイルス検索のため、患者血清と末梢血リンパ球を分科会長のところで収集している。さらに、基礎班の微生物研究班の協力を得て、再生不良性貧血を中心とする特発性造血障害の骨髄標本から原因となるウイルスの有無の検討を開始し、一部にパルボウイルスあるいはヘルペスウイルス一種など特定ウイルスの存在を認めている。それが病因であるか否かは今後慎重に検討する必要がある。シクロスポリン依存性の免疫学的機序の強く示唆される例では、一部のT細胞、特にVβ15陽性T細胞がクローン性に増殖していることが明らかにされ、このリンパ球はCD4陽性であるがHLA-DR15の提示する何らかの共通抗原を認識している可能性が示唆された。再生不良性貧血-PNH症候群のモデルマウスが作成されたので、前年に引き続きPIG-A遺伝子の変異した造血幹細胞が増加する機序を解明する予定である。
191例の再生不良性貧血患者に対する抗胸腺細胞グロブリン(ATG)の効果が検討され、有効率は重症例で45.7%、中等症例で50.9%である。開発治験の時は重症例で約20%の有効率であったがそれに比し良い成績である。その理由は発症後間もない例が多くなったためと思われる。現に発症後1年以内の例では有効率が重症例で56.6%、中等症例では73.9%と高いが、発症後1年以降の例では有効率が重症例で17.9%で、中等症例で33.3%である。このような結果は平成8年度に作成した治療指針案において、中等症例で早い時期にATGによる治療を開始することが提案されたが、その妥当性を示す結果である。さらに難病医学研究財団と協力し、シクロスポリンとATG併用とシクロスポリン、ATGとG-CSFを併用を比較する多施設プロスペクティブ比較試験を継続中である。これによってこれらの併用療法の有用性を明らかにする予定である。また、本年度からトロンボポエチンの再生不良性貧血患者および骨髄異形成症候群患者に対する有用性の検討が開始されたが、患者骨髄細胞の培養においてトロンボポエチンを大量に入れれば巨核球への分化が誘導される結果であり、患者に大量に投与する必要性が示唆された。
2.後天性溶血性貧血
前班以来、小峰班員を中心として追跡されている自己免疫性溶血性貧血の長期臨床経過がまとめられた。約30%の例が治癒し、特発性の例の約20%、続発性の例の約50%が死亡している。その死因は、特発性の例では半数が治療の副作用および合併症により、続発性の例は基礎疾患によるものが60%を占める。直接Coombs試験のグロブリン種を検討して結果、特発性、続発性ともIgG+補体の例は陽性率が約50%のレベルを長期に維持し、陰性化し難いことが示された。IgGのみの例は陰性化しやすい。本症ではRh血液型を抗原とする自己抗体が発生する例が約80%にある。それと関連してRh抗原系のエピトープを解析した結果、RhC(c)E(e)ポリペプチドが温式自己免疫性溶血性貧血の主要自己抗原の一つであることを強く示唆する結果を得た(梶井研究協力者)。
3.不応性貧血
不応性貧血(骨髄異形成症候群)について吉田班員が中心になって、平成8年度から始められた全国実態調査の結果がまとめれた。
本症は造血幹細胞のクローン性疾患と考えられ、その点で再生不良性貧血と区別される。その証明にはhuman androgen receptor(HUMARA) geneの解析が有用である。本班では本症の診断の精度を高めるために、東日本の例は岩手医大の廚研究協力者が、西日本の例は東海大学堀田研究協力者が解析を担当することにし、症例の蓄積がなされている。この研究は前述の再生不良性貧血の免疫抑制療法とG-CSFの併用療法に関する共同研究でも実施されている。本症にみられる遺伝子異常を検討した結果、細胞周期に関連するp15遺伝子のメチル化が病期の進展に関連する結果が得られた。cyclin dependent kinase inhititor(CDK1)遺伝子であるp15遺伝子がメチル化によって不活化され細胞増殖が起こることが考えられた。
トロンボポエチンの有用性に関する研究は開始された。インターロイキン11の有用性に関する研究は中止された。
ビタミンK2がin vitroではあるが芽球のアポトーシスを誘導することが明らかになり、今後治療薬として試みる価値があると考えられる。
不応性貧血のうち予後がよいとされる狭義の不応性貧血と鉄芽球の増加を伴う不応性貧血の予後因子を解析された。これまで不応性貧血の予後判定法としてはBournmouth scoreやJapanese scoreがあったが、新たにSaitama scoreが提案され、予後の判定に有用と思われた。染色体所見の得られない場合は?ヘモグロビン濃度の低下、?pseudo-Pelger-Huet異常、?小巨核球の3項目をもとにscoreを算定するとよく予後と相関する。染色体所見が得られる場合は?pseudo-Pelger-Huet異常、?予後不良の染色体所見をもとにscoreを算定しても予後とよく相関し、本症の骨髄移植の適応の決定に有用と思われる。
4.骨髄線維症
新たに調査対象の疾患として加えられた疾患である。まず、平成8年度に作成された骨髄線維症の診断基準に基づいて仁保班員が中心になって過去10年間の例について全国アンケート調査が行われてた。514例が集められ、うち原発性慢性例322例(62.7%)、原発性急性例54例(10.5%)、二次性例136例(26.5%)、不明2例(0.4%)であった。原発性慢性例の病態、治療、予後の現状などが明らかになった。予後不良因子は診断時年齢60歳以上、ヘモグロビン濃度10g/dl未満、白血球数3,000/μl未満、血小板数100,000/μl未満、芽球5%以上などである。

公開日・更新日

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