プロテオーム解析を用いた高齢認知症患者における大脳白質病変と抗血管内皮細胞抗体の関連性に関する研究

文献情報

文献番号
201122022A
報告書区分
総括
研究課題名
プロテオーム解析を用いた高齢認知症患者における大脳白質病変と抗血管内皮細胞抗体の関連性に関する研究
課題番号
H21-こころ・若手-022
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
木村 暁夫(岐阜大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
2,975,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高度の大脳白質病変を合併した高齢認知症患者の血清中に特異的に存在するヒト大脳微小血管内皮細胞に対する自己抗体を検出し、その認識抗原を同定することにより、認知症の診断に有用なバイオマーカーの確立ならびに新たな治療法の開発に役立てることを目的とする。
研究方法
昨年度、広範な大脳白質病変を合併する60歳以上の高齢者に特異的な6つの抗血管内皮細胞抗体を同定した。本年度は、認知症患者を含む112名の高齢者の血清を用いELISA解析により、同定した抗血管内皮細胞抗体の抗体価を測定し大脳白質病変との関連性を検討した。次に同定した抗血管内皮細胞抗体の一つである抗Tropomyosin alpha-4 chain(TPM4)抗体の特異性の検討を行った。その方法として、TPM4の局在性の確認を目的とした、ラット大脳およびヒト大脳微小血管内皮細胞を用いた免疫染色、抗体の機能解析を目的としたCell counting kit (CCK8)を用いた血管内皮細胞障害性試験、BBB kitを用いた血管透過性試験、tube formation assayを用いた血管新生阻害試験を行った。
結果と考察
抗TPM4抗体価と大脳白質病変の程度に相関性を認め、多変量解析の結果、大脳深部白質の癒合性病変の出現と有意な相関性が認められた。免疫染色による検討では、TPM4の大脳微小血管内皮細胞膜表面の発現を確認した。抗体の機能解析では、抗TPM4抗体の付加による、大脳微小血管内皮細胞に対する障害性やBBBの透過性への影響は確認されなかった。その一方、tube formation assayによる検討により、抗TPM4モノクローナル抗体および抗TPM4抗体高値の患者IgGの血管新生阻害作用を確認した。抗TPM4抗体は、大脳微小血管内皮細胞の細胞膜表面に発現したTPM4を介し、大脳微小血管内皮細胞の血管新生を抑制することにより大脳白質病変の進展に関っている可能性が推測された。
結論
抗TPM4抗体高値は、大脳深部白質の癒合性病変の出現に関連する独立した危険因子である。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201122022B
報告書区分
総合
研究課題名
プロテオーム解析を用いた高齢認知症患者における大脳白質病変と抗血管内皮細胞抗体の関連性に関する研究
課題番号
H21-こころ・若手-022
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
木村 暁夫(岐阜大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高度の大脳白質病変を合併した高齢認知症患者の血清中に特異的に存在するヒト大脳微小血管内皮細胞に対する自己抗体を検出し、その認識抗原を同定することにより、認知症の診断に有用なバイオマーカーの確立ならびに新たな治療法の開発に役立てることを目的とする。
研究方法
ヒト大脳微小血管内皮細胞ホモジネートを抗原とする二次元免疫ブロット法により、患者血清中に存在する抗血管内皮細胞抗体を検出し、その認識抗原蛋白をLC-MS/MSシステムを用い同定した。スクリ-ニングとして、広範な大脳白質病変を合併する60歳以上の高齢者21名、大脳白質病変を合併しない60歳以上の高齢者22名で、抗体反応スポットを比較検討し、広範な大脳白質病変を合併する高齢者に特異的な抗血管内皮細胞抗体を抽出した。次にELISA解析により112名の対象者の血清を用い、同定した抗血管内皮細胞抗体の抗体価を測定し、大脳白質病変との関連性を多変量解析を用いて検討した。その後、大脳白質病変と関連性が認められた自己抗体につき免疫組織学的検討および細胞生物学的機能解析を行った。
結果と考察
広範な大脳白質病変を合併する60歳以上の高齢者に特異的な6つの抗血管内皮細胞抗体を同定した。この中の抗Tropomyosin alpha-4 chain(TPM4)抗体価と大脳白質病変の程度に相関性を認め、多変量解析の結果、大脳深部白質の癒合性病変の出現と有意な相関性が認められた。機能解析では抗TPM4抗体の血管新生阻害作用を確認した。免疫染色では、TPM4の大脳微小血管内皮細胞膜表面の発現を確認した。これらの結果、抗TPM4抗体の血管新生阻害作用により、大脳白質病変の進展に影響を及ぼす可能性が推測された。また本研究において、晩期発症型アルツハイマー型認知症患者の血清中に有意に多く存在する自己抗体の認識抗原蛋白の一つとしてMitochondrial import receptor subunit TOM40 homolog (Tom40)を同定した。さらに、抗体陽性のアルツハイマー型認知症患者では陰性の患者と比較し有意にMMSEの得点が低い結果となり、抗体と認知機能障害との関連性が示唆された。
結論
①広範な大脳白質病変と関連することが予想される6つの抗血管内皮細胞抗体を同定した。この中の抗TPM4抗体に関して、抗体価と大脳深部白質病変に有意な関連性を認めた。②晩期発症型アルツハイマー型認知症患者の血清中に有意に多く存在する自己抗体として抗Tom40抗体を同定した。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201122022C

成果

専門的・学術的観点からの成果
広範な大脳白質病変を合併した高齢認知症患者に特異的な6つの抗血管内皮細胞抗体を同定し、この中の抗Tropomyosin alpha-4 chain抗体と大脳深部白質病変との関連性を明らかにしたことは、本研究成果といえる。また、大脳白質病変を合併しない高齢者に特異的な自己抗体、アルツハイマー型認知症患者や若年健常者、高齢健常者に多く認める自己抗体など合計15種類の自己抗体を同定した。この中のいくつかは世界的にもこれまでに報告されていない抗体であり、本研究の成果と考える。
臨床的観点からの成果
今回同定した抗TPM4抗体をはじめとする広範な大脳白質病変を合併した高齢認知症患者に特異的な6つの抗血管内皮細胞抗体は大脳微小血管内皮細胞障害の血清バイオマーカーとなる可能性がある。今後、さらに多数例での検討と大脳白質病変の成因を考慮した詳細な検討が必要である。また、その他の自己抗体を含め同定した自己抗体の産生機序と血管内皮細胞におよぼす影響を検討することにより、大脳微小血管に関連した病態背景をもつ神経疾患の新たな診断法や治療法の開発につながる可能性もあると考える。
ガイドライン等の開発
該当なし。
その他行政的観点からの成果
該当なし。
その他のインパクト
該当なし。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kimura A, Sakurai T, Yamada M, et al.
Antibodies Against the Tom40 Subunit of the Translocase of the Outer Mitochondrial Membrane Complex and Cognitive Impairment in Alzheimer's Disease
Journal of Alzheimers Disease , 29 , 373-377  (2012)
原著論文2
Kimura A, Sakurai T, Yamada M, et al.
Elevated anti-heat shock protein 60 antibody titer is related to white matter hyperintensities
Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases , 21 (4) , 305-309  (2012)
原著論文3
Sakurai T, Kimura A, Yamada M, et al.
Identification of antibodies as biological markers in serum from multiple sclerosis patients by immunoproteomic approach
Journal of Neuroimmunology , 233 , 175-180  (2011)
原著論文4
Kimura A, Kanoh Y, Sakurai T, et al.
Antibodies in patients with neuropsychiatric systemic lupus erythematosus
Neurology , 74 , 1372-1379  (2010)
原著論文5
Kimura A, Sakurai T, Koumura A, et al.
Motor-dominant chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy
Journal of Neurology , 257 , 621-629  (2010)
原著論文6
Kimura A, Sakurai T, Yamada M, et al.
High prevalence of autoantibodies against phosphoglycerate mutase 1 in patients with autoimmune central nervous system diseases
Journal of Neuroimmunology , 219 , 105-108  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
2017-05-23

収支報告書

文献番号
201122022Z