発達障害者の特性別適応評価用チャートの開発

文献情報

文献番号
201122021A
報告書区分
総括
研究課題名
発達障害者の特性別適応評価用チャートの開発
課題番号
H21-こころ・若手-021
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
船曳 康子(京都大学 医学部附属病院 精神科神経科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
1,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
発達障害に支援が必要なことは周知されてきたが、診断がないと支援をしにくいという現状がある。しかし、専門家の少なさから診断までに時間を要する、診断後も個人差の大きさもあいまって要支援事項がわかりにくい、診断閾値以下でも支援を必要とする、などの理由で、試行錯誤は続いている。そこで、専門家の評価が診断で終わらず現場と協力して支援につながるよう、一目でわかりやすいチャートを開発することを目的としている。昨年度までで原案はほぼ完成し、国際論文化し、児童精神科医の信頼性を確立したので、本年度は医師以外の評価者の信頼性を確認しながら、普及枠を拡大することを目的とした。
研究方法
発達障害者が有しやすく、困りやすい特性を14項目、要支援度を各特性別に9段階評価で表した。本年度は、発達障害の療育を行う大学院生4名(教育学部、理学部)で一致率の解析を行い、児童精神科医による評価と比較した。また、必要なトレーニング量を確認するために外来陪席者(多職種)の一致率を測定し、陪席回数による推移をみた。更に、国際化を進めるために、和文とともに英文のマニュアルも作成し、Webにて案内を開始した。なお、活用法の検討などのために、定期的に意見交換会を行った。
結果と考察
大学院生の評価者間一致率は、ICC(2,1)で0.75±0.14(特性平均±標準偏差)と十分な成績で、全ての特性においてp<0.05であり、児童精神科医による一致率と差はなかった。外来での一致率も初回(N=36)から0.76±0.12で、全特性においてp<0.05であった。初回では一部に評価がずれることもあったが、議論により2回目からは修正された。発達障害を理解している人が評価のコツをつかめば、評価者として信頼性を得ることができると考えられた。また、誤解が生じやすい項目に注釈を加え、毎回、評定後に議論することで、効率的に一致率をあげることができた。
結論
発達障害者の特性評価用の本スケールはほぼ完成し、信頼性の確認、普及に向けての効率的な方法の検討も行った。これらに伴い協力フィールドが増加するとともに、京都はもとより、その周辺地域から遠方へも広がりつつある。各フィールドを通しての普及とともに、Webやマニュアル、研修会などを通して、国内外への普及(ドイツ・中国版も作成中)を行う段階へと進展した。今後、更なる普及に伴い、ライフステージごとに効果的な活用法、また効果検証、国際共同研究を行っていく予定である。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201122021B
報告書区分
総合
研究課題名
発達障害者の特性別適応評価用チャートの開発
課題番号
H21-こころ・若手-021
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
船曳 康子(京都大学 医学部附属病院 精神科神経科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、発達障害者個々人の支援のニーズを本人や支援者に一目でわかるよう示すことにより、本人自身および周囲からの共通理解を促進し、多職種が連携して発達障害者の支援を迅速に進めることを目的としている。
研究方法
発達障害者が有しやすく困りやすい特性を14項目、要支援度を各特性別に9段階評価で表した。診断基準に入らないため重要視されない項目でも、発達障害者が困りやすい特性はあえて含め、PDDの特徴(社会適応、コミュニケーション、共感性、こだわり、感覚、常同運動)、発達性協調運動障害の特徴(粗大運動、微細運動)、ADHDの特徴(不注意、多動、衝動性)、睡眠リズム、学習障害、言語発達が含まれている。知的レベル、得意分野は、欄外に記載している。各特性における評価の基準も具体的に設けた。また、児童精神科医、及び非医師(教育学部等の大学院生)による一致率を測定し、一致率を確立するまでのトレーニング量、及び方法についても検討した。
なお、信頼性を確立したスタッフによる233例の特性別の解析を、DSM-IVによる診断名ごとに知的障害のある自閉性障害、知的障害のない自閉性障害、アスペルガー障害、特定不能型のPDD、混合型ADHD、不注意優勢型ADHDの6群に分類して行った。One-factor ANOVA(危険率5%)で群間差がみられた場合、多重比較検定を行った。
また、国際化を行い、日本語・英語・ドイツ語・中国語版のマニュアルも作成した。
結果と考察
評価者間一致率は、児童精神科医、発達障害の療育に携わる非医師ともに差がなく、すべての特性において有意に一致していた。外来での一致率は、初回にコミュニケーションや社会適応の項目でずれる傾向にあったが、社会生活における困りの程度であると説明しなおすことにより、2回目から修正された。各特性を診断ごとに6群にわけると、PDDとADHDは診断基準の性質による差はみられたが、特性の傾向としては似ていた。特にPDDNOSと不注意優勢型ADHDが似通っていた。なお、どの群も不注意で困っている点が共通していた。これらにより、本スケールの開発はほぼ完成し、信頼性は職種に関わらず、発達障害の理解と評価のコツをつかめば獲得できるため、普及のためには、注意点を加筆したマニュアル配布が効率的であると考えられた。
結論
発達障害者の特性別適応評価用チャートを開発し、共通理解を図りながら支援に役立てるとともに、国際的な視野も含めて、普及・学術活動を進めた。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201122021C

成果

専門的・学術的観点からの成果
行動学的な包括評価により、診断分類との関連を明らかにするとともに、生物学的背景の研究においても、表現型として利用されはじめた。発達障害は個人差が大きく、また症候群でもあるため、群間比較では明らかとならなかったような研究成果が、特性別に数値化した本評価法により期待できる。
臨床的観点からの成果
診断名ではわかり難い要支援点とその程度を一定の方法で示すことで、支援の基準が公平で明確となる。また、一目でわかるため、一般の支援者に対しても共通言語として理解しやすく、支援の迅速化も期待される。更には、自己及び他者からの共通理解を促すことで、日々のストレスを減らし、QOLの向上、ストレスの軽減、反社会行動の抑止への効果も期待できる。
ガイドライン等の開発
当評価において、全ての特性の統一基準とともに、各特性の詳細な基準を設け、そのマニュアルを完成させた。また、評価者間の信頼性およびトレーニング方法も確立させた。更には、日本語・英語・ドイツ語・中国語・韓国語・アラビア語版の作成も行った。
その他行政的観点からの成果
本開発物が2016年に保険収載となった。発達障害の特徴である癇癪、こだわり、多動、不注意等は幼児一般にみられやすく、診断未満でも育児不安を招きうるが、各特性の程度を具体的に示すことで、その軽減、少子化の歯止め、虐待の防止へとつながる。成人では、自己及び他者からの理解や期待度が本人の能力と不相応となり、適応困難となりやすいが、特性理解を深めることで無理のない就労へつながりうる。更に、現場での一般支援により人件費の削減など種々の行政・医療の面での経済効果、当該分野の効率的な人材育成にも貢献しうる。
その他のインパクト
Web案内、研修システム、また国内外のマニュアルも通して普及している。途上国を含めた国際共同調査も視野に入れ、ドイツの共同研究者は、当評価スケール用のグラントを取得し、利用を開始した。なお、日本児童青年精神医学会にて、当スケール開発により、2012年研究奨励賞を受賞した。また、特別支援教育士、臨床心理士、キンダーカウンセラー、デイケア、特別支援セミナーなどで、研修会が立ち上がった。更には、今年度、LD学会でシンポジウムを企画した。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
30件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Funabiki Y, Kawagishi H, Uwatoko T, et al
Development of a multi-dimensional scale for PDD and ADHD.
Res Dev Dis , 32 , 995-1003  (2011)
原著論文2
Funabiki Y, Murai T, Toichi M.
Cortical activation during attention to sound in autism spectrum disorders.
Res Dev Dis , 33 , 518-524  (2012)
原著論文3
船曳康子、廣瀬公人、 村井俊哉他
発達障害者の特性理解用レーダーチャート(MSPA)の作成、及び信頼性の検討
児童青年精神医学とその近接領域 , 54 (1) , 14-26  (2013)
原著論文4
Ivanova MY, Achenbach TM, Fuunabiki, et al.
Syndromes of Self-Reported Psychopathology for Ages 18-59 in 28 Societies
J Psychopathology and Behavioral Assessment  (2014)
原著論文5
Funabiki Y, Mizutani T, Murai T.
Fine motor skills relate to visual memory in autism spectrum disorder
Journal of Educational and Developmental Psychology.  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-05-22
更新日
2017-05-23

収支報告書

文献番号
201122021Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,700,000円
(2)補助金確定額
4,700,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,022,113円
人件費・謝金 752,365円
旅費 859,989円
その他 1,065,533円
間接経費 0円
合計 4,700,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
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