Fynチロシンキナーゼ・シグナリングを介した統合失調症分子病態の解析

文献情報

文献番号
201122020A
報告書区分
総括
研究課題名
Fynチロシンキナーゼ・シグナリングを介した統合失調症分子病態の解析
課題番号
H21-こころ・若手-020
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
服部 功太郎(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第三部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
1,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Fynチロシンキナーゼは脳に強く発現し神経細胞内のシグナル伝達を担うことで、シナプス可塑性や記憶学習、情動行動の制御に関わっている。近年、FynはドーパミンD2受容体によるNMDA受容体機能の制御にも関わり、マウスの抗精神病薬への反応性に関わることを我々は見出した。このためFynは統合失調症の分子病態にも関与している可能性が高い。そこで、本研究においては統合失調症の血液、死後脳、脳脊髄液などの臨床検体を用いて統合失調症の分子病態におけるFyn、および上流・下流の関連分子の変化を解析し、バイオマーカーとしての可能性を検討した。
研究方法
マウスにリスペリドンを3週間経口投与し大脳皮質中のFynタンパク質の量をELISA法で測定した。統合失調症、気分障害、健常対照の被験者に同意を得たうえで脳脊髄液を採集した。Fynの解析にはELISAを用いた。また、Fynの上流制御因子であるドーパミンの評価のため代謝産物のHVAをHPLCで測定した。
結果と考察
リスペリドン長期投与はマウス大脳皮質中のFynタンパク質の量に明らかな影響を与えなかった。このことから、死後脳におけるFyn発現の亢進が薬物によるものではなく、疾患自体で生じている可能性も考えられた。今年度も統合失調症、気分障害、健常対照者、計100検体以上を収集し、合計250本以上となった。それらを用いてFynの測定を行ったところ、疾患群による差は認められなかった。しかし統合失調症群内ではFynの量と薬剤投与量との間に相関傾向が認められ、非定形抗精神病薬とは有意に負の相関を示した。したがって、抗精神病薬投与はFynの発現や神経細胞からの放出に影響を与えることが示唆された。また、HVAは統合失調症群で顕著な亢進を認めた。統合失調症群内においてHVA値はPANSSの陽性症状と負の相関を示した。脳脊髄液中のHVA値は、薬剤フリー例では統合失調症・健常群間で差がないと複数の報告がなされており、また、抗精神病薬治療により上昇することも報告されている。したがって、今回、我々が見出した統合失調症におけるHVA亢進も抗精神病薬による影響の可能性が高い。一方、陽性症状とHVA値が負の相関を示し、HVAが低い患者ほど症状が強いことから、HVAの上昇は治療効果を反映している可能性があった。
結論
Fynタンパク質の変化が統合失調症分子病態に関わるという証拠が脳・脳脊髄液・血液などの臨床検体で得られた。一方、すぐに臨床応用できるマーカーの開発には至らず、今後も解析を続ける必要があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201122020B
報告書区分
総合
研究課題名
Fynチロシンキナーゼ・シグナリングを介した統合失調症分子病態の解析
課題番号
H21-こころ・若手-020
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
服部 功太郎(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第三部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Fynチロシンキナーゼは脳に強く発現し神経細胞内のシグナル伝達を担うことで、シナプス可塑性や記憶学習、情動行動の制御に関わっている。近年、FynはドーパミンD2受容体によるNMDA受容体機能の制御にも関わり、マウスの抗精神病薬への反応性に関わることを我々は見出した。このためFynは統合失調症の分子病態にも関与している可能性が高い。そこで、本研究においては統合失調症の血液、死後脳、脳脊髄液などの臨床検体を用いて統合失調症の分子病態におけるFyn、および上流・下流の関連分子の変化を解析し、バイオマーカーとしての可能性を検討した。
研究方法
(1)血中fyn発現の解析:統合失調症、うつ病、健常対照者を含む660検体の血液RNAを用い、fynおよびCADPS2の発現をTaqMan定量PCRにて測定した。(2)ゲノムの解析:当研究部の保有する、統合失調症を含む約2000例のゲノムを用いfyn遺伝子上の8個のTag SNPについてTaqMan assayを行い、疾患や臨床指標との関連を解析した。(3)スタンレー研究所の死後脳(Total 60例および105例の精神疾患死後脳コホート、BA6)を用いFynおよび関連分子の解析を盲検方式で行った。Fynの測定に当たっては新たな高感度ELISAを開発した。(4)統合失調症、気分障害、健常対照髄の脳脊髄液を収集し、FynをELISAで測定し、ドーパミン代謝産物、ホモバニリン酸(HVA)はHPLCで測定した。
結果と考察
(1)統合失調症の血液においてfyn mRNAの発現が低下していること、(2)fynゲノム領域のSNPは疾患との関連は認められなかったが、健常人の知的機能と関連していたこと、(3)統合失調症死後脳においてFynタンパク質の量が増加していること、(4)脳脊髄液中のFynタンパク質の量は疾患群による差がないものの、抗精神病薬投与量と相関があることなどが判明した。また、(5) 脳脊髄液中HVA値が統合失調症で亢進していること、(6) ドーパミン放出に関わる分子CADPS2の発現が統合失調症の死後脳で亢進していることなども判明した。本研究の過程で統合失調症、気分障害、健常対照者、合計250例の脳脊髄液検体を収集することもできた。
結論
Fynタンパク質の変化が統合失調症分子病態に関わるという証拠が脳・脳脊髄液・血液などの臨床検体で得られた。特に死後脳でみられたFynの増加は統合失調症の分子病態において重要な所見であると考えられた。一方、すぐに臨床応用できるマーカーの開発には至らず、今後も解析を続ける必要があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201122020C

成果

専門的・学術的観点からの成果
統合失調症死後脳におけるFynタンパク質の増加は2つのコホートでブラインド解析により確認されたため、確実性の高い証拠であり、分子病態解明のための礎と考えられる。脳脊髄液中のホモバニリン酸測定は、統合失調症の治療指標になりうると考えられる。今後、治療前後での解析例を増やしていきたい。本研究過程で収集した脳脊髄液は、国内はもとより国際的でもトップレベルのバイオリソースになりつつあり、精神疾患バイオマーカー探索のための貴重な資源として利用したい。
臨床的観点からの成果
すぐに臨床応用できるマーカーの開発には至らなかった。副次的な成果ではあるか、本研究で脳脊髄液を採集するにあたり、穿刺時の疼痛や副作用を極力減らす工夫を行い、それらを総説に発表した。具体的には29ゲージ針による皮内麻酔を最初に行うことで疼痛を採血の半分以下に抑え、また、日本麻酔学会などで近年推奨されている無外傷性針を導入することで腰椎穿刺後頭痛の発症を半分以下に軽減した。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
15件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
22件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hattori K, Tanaka H, Yamamoto N et al.
Blood CADPS2DeltaExon3 expression is associated with intelligence and memory in healthy adults.
Biol Psychol , 89 (1) , 117-122  (2012)
原著論文2
Hattori K, Tanaka H, Wakabayashi C et al.
Expression of Ca2+-dependent activator protein for secretion 2 is increased in the brains of schizophrenic patients.
Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry , 35 (7) , 1738-1743  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
2017-05-23

収支報告書

文献番号
201122020Z