孤発性ALSの分子異常を標的とした治療技術の確立

文献情報

文献番号
201122018A
報告書区分
総括
研究課題名
孤発性ALSの分子異常を標的とした治療技術の確立
課題番号
H21-こころ・一般-017
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
郭 伸(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 相澤 仁志(独立行政法人国立病院機構東京病院)
  • 村松 慎一(自治医科大学)
  • 詫間 浩(筑波大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
25,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
孤発性ALS運動ニューロンでは、グルタミン酸受容体サブタイプであるAMPA受容体のGluR2 サブユニットQ/R 部位でRNA編集が低下しており,これは,同部位の特異的RNA編集酵素であるadenosine deaminase acting on RNA 2 (ADAR2)の活性低下に依ると考えられる.この分子異常は孤発性ALSに疾患特異的分子異常であり,運動ニューロン死の直接原因であることを,ADAR2のコンディショナルノックアウトマウスの解析から明らかにした.本研究では,ADAR2活性の正常化が孤発性ALSの治療につながると考えられるので、ADAR2活性賦活によるALS治療の基盤技術の確立を目的とする.
研究方法
我々が開発したTetHeLaG2m細胞を様々な化学物質に暴露し,ADAR2活性を賦活する物質を市販薬およびUS Drug Collectionから探索した。このスクリーニングにより得られた候補物質を野生型マウスに全身投与し,運動ニューロンにおけるADAR2活性賦活作用を検討した.また,ADAR2 遺伝子治療のためのベクターを開発し、野生型マウスへの経静脈的全身投与によるADAR2 活性賦活作用を検討した。
結果と考察
TetHeLaG2m細胞を用いてADAR2活性賦活する物質を20種類以上得た。これらの作用メカニズムは、ADAR2 mRNA発現量の増加によるもの、ADAR2 mRNA/GluR2 pre-mRNA比の増加によるものの他、これらのADAR2 活性に関連しうる分子には影響を与えないものがあり、異なる分子メカニズムに依ることが明らかになった.一部の薬剤を野生型マウスに投与し、脳・脊髄におけるADAR2 活性を賦活することを確認した。また、ヒトADAR2aをカプシド蛋白及びゲノム配列を修飾したAAVベクターに組み込み、野生型マウス及びモデルマウスへの全身投与により脊髄運動ニューロンへ送達されること、ADAR2遺伝子発現による酵素活性が上昇することを確認した.今後モデル動物を用いた神経細胞死抑制作用を検討し、ADAR2活性賦活による治療技術基盤を確立する。
結論
1)ADAR2活性賦活物質のスクリーニングを進めin vivoでも作用を持つ物質を複数得た.
2)遺伝子治療のための、血管経由により神経細胞へADAR2遺伝子導入可能なベクターの開発を進め  運動ニューロンにおけるADAR2活性の賦活を確認した.

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201122018B
報告書区分
総合
研究課題名
孤発性ALSの分子異常を標的とした治療技術の確立
課題番号
H21-こころ・一般-017
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
郭 伸(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 相澤 仁志(独立行政法人 国立病院機構 東京病院)
  • 村松 慎一(自治医科大学)
  • 詫間 浩(筑波大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
孤発性ALS運動ニューロンでは、グルタミン酸受容体サブタイプであるAMPA受容体のGluR2 サブユニットQ/R 部位でRNA編集が低下しており,これは,同部位の特異的RNA編集酵素であるadenosine deaminase acting on RNA 2 (ADAR2)の活性低下に依ると考えられる.この分子異常は孤発性ALSに疾患特異的分子異常であり,運動ニューロン死の直接原因であることを,ADAR2のコンディショナルノックアウトマウスの解析から明らかにした.本研究では,ADAR2活性の正常化が孤発性ALSの治療につながると考えられるので、ADAR2活性賦活によるALS治療の基盤技術の確立を目的とする.
研究方法
我々が開発したTetHeLaG2m細胞を様々な化学物質に暴露し,ADAR2活性を賦活する物質を市販薬およびUS Drug Collectionから探索した。このスクリーニングにより得られた候補物質を野生型マウスに全身投与し,運動ニューロンにおけるADAR2活性賦活作用を検討した.また,ADAR2 遺伝子治療のためのベクターを開発し、培養細胞、野生型マウスの脳内接種で遺伝子発現の確認、および野生型マウスおよび病態モデルマウスへの経静脈的全身投与によるADAR2 活性賦活作用を検討した。
結果と考察
TetHeLaG2m細胞を用いて300種類以上の化合物のスクリーニングからADAR2活性賦活する物質を31種類得た。そのなかから、ADAR2 mRNA発現量を増加させた薬剤を9種類得た.これらの薬剤を野生型マウスに投与し、脊髄運動ニューロン・前角組織におけるADAR2 活性および発現量を有意に増加させる化合物が1種類得られた。また、ヒトADAR2aをAAVベクターに組み込み、培養細胞への感染、野生型マウス脳への接種によりADAR2遺伝子発現、活性上昇が見られた。血管投与型AAVベクターを用い、野生型マウスへの静脈内投与により脊髄運動ニューロンへ送達されること、ADAR2遺伝子発現による酵素活性が上昇することを確認した。モデル動物を用いて神経細胞死抑制作用を検討している。
結論
1)ADAR2活性賦活物質のスクリーニングを進めin vivoでも作用を持つ物質を得た.
2)遺伝子治療のための、神経細胞へADAR2遺伝子導入可能なベクターの開発を進め、経血管的ルートによる投与で、運動ニューロンにおけるADAR2遺伝子発現、活性賦活を確認した.

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201122018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
孤発性ALS患者組織に見出された分子病態の解析から,RNA編集酵素ADAR2の活性低下が病因に密接に関連することを患者剖検組織、モデル動物開発及びその解析を通じて明らかにした.さらに,この分子病態に基づいた治療法開発のためのツールとして、ADAR2 活性賦活物質のスクリーニング、遺伝子治療のための血管投与型AAVベクターによる遺伝子治療を病態モデルマウスを用いて行っている.
臨床的観点からの成果
ALSの臨床試験にかけられた治療薬は1種を除き悉く無効であり、家族性ALSの原因遺伝子である変異SOD1トランスジェニックマウスを用いた治療法開発の限界が認識されつつある.本研究では,孤発性ALSにおける神経細胞死に直接関与する分子病態の解明に基づいた治療法開発研究を行っており,新しいアプローチである。分子病態を反映したモデル動物を使用し、細胞死に関わる分子異常の改善が得られており、新たな治療法へ向けての基盤技術が確立しつつある。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
ADAR2 活性賦活物質をALSの治療薬として用いるための特許を出願している(下記)。
2012年12月、2013年9月、発表論文に関して東京大学からプレスリリースを行い、マスコミにも取り上げられた

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamashita T, Hideyama T, Kwak S,et al
A role for calpain-dependent cleavage of TDP-43 in amyotrophic lateral sclerosis pathology.
Nat Commun. , 3 , 1307-  (2012)
doi :10.1038 /ncomms2303
原著論文2
Hideyama T, Yamashita T, Kwak S,et al.
ProfouA role for calpain-dependent cleavage of TDP-43 in amyotrophic lateral sclerosis pathology.nd downregulation of the RNA editing enzyme ADAR2 in ALS spinal motor neurons.
Neurobiol Dis 45 , 45 , 1121-1128  (2012)
doi :10.1016 / j.nbd. 2011.12.033
原著論文3
Yamashita T, Tadami C, Kwak S, et al.
RNA editing of the Q/R site of GluA2 in different cultured cell lines that constitutively express different levels of RNA editing enzyme ADAR2.
Neurosci Res. , 73 , 42-48  (2012)
doi:10.1016 / j.neures. 2012.02.002
原著論文4
Yamashita T, Hideyama T, Kwak S, et al.
Abnormal processing of TDP-43 does not regulate ADAR2 activity in cultured cell lines.
Neurosci Res. , 73 , 153-160  (2012)
doi :10.1016 / j.neures.2012.02.015
原著論文5
Hideyama T, Teramoto S, Kwak, S,et al
Co-occurrence of TDP-43 mislocalization with reduced RNA editing enzyme, ADAR2, in aged mouse motor neurons: implications for age-related acceleration of ALS.
PLoS One. , 7 (8) , e43469-  (2012)
doi :10.1371/journal.pone. 00434469
原著論文6
Kwak S, Hideyama T, Yamashita Y,et al
AMPA receptor-mediated neuronal death in sporadic ALS.
Neuropathology , 30 , 182-188  (2010)
doi:10.1111/j.1440-1789.2009.01090.x
原著論文7
Hideyama T, Yamashita Y, Nishimoto Y,et al
RNA editing enzyme abnormality in sporadic amyotrophic lateral sclerosis.
J Pharmacol Sci, , 113 , 246-247  (2010)
doi:10.1254/jphs.09R21FM
原著論文8
Aizawa ., Sawada J.Kwak S,et al
TDP-43 pathology in sporadic ALS occurs in motor
Acta Neuropathol , 120 , 75-84  (2010)
doi:10.1007/S00401-010-0678-X

公開日・更新日

公開日
2016-06-07
更新日
-

収支報告書

文献番号
201122018Z