糖尿病性腎症の病態解明と新規治療法確立のための評価法の開発

文献情報

文献番号
201121003A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病性腎症の病態解明と新規治療法確立のための評価法の開発
課題番号
H21-腎疾患・一般-002
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
和田 隆志(金沢大学 医薬保健研究域医学系)
研究分担者(所属機関)
  • 槇野 博史(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科学 )
  • 草野 英二(自治医科大学内科学講座腎臓内科学部門)
  • 羽田 勝計(旭川医科大学内科学講座病態代謝内科学分野)
  • 鈴木 芳樹(新潟大学保健管理センター)
  • 古家 大祐(金沢医科大学糖尿病・内分泌内科学)
  • 佐藤 博亮(福島県立医科大学医学部腎臓高血圧・糖尿病内分泌代謝内科学講座)
  • 湯澤 由紀夫(藤田保健衛生大学医学部腎内科学)
  • 安部 秀斉(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部病態情報医学講座腎臓内科学分野)
  • 奥田 誠也(久留米大学医学部内科学講座腎臓内科部門)
  • 篁 俊成(金沢大学医薬保健研究域医学系恒常性制御学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 腎疾患対策研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,010,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病性腎症は慢性腎臓病の最大の疾患であり、その克服は医学的、社会的に重要な課題である。本研究の目的は、1)糖尿病性腎症レジストリーによるデータベース構築、2)病期分類改訂にむけた提言、3)バイオマーカー、新規治療法開発の基盤研究を行うことである。
研究方法
本研究は全体研究ならびに分科会から構成される。全体研究として、糖尿病性腎症例のレジストリーを構築し、糖尿病性腎症の臨床・研究の基盤を整備した。分科会として、長期に観察された本邦のコホートを用いて解析を行い、糖尿病性腎症の病態・予後を検討した。さらに、糖尿病性腎症の診断・予後を反映するバイオマーカーならびに新規治療法の開発を行った。
結果と考察
全体研究として、尿検体収集を伴った糖尿病性腎症レジストリーの拡充を進めた。これは日本腎臓学会が推進している腎臓病総合レジストリーシステムと密接に連携している。平成23年12月末現在、420例が登録された。また、尿検体収集例は228例であった。さらに214例の経時データが登録された。今後も症例登録、データの集積を継続し、本邦の糖尿病性腎症の病態解析、予後評価を行う。さらに、糖尿病性腎症の病態•予後を反映する病期分類を目指し、病期分類の改訂にむけた提言を示した。これは、1.多施設共同による事前登録前向き研究、2.メタ解析、3.長期観察を行った腎生検症例の予後解析を根拠として作成した。腎予後、心血管病変、総死亡を反映する提言となった。この予後規定因子を用い、予後予測のための簡便なスコアリング案も提示した。バイオマーカー開発では、基盤研究に加えて、レジストリーの収集尿検体も用いて既知マーカー5種によるパネル化モデルを検討した。さらに、末梢血トランスクリプトーム解析、尿中エクソゾーム解析、尿メタボローム解析も進行した。糖尿病性腎症の新規治療法の開発ではカロリー制限模倣薬、ケモカイン受容体阻害薬、AGEs-DNAアプタマーおよびGLP-1受容体アゴニストの解析が進行した。また、一部の治療法に関しては臨床試験が開始された。
結論
本研究において、尿検体の収集を伴う長期経過観察可能なレジストリーを構築・運用した。さらに、本邦のエビデンスに基づき糖尿病性腎症病期分類の改訂にむけた提言と今後の課題を示した。また、バイオマーカーならびに新規治療法開発においては基盤研究、一部の臨床試験が進行した。

公開日・更新日

公開日
2012-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2012-12-27
更新日
-

文献情報

文献番号
201121003B
報告書区分
総合
研究課題名
糖尿病性腎症の病態解明と新規治療法確立のための評価法の開発
課題番号
H21-腎疾患・一般-002
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
和田 隆志(金沢大学 医薬保健研究域医学系)
研究分担者(所属機関)
  • 槇野 博史(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科学 )
  • 草野 英二(自治医科大学内科学講座腎臓内科学部門)
  • 羽田 勝計(旭川医科大学内科学講座病態代謝内科学分野)
  • 鈴木 芳樹(新潟大学保健管理センター)
  • 古家 大祐(金沢医科大学糖尿病・内分泌内科学)
  • 佐藤 博亮(福島県立医科大学医学部腎臓高血圧・糖尿病内分泌代謝内科学講座)
  • 湯澤 由紀夫(藤田保健衛生大学医学部腎内科学)
  • 安部 秀斉(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部病態情報医学講座腎臓内科学分野)
  • 奥田 誠也(久留米大学医学部内科学講座腎臓内科部門)
  • 篁 俊成(金沢大学医薬保健研究域医学系恒常性制御学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 腎疾患対策研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病性腎症による透析導入が増加しており、その克服は医学的、社会的に喫緊の課題である。本研究の目的は、1)糖尿病性腎症レジストリーによるデータベース構築、2)糖尿病性腎症病期分類改訂にむけた提言、3)バイオマーカー、新規治療法開発の基盤研究を行うことである。
研究方法
本研究は全体研究ならびに分科会を構成して行った。全体研究として、糖尿病性腎症例のレジストリーを構築し、糖尿病性腎症の臨床・研究の基盤を整備した。分科会として、長期に観察された本邦のコホートを用いて解析を行い、糖尿病性腎症の病態・予後を検討した。さらに、糖尿病性腎症の診断・予後を反映するバイオマーカーならびに新規治療法の開発を行った。
結果と考察
全体研究として、尿検体収集を伴った糖尿病性腎症レジストリーを運用した。これは日本腎臓学会が推進している腎臓病総合レジストリーシステムと密接に連携している。平成23年12月末現在、尿検体収集例228例、214例の経時データを含む420例が登録された。今後も前視方的研究を展開し、糖尿病性腎症の病態解析、予後評価を行う予定である。さらに、1.多施設共同による事前登録前向き研究、2.メタ解析、3. 長期観察を行った腎生検症例の予後解析を根拠として、病期分類の改訂にむけた提言を示した。アルブミン尿・蛋白尿、腎機能を病期分類の基本にすえ、病態・予後を反映する病期分類にむけた提言となった。この予後規定因子を用い、予後予測のための簡便なスコアリング案も提示した。バイオマーカー開発では、レジストリーの収集尿検体も用いて、既知マーカー5種によるパネル化モデルを検討した。さらに、末梢血トランスクリプトーム解析、尿中エクソゾーム解析、尿メタボローム解析が進行し有力なシーズが開発されている。糖尿病性腎症の新規治療法開発として、カロリー制限模倣薬、ケモカイン受容体阻害薬、AGEs-DNAアプタマーおよびGLP-1受容体アゴニストの解析が進行している。一部はすでに臨床試験が開始された。
結論
長期経過観察可能な糖尿病性腎症のデータベースを構築した。さらに、本邦のエビデンスに基づき糖尿病性腎症病期分類の改訂にむけた提言と課題を示した。また、バイオマーカーならびに新規治療法開発は基盤研究と一部の臨床試験が進行した。いずれも、独創性、公共性が高く、糖尿病性腎症の予後改善につながることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2012-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2012-12-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201121003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
糖尿病性腎症による透析導入が増加しており、その克服は医学的、社会的に喫緊の課題である。本研究班では、1)日本腎臓学会、厚生労働省関連研究班と密接に関連して、尿検体収集を伴う糖尿病性腎症レジストリーを構築し拡充した、2)長期に観察された本邦のコホートを用いて解析を行い、糖尿病性腎症の病態・予後を検討した。それに基づき糖尿病性腎症病期分類改訂にむけた提言をしたことが特筆すべき成果である。また、3)バイオマーカー、新規治療法開発の基盤研究とともに検証し論文化し得たことも学術的に大きなインパクトがある。
臨床的観点からの成果
糖尿病性腎症データベースを構築し、臨床研究の基盤を整備した。症例登録、長期経過観察を行っている。さらに本邦を代表するコホートによる事前登録前向き研究を行った。予後およびその関連因子を解析し、糖尿病性腎症の新たな病期分類案を提示したことが本研究班の最大の成果である。これに基づき、新病期分類が糖尿病性腎症病期分類2014として臨床に還元された。さらに、この予後関連因子を用い、実地臨床で簡便に使用可能な予後予測のための新規スコアリング案を提示した。その有用性を国内外コホートで検証し論文投稿中である。
ガイドライン等の開発
本研究班の最大の成果は、本邦の糖尿病性腎症の病態に基づいて、糖尿病性腎症病期分類の改訂にむけた具体的な提言をしたことである。これは本邦のエビデンスに基づき、本邦を代表する研究者たちのコンセンサスによる日本人に適した内容となっている。さらに、海外データの解析もふまえ、時代に即応した提言であることが特筆される。これに基づき新病期分類が平成26年12月に作成され、臨床応用された。この分類は診療の根底をなし、現在広く臨床で使用され診療向上に寄与している。
その他行政的観点からの成果
本研究により、腎予後、心血管イベント、総死亡に対して、保険収載されているアルブミン尿の重要性が示された。さらに、本成果は臨床上の根幹となる糖尿病性腎症の病期分類改訂と密接に関連している。実際、改定された糖尿病性腎症病期分類2014は診断、治療を行う上で基盤として広く臨床で使用されている。そのため、本研究班の成果は、将来的に糖尿病性腎症例の予後改善につながることが期待され、厚生労働行政と密接に関連していく。これらを通じ、さらなる生命予後の改善ならびに国民の福祉向上に寄与する可能性がある。
その他のインパクト
新規治療法開発において、基盤研究にとどまらず一部は臨床試験が開始され、臨床との橋渡し研究も進んだ。さらに、バイオマーカー研究において、基盤研究に加えて既知マーカーによるパネル化モデルを検討し、論文化したことも大きな成果である。さらに市民公開講座や腎臓学会の公開セッション、学会、論文発表も積極的に行い情報を発信した。これら成果の発信により、今後の糖尿病性腎症の実地診療にも大きなインパクトを与えるものと考える。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
105件
その他論文(和文)
50件
その他論文(英文等)
13件
学会発表(国内学会)
76件
学会発表(国際学会等)
67件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計6件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Furuichi K, Shimizu M, Toyama T, et al.
Japan Diabetic Nephropathy Cohort Study: study design, methods, and implementation.
Clin Exp Nephrol , 17 (6) , 819-826  (2013)
10.1007/s10157-013-0778-8
原著論文2
Shimizu M, Furuichi K, Toyama T, et al.
Long-term outcomes of Japanese type 2 diabetic patients with biopsy-proven diabetic nephropathy.
Diabetes Care , 36 (11) , 3655-3662  (2013)
10.2337/dc13-0298
原著論文3
Iwata Y, Furuichi K, Hashimoto S, et al.
Pro-inflammatory/Th1 gene expression shift in high glucose stimulated mesangial cells and tubular epithelial cells.
Biochem Biophys Res Commun , 443 (3) , 969-974  (2014)
10.1016/j.bbrc.2013.12.072.
原著論文4
Nakade Y, Toyama T, Furuichi K, et al.
Impact of kidney function and urinary protein excretion on pulmonary function in Japanese patients with chronic kidney disease.
Clin Exp Nephrol , 18 (5) , 763-769  (2014)
10.1007/s10157-013-0920-7.
原著論文5
Nakade Y, Toyama T, Furuichi K, et al.
Impact of kidney function and urinary protein excretion on intima-media thickness in Japanese patients with type 2 diabetes.
Clin Exp Nephrol , 19 (5) , 909-917  (2015)
10.1007/s10157-015-1088-0.
原著論文6
Araki S, Haneda M, Koya D, et al.
Predictive effects of urinary liver-type fatty acid-binding protein for deteriorating renal function and incidence of cardiovascular disease in type 2 diabetic patients without advanced nephropathy.
Diabetes Care , 36 (5) , 1248-1253  (2013)
10.2337/dc12-1298
原著論文7
Iwano M, Yamaguchi Y, Iwamoto T, et al.
Urinary FSP1 is a biomaker of crescentic GN.
J Am Soc Nephrol , 23 (2) , 209-214  (2012)
10.1681/ASN.2011030229
原著論文8
Kuwabara T, Mori K, Mukoyama M, et al.
Exacerbation of diabetic nephropathy by hyperlipidaemia is mediated by Toll-like receptor 4 in mice.
Diabetologia , 55 (8) , 2256-2266  (2012)
10.1007/s00125-012-2578-1
原著論文9
Hara A, Sakai N, Furuichi K, et al.
CCL2/CCR2 augments the production of transforming growth factor-beta1, type 1 collagen and CCL2 by human CD45-/collagen 1-positive cells under high glucose concentrations.
Clin Exp Nephrol , 17 (6) , 793-804  (2013)
10.1007/s10157-013-0796-6
原著論文10
Toyama T, Furuichi K, Ninomiya T, Shimizu M, Hara A, Iwata Y, Kaneko S, Wada T.
The impacts of albuminuria and low eGFR on the risk of cardiovascular death, all-cause mortality, and renal events in diabetic patients: meta-analysis.
PLoS ONE , 30 (8) , e71810-  (2013)
10.1371/journal.pone.0071810
原著論文11
Wada T, Shimizu M, Yokoyama H, Iwata Y, Sakai Y, Kaneko S, Furuichi K.
Nodular lesions and mesangiolysis in diabetic nephropathy.
Clin Exp Nephrol , 17 (1) , 3-9  (2013)
10.1007/s10157-012-0711-6
原著論文12
Wada T, Haneda M, Furuichi K, et al.
Clinical impact of albuminuria and glomerular filtration rate on renal and cardiovascular events, and all-cause mortality in Japanese patients with type 2 diabetes.
Clin Exp Nephrol , 18 (4) , 613-620  (2014)
10.1007/s10157-013-0879-4.
原著論文13
Shimizu M, Furuichi K, Yokoyama H, Toyama T, Iwata Y, Sakai N, Kaneko S, Wada T.
Kidney lesions in diabetic patients with normoalbuminuric renal insufficienncy.
Clin Exp Nephrol , 18 (2) , 305-312  (2014)
10.1007/s10157-013-0870-0
原著論文14
Toyama T, Shimizu M, Furuichi K, Kaneko S, Wada T.
Treatment and impact of dyslipidemia in diabetic nephropathy.
Clin Exp Nephrol , 18 (2) , 201-205  (2014)
10.1007/s10157-013-0898-1
原著論文15
Nakamura A, Shikata K, Nakatou T, Kitamura T, Kajitani N, Ogawa D, Makino H
Combination therapy with an angiotensin converting enzyme inhibitor and an angiotensin II receptor antagonist ameliorates microinflammation and oxidative stress in patients with diabetic nephropathy
J Diabetes Invest , 4 (2) , 195-201  (2013)
10.1111/jdi.12004
原著論文16
Sato H, Takahashi N, Sato E, Kisu K, Ito S, Saito T.
Pathology of glomerular lipidosis.
Clin Exp Nephrol , 18 (2) , 194-196  (2014)
10.1007/s10157-013-0882-9
原著論文17
Nagai K, Miyoshi M, Kake T, et al.
Dual involvement of growth arrest-specific gene 6 in the early phase of human IgA nephropathy.
PLoS One , 24 (6) , e66759-  (2013)
10.1371/journal.pone.0066759
原著論文18
Yoshikawa K, Abe H, Tominaga T, et al.
Polymorphism in the human matrix Gla protein gene is associated with the progression of vascular calcification in maintenance hemodialysis patients.
Clin Exp Nephrol , 17 (6) , 882-889  (2013)
10.1007/s10157-013-0785-9.
原著論文19
Haneda M, Utsunomiya K, Koya D, et.al
A new classification of Diabetic Nephropathy 2014: a report from Joint Committee on Diabetic Nephropathy.
Clin Exp Nephrol , 19 (1) , 1-5  (2015)
10.1007/s10157-014-1057-z.
原著論文20
Nagase R, Kajitani N, Shikata K, et al.
Phenotypic change of macrophages in the progression of diabetic nephropathy; sialoadhesin-positive activated macrophages are increased in diabetic kidney.
Clin Exp Nephrol , 16 (5) , 739-748  (2012)
10.1007/s10157-012-0625-3

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2018-06-26

収支報告書

文献番号
201121003Z