飲食店等多数の者が利用する施設における受動喫煙対策の実態及び課題に関する研究

文献情報

文献番号
201120062A
報告書区分
総括
研究課題名
飲食店等多数の者が利用する施設における受動喫煙対策の実態及び課題に関する研究
課題番号
H23-循環器等(生習)・一般-012
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
大和 浩(産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 太田 雅規(産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室)
  • 江口 泰正(産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室 )
  • 欅田 尚樹(国立保健医療科学院 生活環境部)
  • 葛西 宏(産業医科大学 産業生態科学研究所 職業性腫瘍学)
  • 河井 一明(産業医科大学 産業生態科学研究所 職業性腫瘍学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
7,540,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)飲食店等のサービス産業で喫煙区域や喫煙室を設ける工学的な対策では、その施設の利用者の受動喫煙を防止できないことを実際の店舗で実証すること。
2)喫煙可能な店舗で働く従業員の呼吸領域の受動喫煙を評価すること。
3)サービス産業の従業員が、職業的な受動喫煙に曝露された場合の遺伝子障害の有無を検討すること。
4)2010年に発売が開始された嗅ぎタバコから発生するガス状物質の定量を行うこと。
5)公共交通機関の受動喫煙対策の改善状況を評価すること。
研究方法
1)喫煙区域を壁や自動ドア、エアカーテンなどの工学的対策で隔離した飲食店で、喫煙により発生した微小粒子状物質(PM2.5)濃度を測定した。
2)店舗の許可を得て、従業員の胸元のPM2.5濃度を測定した。
3)店舗の許可と従業員の同意を得て、勤務中の受動喫煙に曝露される前後で遺伝子障害の指標として、唾液中の遺伝子付加体(8-OH-Gua)の濃度を測定した。
4)鉄道車両内で受動喫煙が発生しない車両の割合を禁煙化率と定義し、2005年以降の経時変化を検討した。関西の私鉄で使用されている喫煙室、喫煙コーナーのある有料特急で、客席における受動喫煙をPM2.5濃度測定により評価した。
5)模擬喫煙装置を用いて、嗅ぎタバコから発生するガス状物質の定量を行った。
結果と考察
1)喫煙区域を壁や自動ドア、エアカーテンなどの工学的対策で隔離しても、禁煙区域の利用者は高い濃度(最大225μg/m3)の受動喫煙に曝露されている実態が明らかとなった。
2)そのような店舗で働く従業員は、喫煙者の接客時にさらに高い濃度(600μg/m3以上)の受動喫煙に曝露されることも明らかとなった。
3)喫煙出来る店舗で働く従業員は、勤務中の受動喫煙の曝露により8-OH-Guaが上昇しており、遺伝子障害が発生する可能性があることが認められた。
4)鉄道の利用者および乗務員の受動喫煙が、現在でも発生している実態が明らかとなった。
5)嗅ぎタバコから発生するガス状のニコチン濃度は、2000回吸引してもほぼ一定であることが判明した。
結論
飲食店等のサービス産業、および、鉄道などの公共交通機関では、利用者の受動喫煙だけでなく、従業員の受動喫煙も防止するために、喫煙区域や喫煙専用ルームを設けない全面禁煙が必要であると考えられた。また、喫煙者の禁煙企図を高めるために、禁煙区域では嗅ぎタバコの使用を禁止すること、さらには、販売そのものも禁止するべきであると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-10-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201120062C

成果

専門的・学術的観点からの成果
飲食店等のサービス産業で勤務する前後で遺伝子障害のマーカーである唾液中8-OH-Guaが上昇したことを確認できた。飲食店等の受動喫煙問題を「そこを職場として働く人の健康を守る」という観点から捉えた研究であり、サービス産業も含めて全面禁煙化を推進すべきである、という厚生労働行政の方向性について検討材料を提供できたと考えている。
臨床的観点からの成果
飲食店で働く労働者は約600万人、その他のサービス産業を含めるとさらに多くの労働者が職業的な受動喫煙に曝されている。すでに、サービス産業も含めて全面禁煙とする受動喫煙防止法が成立している国では、心筋梗塞が17%減少すること、また、喘息が毎年18%減少したことが報告されており、わが国でも同様の効果を期待できる受動喫煙防止法の成立への基礎データが得られたと考えられる。
ガイドライン等の開発
「受動喫煙防止対策について」(健発0225第2号、平成22年2月25日)を検討する委員会に通学路の受動喫煙濃度のリアルタイムモニタリング結果を提出したことにより、「屋外であっても講演、遊園地や通学路など」は受動喫煙対策が必要、と盛り込まれた。
その他行政的観点からの成果
兵庫県「受動喫煙の防止等に関する条例」の検討委員のメンバーとして参加し、「官公庁には喫煙室を設けることは禁止」とすることができた(平成23年)。飲食店等についても「サービス産業も含めた全面禁煙」を兵庫県医師会代表の委員と共に主張し、検討会報告書には、「サービス産業も含めた全面禁煙(暫定的な喫煙室の設置は容認)」と盛り込まれた。しかし、飲食店業界からの強い反発により、逆に、喫煙室の設置を推奨する内容の条例に変容し、成立してしまった(平成24年3月21日)。
その他のインパクト
平成23年9月、兵庫県受動喫煙防止条例の推進を目的に本科研の成果発表会を神戸市で開催した。
平成23年5月、厚生労働省主催、世界禁煙デーシンポジウムにおいて、飲食店の受動喫煙問題について解説した。
平成24年2月、日本癌学会主催の市民講座「禁煙の日」でサービス産業従事者の職業的受動喫煙による健康障害を発表。
これらの活動は平成23年度にマスコミで22回取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
6件
安全と健康「職場におけるこれからの喫煙対策」、Heart View「禁煙の場はどの範囲が適切か」など商業誌に6編掲載
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
1件
タバコか健康か世界会議(World Conference on Tobacco or Health)
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
兵庫県「受動喫煙の防止等に関する条例」報告書
その他成果(普及・啓発活動)
3件
本科研に関する成果発表会(神戸)、広島県主催「受動喫煙防止推進シンポジウム」、日本癌学会主催市民講座「禁煙の日」

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-10-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201120062Z