文献情報
文献番号
199700949A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫系ノックアウトマウスを用いたリンパ球の活性化及び免疫寛容に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
岸原 健二(九州大学生体防御医学研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
皮膚移植において同種移植片の拒絶の主要なエフェクターはTリンパ球であるが、異種移植片の拒絶におけるT細胞のエフェクターとしての役割はまだ明確ではない。本研究では、同種・異種皮膚移植片の拒絶におけるCD4陽性及びCD8陽性T細胞の役割と比重を明確にする目的で、CD4及びCD8ノックアウトマウスにおいて同種・異種皮膚片の移植を行い、移植片拒絶マウスを免疫学的に解析した。
研究方法
CD4及びCD8ノックアウト(KO)マウスは、いずれもC57BL/6 (B6, H-2b)に対して7回以上戻し交配された。同種移植片は、BALB/cマウス (B6, H-2d)から得た。また、ラット、モルモット、ウサギから異種皮膚片をレシピエントの背面に移植した後、移植片の生着を経過観察した。さらに、各群のマウスにおいて、混合リンパ球反応 (MLR)、細胞傷害性Tリンパ球 (CTL)活性、細胞傷害性自然抗体価などを調べた。さらに、ヒト皮膚移植片に関しても解析を加えた。その際、ヒト皮膚移植片の拒絶にかかわるエフェクター細胞の同定と比重を明らかにする目的で、抗CD8及び抗TCRab抗体投与の移植片生着延長効果の解析ならびに移植部位での浸潤細胞の免疫組織染色よる同定を行った。
結果と考察
同種皮膚移植片の拒絶は、B6マウスと比較して、CD8 KOマウスで移植片の生着延長がわずかに認められたが、CD4KOマウスではより長い生着延長が認められた。一方、異種皮膚移植片の拒絶に関して、ラット移植片はいずれのマウスにおいても速やかに拒絶されたが、モルモット及びウサギ移植片は、CD8 KOマウスでは同種移植片と同様に拒絶されるが、CD4 KOマウスではかなりの生着延長が認められた。
いずれのマウスの脾細胞も同種細胞に対するCTL活性を示したが、異種であるモルモット及びウサギ細胞に対するCTL活性は認められなかった。しかしながら、CD4 KOマウス由来の脾細胞においてのみ、異種であるラット細胞に対するCTL活性が有意に認められた。また、いずれのマウスにおいても、ウサギ皮膚移植片を拒絶した後では、ウサギ細胞に対するCTL活性が誘導された。
いずれのマウスの脾細胞も同種細胞に対する増殖反応 (MLR)を示したが、CD8 KOマウス由来の脾細胞は他と比較して増殖反応がかなり低かった。ラット細胞に対する増殖反応に関しては、同種細胞に対する増殖反応と同様な傾向が見られたが、とくにCD4 KOマウス由来の脾細胞において増殖反応が増強していた。モルモット細胞に対する増殖反応は、いずれのマウスの脾細胞からも検出されなかった。一方、ウサギ細胞に対する増殖反応に関しては、いずれのマウスの脾細胞においても低いながら認められた。マウス皮膚移植片を拒絶した後のB6及びCD8 KOマウスの脾細胞では、ウサギ細胞に対する増殖反応が認められたが、CD4 KOマウス由来の脾細胞ではより低い反応しか見られなかった。
何ら処理を施していない各マウスからの血清に関して、同種・異種細胞に対する細胞傷害性自然抗体価を調べた。B6マウス由来の血清ではウサギ細胞に対する高い細胞傷害活性とモルモット細胞に対する中程度の細胞傷害活性が認められた。また、CD4及びCD8 KOマウス由来の血清では、ウサギ及びモルモット細胞に対する中程度の細胞傷害活性が認められた。しかしながら、いずれのマウス血清においてもB6, BALB/c及びラット細胞に対する細胞傷害活性は検出されなかった。
ヒト移植片の拒絶は、CD4 KOマウスとCD8 KOマウスのいずれにおいても生じた。正常ママウス(B6)に比べて、CD8 KOマウスでは移植片の生着延長はまったく認められなかったが、CD4 KOマウスにおいて移植片の生着延長が認められた。また、CD4 KOマウスに移植したヒト移植片へ浸潤している細胞は主にCD8 陽性細胞であることが明らかとなった。さらに、ヒト移植片を移植したCD4 KOマウスに抗CD8抗体を投与するとさらなる移植片の生着延長が認められた。したがって、CD8 陽性細胞は、ヒト移植片の拒絶には必須ではないが、CD4 陽性細胞による移植片の拒絶に補助的な役割をすることが明らかとなった。また、CD4 KOマウスにおいて抗TCRab抗体投与が抗CD8抗体投与よりもヒト移植片の生着を延長したことから、CD4-CD8- abT細胞もヒト移植片の拒絶に関与している可能性が示唆された。
いずれのマウスの脾細胞も同種細胞に対するCTL活性を示したが、異種であるモルモット及びウサギ細胞に対するCTL活性は認められなかった。しかしながら、CD4 KOマウス由来の脾細胞においてのみ、異種であるラット細胞に対するCTL活性が有意に認められた。また、いずれのマウスにおいても、ウサギ皮膚移植片を拒絶した後では、ウサギ細胞に対するCTL活性が誘導された。
いずれのマウスの脾細胞も同種細胞に対する増殖反応 (MLR)を示したが、CD8 KOマウス由来の脾細胞は他と比較して増殖反応がかなり低かった。ラット細胞に対する増殖反応に関しては、同種細胞に対する増殖反応と同様な傾向が見られたが、とくにCD4 KOマウス由来の脾細胞において増殖反応が増強していた。モルモット細胞に対する増殖反応は、いずれのマウスの脾細胞からも検出されなかった。一方、ウサギ細胞に対する増殖反応に関しては、いずれのマウスの脾細胞においても低いながら認められた。マウス皮膚移植片を拒絶した後のB6及びCD8 KOマウスの脾細胞では、ウサギ細胞に対する増殖反応が認められたが、CD4 KOマウス由来の脾細胞ではより低い反応しか見られなかった。
何ら処理を施していない各マウスからの血清に関して、同種・異種細胞に対する細胞傷害性自然抗体価を調べた。B6マウス由来の血清ではウサギ細胞に対する高い細胞傷害活性とモルモット細胞に対する中程度の細胞傷害活性が認められた。また、CD4及びCD8 KOマウス由来の血清では、ウサギ及びモルモット細胞に対する中程度の細胞傷害活性が認められた。しかしながら、いずれのマウス血清においてもB6, BALB/c及びラット細胞に対する細胞傷害活性は検出されなかった。
ヒト移植片の拒絶は、CD4 KOマウスとCD8 KOマウスのいずれにおいても生じた。正常ママウス(B6)に比べて、CD8 KOマウスでは移植片の生着延長はまったく認められなかったが、CD4 KOマウスにおいて移植片の生着延長が認められた。また、CD4 KOマウスに移植したヒト移植片へ浸潤している細胞は主にCD8 陽性細胞であることが明らかとなった。さらに、ヒト移植片を移植したCD4 KOマウスに抗CD8抗体を投与するとさらなる移植片の生着延長が認められた。したがって、CD8 陽性細胞は、ヒト移植片の拒絶には必須ではないが、CD4 陽性細胞による移植片の拒絶に補助的な役割をすることが明らかとなった。また、CD4 KOマウスにおいて抗TCRab抗体投与が抗CD8抗体投与よりもヒト移植片の生着を延長したことから、CD4-CD8- abT細胞もヒト移植片の拒絶に関与している可能性が示唆された。
結論
本研究において、CD4 及びCD8 KOマウスのいずれも同種・異種皮膚移植片を拒絶することが明かとなった。それと同時に、B6及びCD8 KOマウスに比べて、CD4 KOマウスは異種であるウサギ移植片の生着がかなり延長することを見い出した。また、この異種移植片の生着期間は、同種移植片の生着期間よりも長かった。この結果から、(1) CD4 陽性T細胞は同種・異種皮膚移植片の拒絶に必須ではないこと、(2)ドナーの動物種がレシピエントの動物種よりも系統発生においてより掛け離れるいる方が、CD4 陽性T細胞の役割の比重が重いことが示唆される。(3) ヒト移植片の拒絶においても、CD4 陽性T細胞の方がCD8 陽性T細胞よりも重要であることが証明された。しかしながら、CD8 陽性T細胞及びCD4-CD8- abT細胞もヒト移植片の拒絶に補助的な役割を果たしていることも示唆された。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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