臓器移植の基盤整備に関する臨床的研究-免疫抑制性同種皮膚の作製とヒト皮膚移植-

文献情報

文献番号
199700948A
報告書区分
総括
研究課題名
臓器移植の基盤整備に関する臨床的研究-免疫抑制性同種皮膚の作製とヒト皮膚移植-
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
藤田 龍哉(札幌医科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
重症の広範囲熱傷の治療は早期の焼痂切除及びそれに続く皮膚欠損の被覆である。被覆する自家皮膚が不足して自家皮膚移植が行えない状況では同種皮膚移植(skin allograft)が第1選択であり、これにより一時的にせよ創が閉鎖されることによって救命率が高められている。しかし日本の現状ではallograftはほとんど入手できず、為にallograftをもちいた治療を行っている施設はわずかである。今後も続くであろうallograft入手の困難性やスキンバンクの組織作りに要する膨大な労力を鑑みると、現在では培養表皮に免疫寛容導入効果を持たせた人工皮膚の作製とその保存こそがこれからの時代に適したスキンバンクになるだろうと考えられる。このようなヒト皮膚局所における免疫抑制効果を誘導するためのヒントを見つけるためにラットを用いて同種皮膚移植(allograft)における局所免疫抑制についての基礎実験を行った。
研究方法
1.Allograftモデルと同種皮膚移植片の組織学的検討;DonorをLewis ラット(RT1l)とし、その尻尾の全層皮膚1cm2を採取しrecipientであるACIラット(RT1a)の側胸部に移植した(完全不適合モデル)。拒絶反応の客観的基準を決めるために移植後3日目から10日目 までの移植片を組織学的に観察し、同種皮膚移植片における拒絶反応のcriteriaを設定した。2.皮膚局所における免疫抑制状態の作製;0.5%FK506軟膏0.1mlを48時間ごとに塗布した群(n=5)とplacebo軟膏を塗布した群(n=5)での 移植片の拒絶反応を組織学的に検討した。拒絶判定はcriteriaにしたがって7日目におこなった。またFK506血中濃度をELISAをもちいて測定した。3.抗体の全身投与による免疫抑制効果;0.5%FK506軟膏に加え抗CD4MAb(RTH7)(n=7)、抗CD8MAb(10B5)(n=5)、抗ICAM-1MAb(1A29) (n=5)、抗LFA-1MAb(WT1)(n=5)を1mg/ratで移植日から4日間腹腔内投与し、移植片の拒絶反応を比較した。拒絶判定は14日目におこなった。4.ヒトリンパ球混合試験における免疫抑制性サイトカインIL-10,IL-16の検討;皮膚局所における免疫抑制状態の作製のために、表皮細胞と線維芽細胞から分泌させる免疫抑制性物質の検討としてIL-10,IL-16のリンパ球混合試験をおこなった。健康なボランティアより採血し、リンパ球を分離したのちstimulatorはMMC処理し、responderはナイロンファイバーで処理してT細胞を得た。responder105/wellをIL-10,IL-16と1hインキュベートさせた後にstimulator105/wellと混合した。negative control にはBSA, positive controlには抗CD4MAb(TD4C5)をくわえた。4日目に[3H]thymidineでPulseし、5日目 にシンチレーションカウンターでcpmをカウントした。結果はsample(cpm) - responder(cpm) / control(cpm)-responder(cpm)x100(%)=% proliferationとして算出した。
結果と考察
結果=1.同種皮膚移植片における拒絶反応のcriteria;5日目から表皮内blister形成、acanthosisが認められ、真皮血管周囲のリンパ球浸潤が増加してきた。6日目にはリンパ球浸潤が表皮に及び表皮基底層が、真皮から部分的に剥離していた。7日目には表皮層は完全に真皮層から剥離した。これら観察から同種皮膚移植片における拒絶反応のcriteriaを以下の如く定義した。grade1;表皮内の水泡形成、grade2;表皮層の真皮層からの部分的剥離、grade3;表皮層の真皮層からの完全剥離。2.0.5%FK506軟膏をもちいた皮膚局所における免疫抑制状態の作製;placebo群では移植後7日目で全例がgrade3となった。FK506群では7日目でgrade3は1例も認められず、明らかな拒絶延長効果が得られた。組織学的にはgraftの真皮上層ではリンパ球浸潤は軽度で表皮層のblister形成やacanthosisは認められず、構築も保た
れていた。しかしながら真皮下層すなわちrecipientとの境界部ではリンパ球浸潤はかなり多かった。FK506血中濃度は8例中6例で測定限界値以下を示した。3.抗体の全身投与による免疫抑制効果;CD4mAb(RTH7)を投与した群でgrade1が認められたが、grade3も認められた。抗CD8MAb(10B5)、抗ICAM-1MAb(1A29)、抗LFA-1MAb(WT1)では全例grade3となり、抗体全身投与の効果は認められなかった。4.ヒトリンパ球混合試験mixed lymphocyte reaction(MLR)における免疫抑制性サイトカインIL-10,IL-16の検討;コントロールに比較してIL-16とIL-10はそれぞれMLRを有意差を持って抑制した。IL-16は10-8Mと10-7Mで、IL-10は0.1および1.0μg/mlで抑制した。また、IL-16はIL-10の抑制効果を増強した。
考察=従来同種皮膚移植の拒絶の判定は肉眼で行われてきたが、かなり判断が難しく客観性に欠けていた。我々はLewis ラット(RT1l)からACIラット(RT1a)への皮膚移植モデルの組織学的検討から特徴ある変化を見いだした。すなわち5日目から表皮層にblister形成やacanthosisが出現し、リンパ球浸潤が移植片の真皮血管周囲からはじまり、徐々に表皮に向かって進みついには表皮層の剥離にすすんだ。この実験系では7日目には拒絶が完成された。つぎにこの拒絶のcriteriaに従って実験を進めた。まず、皮膚局所での免疫抑制状態の作製が可能かどうかを免疫抑制剤FK506の局所投与で調べた。この実験によりrat skin allograftの拒絶延長効果が認められた。移植片ではコントロールのような表皮層の変化がみられず、リンパ球の浸潤は真皮血管周囲でとどまり、表皮層には及んでいなかった。このことから皮膚局所での免疫抑制状態が作られうることが示唆された。対照的に抗CD4抗体の全身投与ではallograftの拒絶延長効果が一定でなく、抗体の皮膚局所への移行に問題があるか、抗体が中和された可能性があると思われた。以上3つの実験から重傷熱傷患者に対する同種皮膚の生着延長を図るために皮膚を構成する表皮細胞と線維芽細胞になんらかの免疫抑制性物質を持続発現させ局所での免疫寛容を誘導することを考えた。表皮細胞あるいは線維芽細胞に発現させるものとして、CD4のnatural ligandであるサイトカインIL-16と抑制性サイトカインIL-10に着目した。どちらもTh1型細胞をを抑制すると言われれている。われわれの行なった実験でもmixed lymphocytereactionにおいてIL-16とIL-10の抑制効果を確認できた。現在はIL-10とIL-16の遺伝子を表皮細胞と線維芽細胞に導入することによる寛容誘導の検討を始めている。
結論
1.ラットAlloraft modelでの拒絶反応の組織学的criteriaを設け、FK506軟膏による免疫抑制剤の皮膚局所での免疫抑制効果を確認した。2.抗体の全身投与によるFK506軟膏の免疫抑制効果はCD4MAbで部分的に増幅効果が認められたが、CD8MAb、ICAM-1MAb、LFA-1MAbでは抗体全身投与の効果は認められなかった。3.IL-10,IL-16がmixed lymphocyte reaction(MLR)を抑制することを確認できた

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