造血細胞移植と免疫応答に関する研究

文献情報

文献番号
199700947A
報告書区分
総括
研究課題名
造血細胞移植と免疫応答に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小寺 良尚(名古屋第一赤十字病院)
研究分担者(所属機関)
  • 笹月健彦(九州大学生体防御医学研究所)
  • 十字猛夫(日本赤十字社中央血液センター)
  • 森島泰雄(愛知県がんセンター病院)
  • 池田康夫(慶應義塾大学医学部)
  • 浅野茂隆(東京大学医科学研究所)
  • 原田実根(岡山大学医学部)
  • 加藤俊一(東海大学医学部)
  • 西平浩一(神奈川県立こども医療センター)
  • 原宏(兵庫医科大学)
  • 中畑龍俊(東京大学医科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
63,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 造血細胞移植は、近年従来の同胞間同種骨髄移植に加えて非血縁者間同種骨髄移植、自家骨髄移植、自家末梢血幹細胞移植、同種末梢血幹細胞移植、同種臍帯血移植、自家ならびに同種精製幹細胞移植と多様化しつつある。本研究は、これら多様化する造血細胞移植の成績向上と普及に関わる要因を主として免疫学的視点より研究する。即ち上記造血細胞移植の中でも主力となる同種移植の成功に一義的に重要と考えられる患者―ドナー間のより完全なHLA適合性をDNAタイピング法を応用することにより高める。多様化しつつある移植法を拡充整備し、それぞれの移植法の適応を定めるとともに、これら同種移植に共通した合併症である拒絶と移植片対宿主病(GVHD)の至適制御法を確立する。造血幹細胞のex vivo増幅とそれを用いた移植の臨床応用の可能性につき検討する。
研究方法
 1)日本骨髄バンクの拡充、整備、海外骨髄バンクとの提携を促進しつつ、それらを介した非血縁者間骨髄移植例に対し、FK-506,ATG等のGVHD抑制効果をretrospectiveに検討する。 2)現在までに実施された非血縁者間骨髄移植における患者とドナーのHLA-DNAタイピングの適合度と拒絶ならびにGVHDの相関をretrospectiveに解析する。 3)既存の臍帯血バンクの連絡を深め相互利用システムを定めるとともに臍帯血移植ガイドラインに基いて非血縁者間臍帯血移植の症例を重ねる。4)血縁者間末梢血幹細胞移植の症例を重ね患者とドナーの安全性を確認する。5)骨髄、末梢血及び臍帯血中の多能性幹細胞のex vivo増殖つき検討する。
結果と考察
(結果) 1)日本骨髄バンクは現在90,000人を超えるドナープールを擁し、5,000余任の登録患者の25%に当たる1,400名に非血縁者間骨髄移植を実施した。初期の949例につき解析したところスタンダードリスクの白血病の3年無病生存率はAMLで74%、ALLで67% CMLで51%と、殊に急性白血病においてはHLA遺伝的適合同胞間骨髄移植に比べ遜色無い成績であった。急性GVHDは?度以上が43%、?度以上が19%と同胞間移植に比べ高頻度に併発したが、FK-506が予防的に使われた44例では、?度以上は2%に止まった。 米国骨髄バンクとの提携が成され、海外からの骨髄を用いた非血縁者間骨髄移植が実施された。成績は日本骨髄バンクを介したものと変わらない。移植前患者の様々な問題を調査、整理、解決し非血縁者間骨髄移植をスムースに行うことを目的として日本骨髄バンク患者相談窓口(Patient Advocacy)を開設した。開設して1月の間に相談件数約70件、内容はセカンドオピニオンを求めるもの、医療費に関わるものがおおかった。 2)これら非血縁者間骨髄移植例の内、初期の440例おけるHLA のDNAレベルでの解析を行い、これら遺伝子のマッチングの予後に与える影響を検討したところ、急性GVHD発生率はHLA -A ,Cがそれぞれマッチした患者―ドナーの組み合わせの場合に有意に低く、生存率はHLA-Aがマッチした組み合わせにおいて有意に向上していることが明らかになった。 又、 HLA-Cがマッチしていない組み合わせにおいては移植後の白血病再発が有意に低いことから同抗原が移植後再発の抑止に関わりがあることが示された。 3)わが国に現存する9個所の民間臍帯血バンクのネットワーク化につき合意が得られ、各バンクに保存されている臍帯血総数は約1,500検体
であることが明らかになった。これら既存の臍帯血のクオリティにつき研究班のガイドラインに沿って視察、検証を行った。又、これら臍帯血ならびに登録患者のHLA情報を一個所に集め照合するための研究班登録センターが設置された。我が国で今までに行われた臍帯血移植例の調査がなされた。 20例の血縁者間移植例中16例(80%)及び12例の非血縁者間移植例中10例(83%)が生存中でありGVHDは軽度でHLA一部不適合移植も可能であることが示唆されている。 4)わが国で血縁者間同種末梢血幹細胞移植は今までに約100例実施されているが内56例の患者並びに63例のドナーにつき解析がなされた。ドナーにおいては、採取中及び採取後の副作用として腰痛、倦怠感等の自覚症状、血小板減少等の検査値異常が見られたがほとんどがWHO基準のGrade-2以下に止まった。患者における移植後の血液学的回復は骨髄移植より速やかであり急性、慢性GVHD発生率は骨髄移植に比べやや高いものの、非定型的で重症のものは少なく総じて本移植法は患者、ドナー双方にとって安全且つ有効な治療法になるものと思われた。 5)造血幹細胞のex vivo増幅の一環として臍帯血中の未分化造血前駆細胞であるCD-34(+)IL-6R(-)細胞の増幅条件を検討したところ、IL-6、sIL-6R,SCF存在下で200倍の増幅率がえられTPOの添加によりさらに増幅されることを確認した。
(考察) 1)日本骨髄バンクにおけるHLA適合ドナーの見つかる確率は70%であるが実際の非血縁ドナー骨髄供給率は未だ25%であり、ドナーの質的向上、コーディネートシステムの改善が必要であるとともに海外骨髄バンクとの提携をさらに進めることは意義ある事と思われる。移植成績の向上に一義的に重要なGVHDの制御法にはFK-506の予防投与が有望であり cyclosporinとのprospective randomized studyによる証明が急務であろう。 2)HLA Class-?抗原のDNAレベルでの適合性、殊にA座抗原のそれが予後に影響を与えることが明らかになったので、今後は、可及的にDNAレベルまで適合したドナーからの移植が望ましいと考えられる。C座抗原が不適合であった場合GVHDの発生頻度は高まるものの再発が少なくなり予後に影響を与えないという結果は、C座抗原が移植骨髄中のリンパ球による抗白血病作用(GVL)の標的抗原である可能性を示唆し、今後はそれに対するエフェクターリンパ球サブセットの解析が重要であろう。 3)9地域に在る臍帯血バンクのネットワークが形成され、臍帯血ならびに登録患者のHLA情報と照合が中央化されたことはHLA適合臍帯血を得る確率を向上させるとともに、それを得るまでの時間を短縮させ移植成績の向上に寄与するものと考えられる。 4)同種末梢血幹細胞移植がドナー並びに患者にとって安全且つ有効な移植法であることは略確立されつつある。G-CSFを投与された健常ドナーの晩期副作用に対するモニターシステムを構築しつつ、本移植法の健康保険適用を要望してゆきたい。 5)Ex vivo増幅した造血幹細胞の臨床応用に必用な条件を整理しそれを必要とする症例の出現に備える時期にきていると思われる。
結論
 1) 非血縁者間骨髄移植療法は、HLA Class-?抗原のDNAレベルでの適合性並びに強力なGVHD予防法(FK-506,ATG等)を考慮して行なう時、HLA遺伝的適合同胞間骨髄移植と同様に有用な治療法である。  2) 臍帯血移植は、骨髄移植と同等の治療効果を有することが推測され、それを可能にする臍帯血バンクシステムの構築は意義ある事業である。  3) 末梢血幹細胞移植が、患者において骨髄移植と同等もしくはそれ以上に有用であり、ドナーにおいても短期、中期的には安全であることが確認された。  4) 海外骨髄バンクとの交流は、国内にて造血細胞ドナーの得られない患者にとって必用且つ意味のある事業である。  5) これら多様化する造血細胞移植を円滑に実施する上で患者相談窓口(Patient Advocacy)は有用な組織である。

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