臓器移植の社会資源整備に向けての研究

文献情報

文献番号
199700945A
報告書区分
総括
研究課題名
臓器移植の社会資源整備に向けての研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
北川 定謙((財)食品薬品安全センター理事長)
研究分担者(所属機関)
  • 平賀聖悟(社保三島病院)
  • 寺岡慧(東京女子医大)
  • 柏原英彦(国立佐倉病院)
  • 雨宮浩(国立小児病院)
  • 太田和夫(太田医学研究所)
  • 小柳仁(東京女子医大)
  • 真鍋禮三((財)日本眼球銀行協会)
  • 高本真一(東京大学)
  • 町野朔(上智大学)
  • 北川定謙((財)食品薬品安全センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
48,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳死移植が社会に受け入れられる過程で生じるであろう問題を発見し、その状況を把握し、その解決策を立案する。そして、その成果を行政、あるいは日本臓器移植ネットワーク、日本移植学会、関連の学会等に還元することを目的に、それら諸機関と共同してこの研究を進める。
研究方法
研究課題6テーマ「臓器移植ネットワークに関する研究」「移植の普及に関する研究」「移植の評価に関する研究」「組織移植に関する研究」「臓器移植の社会的問題に関する研究」「移植医療の社会的効果に関する研究」について、分担研究課題として(1)コ-デイネ-タ-の教育、育成に関する研究(2)多臓器移植ネットワ-クへの対応に関する研究(3)HLA検査と臓器移植ネットワ-クへの対応に関する研究(4)意思表示カ-ドの普及に関する研究(5)移植後の追跡、評価の情報システムに関する研究(6)海外渡航移植の追跡調査に関する研究(7)角膜移植ネットワ-クに関する研究(8)組織移植ネットワ-クに関する研究(9)臓器移植の法的事項に関する研究(10)移植医療の社会的効果に関する研究の10項目の構成でした。
結果と考察
結果=1)コーディネーターの教育・育成に関する研究「コーディネーターのための臓器移植概説、監修若杉長英、編集白倉良太、高原史郎、芦刈淳太郎. 日本医学館」が刊行された。UNOS教書「臓器提供という選択肢の申し出:承諾を得る際の問題点と留意点」の和訳が完成した。2)多臓器移植ネットワークへの対応に関する研究移植経費の試算については、臨床経過を脳死になる以前と脳死判定が済んだ後の2期に分け、後期経費を移植のためのレシピエント側負担と考えた。脳死体の管理料を提供臓器数の多少にかかわらず1遺体単位で算出、これに臓器毎の摘出費用を積算したものを加算して、ドナー関連費用とすることを提案した。実際に心・肝移植を施行したときに社会経済学的にどの程度の効果があるのか推定し、非移植療法に比べ5倍以上の経済的効率が期待できた。
3)HLA検査と臓器移植ネットワークのあり方に関する研究:腎移植について、ネットワークの全国8つのブロックの53の検査センターで、この検査が行われている。技術的問題もふくめ、DNAタイピングへの移行の可能性を明らかにした。さらに、技術レベル、対応検査内容、業務態勢なども含め、53の検査センタ-をHLA中央検査センター全国センタ-、HLA中核検査センターその他をHLA検査センターに位置づけた。来年度は、このシステムが実際に動くかどうかをシミュレーションをおこなう。
4)意思表示カードの普及に関する研究:新臓器移植法公布後、法律家の意見を求め、早急に意思表示カードを200万枚作成した。日本腎臓移植ネットワーク、日本移植学会、患者8団体の協力により、種々の方法で頒布・普及につとめた。このカードにどの程度に有効に記載されているかを、少数例対象群について調査した結果、街頭キャンペーンや新聞雑誌の折り込みなどで配られたものの記入率は低く、講義などで十分に説明し頒布したものは高いことが判明した。
5)移植後の追跡・評価の情報システムに関する研究:幾つかの臓器の中、腎と膵の移植についての追跡調査情報システムの構築を終了した。さらに、情報収集のためのネットワークを作った。その結果、1997年には生体腎と死体腎あわせて595例の移植が施行されたことが判明した。膵移植へは追跡内容を決定した。
6)海外渡航移植の追跡調査に関する研究:海外渡航移植の現状を、心、肺、肝ついて行なった。心臓移植は、主としてアメリカに渡航し38例である。肺移植は死体肺移植2例、生体肺移植3例の合計5例で、全例生存中である。肝移植海外渡航例で今回収録されたのは155例であった。
7)角膜移植ネットワークに関する研究:死後、鎖骨あるいは大腿動脈からの採血を行ない血清検査をするよう、アイバンクを巡回し、実習講義を行い実際の症例に施行した。その結果出たドナー感染率は、大体アメリカと同じ傾向と率であった。ただし、HIV陽性例はなかった。
8)組織移植ネットワークに関する研究:皮膚、骨、膵島、耳小骨、心臓弁、気管、血管、について、国内主要施設に調査を行なった。組織移植のシステムとしては、皮膚では近畿スキンバンク、東京スキンバンクが、骨移植は施設単位であるが骨採取は愛知骨移植研究会と北里大学骨バンクのみで行なわれ、膵島は日本膵・膵島移植研究会が中心になって準備中であり、耳小骨は兵庫イアーバンクが、心臓弁、血管、気管は組織移植研究会と凍結保存組織研究会が中心になって稼働していた。
9)臓器移植の法的事項に関する研究:平成9年10月16日施行された「臓器の移植に関する法律」の全英訳を行なった。また、新移植法は3年後の見直しに向けた社会的合意達成の為のプロセスと考え、現法の脳死の扱いを中心に問題の提起をおこなった。また、組織を死体から摘出する際に満たされるべき要件、臓器提供意思表示カードの記載内容について検討した。
10)移植医療の社会的効果に関する研究:日本循環器学会の心臓移植適応検討小委員会の移植希望患者の登録を検討し、法律施行前には広い地域から症例が登録されていたが、法律施行後は、移植施設が東京と大阪の3施設に限られたために、登録症例に地域的な片寄りができたことが明かになった。肝移植登録でも同様の現象が認められ、登録症例の大半が移植指定施設のある松本と京都の近在の症例であった。
考察=1)コーディネーターの教育・育成に関する研究:今後はコ-デイネ-タ-の実務ハンドブックなどの作成にあたる。2)多臓器移植ネットワークへの対応に関する研究:算定方法について専門施設、専門医の意見を集約していく必要がある。3)HLA検査と臓器移植ネットワークのあり方に関する研究:施設の組織化およびDNAタイピングの標準化の終了に伴い実際にシミュレーションする必要がある。4)意思表示カードの普及に関する研究:意思表示カードの配布方法の重要性が判明したが、今後、大規模な普及程度調査が必要と考える。5)移植後の追跡・評価の情報システムに関する研究:腎、膵について作業が完了し心、肝についての調査内容の検討に移行する。6)海外渡航移植の追跡調査に関する研究:心、肺、肝についての現状把握は終了した。7)角膜移植ネットワークに関する研究:感染防止のための検査方式が確立した。8)組織移植ネットワークに関する研究:現状の把握が完了した。各組織移植に共通な事項の標準化を検討をする。9)臓器移植の法的事項に関する研究:3年後の法見直しに向けて、検討する。10)移植医療の社会的効果に関する研究:公正公平な臓器移植をするには、単に医学的条件のみでなく社会的要件のあることが明らかになった。
結論
研究班として計画した1997年度の研究事業はほぼ達成されたと考える。 来年度に向けて本研究班の当初計画に従って、研究を進行する予定である。今年度班として結論をえたことについては、今後はいかに移植行政に反映するか、日本臓器移植ネットワークに利用していくかどうか、移植学会と協力するかといった方向で進めていく予定である。

公開日・更新日

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