免疫・アレルギー性疾患の症状発現及び増悪に関する研究

文献情報

文献番号
199700941A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫・アレルギー性疾患の症状発現及び増悪に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
松浦 栄次(岡山大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗リン脂質抗体症候群とは,血清中に抗カルジオリピン抗体やループスアンチコアグラントなどの抗リン脂質抗体(自己抗体)が認められる難治性の自己免疫疾患であり、動・静脈血栓、習慣流産、および血小板減少などの臨床症状を呈する。これまでに我々は、抗カルジオリピン抗体がこれらリン脂質と結合し構造変化を起こすことで初めて現れるb2-グリコプロテインI(b2-GPI)分子上のcrypticなエピトープを認識していることを免疫化学的・分子生物学的手法により示してきた。また、ごく最近、リンパ球のアポトーシスや動脈硬化の原因と考えられているマクロファージによる酸化LDLの取り込みにb2-GPIおよび抗カルジオリピン抗体、すなわち、抗b2-GPI抗体が関与していることを見いだした。本研究では、自己免疫応答と動脈硬化、血栓症の発症の機序についての解明を行うと共に、b2-GPI蛋白の三次構造モデリングとphage displayed random peptide libraryより得られた結果をもとに抗b2-GPI抗体の認識するエピトープの構造を推定したので報告する。
研究方法
血漿リポ蛋白を健常人新鮮血漿より超遠心法で精製し、金属2価イオン処理による酸化リポ蛋白、アセチル化リポ蛋白、およびマロンジアルデヒド(MDA)修飾リポ蛋白を調製した。C57BL6マウス由来の胸腺細胞およびヒトJurkat細胞を抗Fas抗体で処理しアポトーシスを誘導した。b2-GPIおよび抗b2-GPI抗体の反応性をELISAにて調べた。phage displayed random peptide libraryによりエピトープの構造を推定した。Factor HのスシドメインのNMRによる解析結果をもとにb2-GPIの立体構造を予測・構築し、M13 phageを用いるphage displayed random peptide library(7-merおよび12-mer)を用いて現在同定されるエピトープ(ペプチド構造)がb2-GPIのどの部分の構造を反映しているのかについて解析し、ヒト抗リン脂質抗体症候群患者由来のモノクローナル抗b2-GPI抗体(EY1C8)およびマウスモノクローナル抗b2-GPI抗体(Cof-18)の認識するエピトープを同定した。なお、Factor Hからの構造予測・構築を解析プログラム(GENETYX-SV/R)を用いて行い、更にドメイン間相互作用を考慮しながら、QUANTA/CHARMmにより全体構造を分子動力学的手法により最適化した。得られた全体構造上でどの部分がエピトープになり得るかをペプチドの1次配列、および分子表面の性質(形状・静電ポテンシャル)から特定した。
結果と考察
b2-GPIは、陰性荷電を有するリン脂質に結合するほか、硫酸銅処理による酸化リポ蛋白(oxVLDL、oxLDL、およびoxHDL)やアセチルLDLおよびアセチルHDLに結合したが、いずれのマロンジアルデヒド(MDA)修飾リポ蛋白に対しても反応性を示なかった。また、これら変性リポ蛋白へのb2-GPIの結合に伴って、抗リン脂質抗体症候群由来の抗b2-GPI抗体の認識するcrypticなエピトープの発現が認められた。b2-GPIの反応するリガンドは、酸化リポ蛋白の脂質画分に存在していることが明らかになりその構造を現在解析中である。変性リポ蛋白、b2-GPI、および抗b2-GPI 抗体からなる免疫複合体のマクロファージよる取り込みが有意に増加したことより、動脈硬化への抗b2-GPI抗体の関与が示唆された。酸化リポ蛋白と同様に、apoptoticな細胞を標的とする抗原ー抗体反応も確認された。EY1C8抗体およびCof-18抗体の認識するエピトープとして、各々、b2-GPIの第4ドメインおよび第5ドメイン上の構造が特定された。EY1C8の認識するエピトープは疎水性のアミノ酸から構成されており、また、分子モデリングから判断すると、それらは、b2-GPI分子の内側に局在しており、抗体などの高分子蛋白と通常接触できないと思われる。ところが、b2-GPIは、生体内で、例えば
血管傷害の結果活性化される血小板の細胞膜外層に移行したホスファチジルセリンに結合すると、自らの構造に変化が生じ、抗b2-GPI抗体の認識するエピトープが露出されると考えられる。
結論
抗リン脂質抗体症候群患者における抗リン脂質抗体の誘導と血管病変の発症との関係について明確な説明がなされていなかったが、リン脂質に対する抗体と考えられていた抗体が、リン脂質結合蛋白で凝固抑制蛋白であるb2-GPIを認識する抗体であることが明らかとなったことや、抗原ー抗体反応の分子レベルでの解析がこの様に進みつつあることで、抗リン脂質抗体症候群の発症機序が間もなく明確にされると期待している。また、この成果は、抗体が関与する血管病変の発症を競合的に阻害する治療薬の開発に極めて有効な情報である。本疾患の診断に関しては、このエピトープと類似の三次構造を有する抗原を用いるELISAなどの抗体の測定法を開発することでより特異性の高い診断法が確立されるであろう。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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