新しい細胞表面機能分子としての膜型TNF-aの機能解析と自己免疫疾患の病態解明への応用

文献情報

文献番号
199700940A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい細胞表面機能分子としての膜型TNF-aの機能解析と自己免疫疾患の病態解明への応用
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
堀内 孝彦(九州大学医学部第一内科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
TNF-αは慢性関節リウマチ(RA)をはじめとした自己免疫疾患の発症に重要な役割を果たしており、従来可溶型TNF-αがその働きの中心を担っていると考えられてきた。膜型TNF-α(26kD)は可溶型の前駆体であり、TNF-α産生刺激にともなって細胞膜表面に表出し、プロテイナーゼによる切断を受けて可溶型(17kD)を分泌する。膜型TNF-αの機能はほとんど不明であったが、近年その受容体がtype 2 TNF 受容体であることが明らかにされ(Cell 1995)、膜型TNF-αの機能が注目されている。本研究の目的は以下の3点を解明することに集約される。すなわち、?T細胞膜上に発現した膜型TNF-αが、リンパ球、滑膜細胞、マクロファージなどに作用していかなる免疫応答を惹起するか、?膜型TNF-αを発現しているT細胞自身が逆にいかなる内向きのシグナルを受け取って反応するか、?以上の結果をふまえて、細胞膜表面のサイトカインによる免疫応答の制御という従来にないまったく新しい視点から自己免疫疾患の病態を明らかにすることにある。従来可溶型TNF-αの作用のみが注目されてきたが、近年局所の炎症を制御する新しい分子として膜型TNF-αの重要性を示す知見が集積されつつある。本研究は自己免疫疾患の症状発現・進展の原因追究と治療法開発に新しい視点からアプローチするために必要であると考えられる。
研究方法
我々はすでにT細胞上の膜型TNF-αがB細胞に働いて抗体産生を誘導すること、膜型TNF-αを抗体で刺激することによりT細胞自身が活性化されIFN-g、IL-2の産生が亢進すること、細胞内カルシウム濃度が上昇することを明らかにしてきた。本年度は膜型TNF-αを刺激することによりT細胞上に細胞接着分子が誘導されるか、その細胞内シグナル伝達経路は何かを明らかにすることを中心に解析した。CD4+T細胞は健常人末梢血よりビーズにより分離、精製した。接着分子の発現はFACSで解析した。細胞内シグナル伝達経路は各種阻害剤を用い、また膜型TNF-αに会合する分子の解析にはyeast two-hybrid systemを用いた。
結果と考察
?接着分子E-セレクチンの発現誘導。健常人末梢血CD4+T細胞をPHAで刺激すると膜型TNF-αが発現する。抗TNF抗体でこの膜型TNF-αを刺激すると24時間をピークにT細胞表面にE-セレクチンが新たに誘導され、48時間後に消失した。ICAM-1、VCAM-1、LFA-1、VLA-4、L-セレクチンなど他の接着分子の発現は修飾を受けなかった。?E-セレクチン誘導におけるチロシンリン酸化の関与。チロシンリン酸化阻害剤であるHerbimycin A (100ng/ml) は膜型TNF-αによるE-セレクチンの誘導を50%抑制した。C-キナーゼ阻害剤、カルモジュリン阻害剤、IP3キナーゼ阻害剤、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤などでは影響を受けなかった。?膜型TNF-αの細胞内ドメインに会合する分子の同定。膜型TNF-αは可溶型TNF-αの部分に加えて細胞膜貫通部と細胞内ドメインとして76個のアミノ酸を有している。Two-hybrid systemを用いて細胞内ドメインの30個のアミノ酸部分に会合する分子の同定を行い、複数の候補タンパクの部分cDNAをえた。?膜型TNF-αを発現する細胞の同定。健常人末梢血細胞をtwo colorのFACSで解析すると、CD4+細胞以外のマクロファージ、CD8+細胞膜表面にも膜型TNF-αが表出していることがわかった。T細胞上の膜型TNF-αを抗体で刺激すると、T細胞自身が細胞接着分子の一つであるE-セレクチンを新たに発現することが明らかになった。この結果の重要な点は、まず膜型TNF-αから内向きにシグナルが入ることを示した点にある。われわれはすでに膜型TNF-αを刺激することによりT細胞からのTh1タイプのサイトカイン産生が亢進す
ることを示しているが、今回のデータで「膜型TNF-αからの内向きシグナルの存在」がさらにはっきりと証明されたことになる。さらに重要かつ独創的な点は、本来血管内皮細胞のみに発現するとされていたE-セレクチンが、T細胞においてもある種の刺激下で誘導されることが初めて明らかにされたことにある。T細胞上に発現したE-セレクチンの機能についてはさらなる解析が必要であるが、少なくとも膜型TNF-αは細胞接着を介した局所での炎症反応に深く関わっていることが推測される。このE-セレクチンの発現はHerbimycin Aで50%抑制されることより、チロシンリン酸化が重要な働きをしていることが明らかになったが、完全に抑制されないことからそれ以外の経路の関与も推測された。
結論
T細胞上の膜型TNF-αは、B細胞の活性化を起こし、T細胞からのTh1タイプのサイトカイン産生と細胞接着分子を誘導することが明らかになった。すなわち膜型TNF-αは局所で炎症を正の方向に制御する新しい細胞表面機能分子であると考えられる。自己免疫疾患患者T細胞における膜型TNF-αの発現・機能異常を解析することは、独創的視点からの病態把握につながると考えられる。

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