アレルギー発症を制御する細胞内シグナル伝達経路の解明

文献情報

文献番号
199700939A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギー発症を制御する細胞内シグナル伝達経路の解明
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
中山 俊憲(東京理科大学生命科学研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最近の日本人は、4人に1人の割合で何らかのアレルギー症状の経験があるという統計が出されている。花粉症やアトピー性皮膚炎に代表されるI型アレルギー疾患の発症機構には、アレルゲン特異的な免疫グロブリンIgEが大きく関与していることが知られているが、このIgEの産生には、アレルゲンに反応してIL-4やIL-5等のサイトカインを産生するTh2タイプのヘルパーT細胞の誘導が必要である。また、Th2細胞は、大量のIL-4やIL-5等のサイトカインを産生することにより、成人での喘息などに見られる慢性のアレルギー性炎症の増悪にも深く関与している。ここ10年間に、Th1細胞とTh2細胞の同定、それぞれが産生するサイトカインのパターン、感染症やアレルギー、自己免疫疾患の発症とTh1/Th2のバランスが相関することなどがわかってきた。さらに、ナイーブT細胞からTh1細胞やTh2細胞への機能分化過程において、T細胞抗原レセプター(TCR)からの刺激に加え、Th1細胞についてはIL-12が、Th2細胞についてはIL-4の存在が重要であることが明らかになった。Th2細胞の分化・増殖においては、IL-4レセプターから導入されるシグナルが必須であり、Th1細胞では、IL-12Rから導入されるシグナルが必須である。それぞれ、どのようなシグナル伝達分子(Th2:JAK1, JAK3, STAT6, Th1:JAK2, Tyk2, STAT4) が関与しているのかもおおよそ明らかにされている。しかし、Th1細胞やTh2細胞への機能分化過程においてTCRを介した細胞内シグナル伝達経路の役割についての解析はほとんど行われていなかった。そこで、この研究ではナイーブT細胞からTh1細胞やTh2細胞へ分化する過程に必要な、TCRの下流の細胞内シグナル伝達経路を明らかにすることをめざしてきた。そして、将来的にはこの分化過程を人為的に制御することにより、新しいアプローチによるアレルギー疾患の治療法が確立されることも期待される。
研究方法
研究方法・結果=まず我々は、成熟タイプのT細胞に特異的に高い発現能力をもつlckのdistal promoterを用いて、TCR下流のシグナル伝達分子として重要なリンパ球特異的チロシンキナーゼp56lck(Lck)のドミナントネガティブトランスジェニック(Tg)マウスを樹立した(J. Exp. Med. 184:931, 1996)。このマウスの末梢T細胞では、Lckのチロシンキナーゼ活性のみが1/2から1/3に減少していた。このTgマウスのナイーブCD4T細胞を用いて、Th1/Th2細胞の分化におけるLckの役割について解析を行った。in vivoならびにin vitroの実験系による解析から、Th2細胞の分化にはLckのチロシンキナーゼ活性が必須であるがTh1細胞の分化における必要性は低いことがわかった(Int. Immunol. 論文印刷中, 1998)。Lckの場合ノックアウトマウスでは末梢のT細胞が産生されないため、これまでこのようなin vivoでの解析は不可能であった。また、分化したTh1細胞株とTh2細胞株を用いてIL-4の産生制御機構を遺伝子レベルで解析し、IL-4遺伝子の下流に存在するサイレンサーエレメントを同定し、さらにSTAT6のこのサイレンサーエレメントへの結合がTh2細胞でのIL-4の転写をONにしていることも明らかにした(EMBO J. 16:4007,1997)。
結果と考察
考察=末梢T細胞においてLckのチロシンキナーゼ活性が1/2から1/3に減少した程度で、Th2細胞の分化がほぼ完全に抑制されるが、Th1の分化はほとんど影響を受けないことがわかった。この結果は、Lckがアレルギー治療薬開発のよいターゲットとなりうる可能性を示唆しているといえる。今後は、Lckの下流の分子( カルシニューリンやRas)について同様の解析を行ない、Th1/Th2細胞の分化においてkeyとなっているシグナル伝達分子を同定する予定である。また、TCRからのシ
グナル伝達系による、IL-4レセプターの反応性の調節機構(クロストーク)についても検討したいと考えている。
結論
我々の樹立した新しいタイプのトランスジェニックマウスの解析によって、Th2細胞の分化はLckのチロシンキナーゼ活性に非常に依存的であることがわかった。また、なぜTh1細胞はIL-4を産生しないのにTh2細胞はIL-4を産生できるのかについて、IL-4レセプターの下流のシグナル伝達分子であるSTAT6によるIL-4の転写調節機構の重要性を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)