免疫・アレルギー性疾患に対する効果的治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199700938A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫・アレルギー性疾患に対する効果的治療法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
牧野 荘平(獨協医科大学名誉教授・東京アレルギー疾患研究所所)
研究分担者(所属機関)
  • 秋山一男(国立相模原病院)
  • 奥平博一(東京大学)福田健(獨協医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
27,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
気管支喘息をはじめとするアトピー性疾患の頻度は増加傾向にあり、喘息死も減少傾向がない。喘息患者数は40-60才代が多く、難治性喘息では死亡の危険も高い.気管支喘息は気道の慢性炎症性疾患であり、在来の気管支拡張剤による対症的治療から気道炎症を抑制する予防的治療にシフトしている.現在の喘息予防・管理ガイドラインに示される治療法は、喘息症状のコントロールを改善はしているが、喘息患者数の減少や喘息による死亡率低下につながっていない。このような現状をふまえて、第一に、在来の喘息治療ガイドラインに最新の知識を盛り込み、有用かつ実際的なものとし、衆知させることが必要である。また、成人難治性喘息の発症機序を解明してその予防治療法を考案し、ガイドラインに加えることが重要である.第二に、喘息のみならずアトピー性疾患の本態は、免疫学的機序に基づく罹患組織に限局した炎症であるので、その炎症を特異的に抑制する治療法の開発が望まれる.よって、炎症性サイトカインである肥満細胞によりのTNFα,1L‐4の産生機構、Th2細胞でのIL-5特異的転写機構を解明し、喘息のみならずアトピー疾患全体に効果的な治療法へのアプローチを求め、喘息治療のさらなる改善を目指した。
研究方法
[1]喘息予防・管理ガイドラインの作成とそれに関する研究
(1)喘息予防・管理ガイドライン作成:平成8年度に喘息の病因、病態生理、予防、管理、治療に精通した日本アレルギー学会専門医である内科医、小児科医でガイドライン作成斑を構成した.さらに、本年度は喘息の呼吸生理にも精通した呼吸器内科医、薬理学者を加えた.すでに発表された日本アレルギー学会のガイドラインを基礎に、必要な追加、訂正を行い科学的な基礎を持つ改訂案の作成を目指した。完成したガイドラインを基礎として一般臨床医の便宜のための簡略ハンドブック案を作成を図った。
(2)成人難治性喘息の病態・発症機序に関する基礎的・臨床的研究
難治性喘息の定義・診断基準の見直し、難治性喘息患者の臨床的背景の検討、免疫抑制薬の治療の試み、ロイコトリエン産生酵素遺伝子多型性の検討をおこなった。
[2]効果的な喘息治療法の開発に向けた炎症細胞機能の分子生物学的検討
(1)IL-5遺伝子転写制御の検討:ヒトIL‐5遺伝子5'上流‐511から十4の領域をPCR法で増幅し、ルシフェラーゼreporter通伝子に接続し,pIL-5(-511)Lucを作製した。同様の方法により5'側より順次100bp長程度ずつ欠失させたプロモーター/エンハンサー領域をクローニングした.
(2)炎症性サイトカイン転写因子NFーκBなどの制御の検討、
分離精製したヒト肺肥満細胞をヒト骨髄腫lgE共存下に培養した後、SCF単独、あるいはSCFと抗1gE抗体、各種サイトカイン(TNF‐α,IL-8,GM‐CSF)共存下に刺激し、各種サイトカイン産生および産生細胞を測定した。ヒト好酸球について、健常人、アトピー、非アトピー型喘息患者を対象といして、各種サイトカイン(IL-3, IL-5,GM‐CSF,TNF‐α)共存下に刺激し、活性化NF‐κBおよぴ各種サイトカイン産生を検討した。

結果と考察
(1)喘息予防・管理ガイドライン作成
1. 主要な改訂、追加点は第一に成人喘息と小児喘息を一括して扱い、臨床的使用の便宜を図った。第二に、喘息の病因、病態生理など喘息の基礎知識を扱う章を追加した。第三に、治療管理の章に加えて予防の章を加え、QOLの章を設けた.2. 改訂案の構成:1章.定義、病型、重症度、診断基準、2章.疫学、3章.病因、4章.病態生理、5章.予防、6章.医師一患者のパートナーシップ:患者への情報提供、自己管理ガイド、7章.喘息の管理、(1)喘息管理計画概要、(2)薬物療法、8章.QOLの増進、9章.種々の側面、付表:喘息治療薬、薬物相互作用、ピークフロー日本人標準表。患者の自己管理の為のピークフロー管理の方法、吸入薬の吸入方法、発作時の対応を示し、重症度に応じた薬物療法の実際を具体的に示した。予防の章ではハイリスクのアトピー素因を持つ発病前の小児での環境管理、また、発病した患者の増悪因子の確認とその回避、除去の実際を示した。簡易ハンドブック作成:.本ガイドラインから抜粋して、喘息の概念、診断、日常管理、薬物療法の実際など簡略に示した。本ガイドラインおよびそのハンドブックは本邦での喘息予防管理の改善に寄与しうるものと信じる。同時に発表後もアンケート調査などを通じてその改訂、改善を常に行う必要がある。
(2)成人難治性喘息の病態・発症機序に関する基礎的・臨床的研究
難治性喘息の臨床的概念として経口プレドニソロン1日10mg以上の日常使用する患者とするものがコンセンサスとして示された。難治性喘息患者の背景として、多数のアレルゲンに対するIgE反応を示す患者、内因型喘息患者、カンジダ抗原に対して非IgE依存性アレルギーを示す患者などの群が示された。在来の難治性喘息は内因性との概念と異なる群を認めたものである。FLAPmRNA発現は正常者に比べて喘息患者で増加していた。FLAP遺伝子は喘息発症に関与している遺伝子の可能性が示された。
[2]効果的な喘息治療法の開発に向けた炎症細胞機能の分子生物学的検討
(1)IL-5遺伝子転写制御の検討
ヒトIL-5遺伝子のプロモーター/エンハンサー領域(ー511~+4の5'上流域)をルシフェラーゼ遺伝子に結合した発現ペクターpIL-5Lucを作製した.T組胞レセプターを介した刺激に反応して、IL‐5を大量に産生する丁細胞クローンにおいては、pIL-5Lucは、活性化シグナルに応じて転写された.この事実は、ヒトIL‐5の産生が、遺伝子転写レペルで制御されており、転写開始点から500bp上流までのプロモーター/エンハンサー領域が、その制御を担っていることを示すものてある。IL-5産生性T細胞クローンとT細胞腫瘍株(IL-5遺伝子転写能はない)との細胞離合により得られたT細胞ハイプリドーマでもこれに一致した所見を得た。 T細胞でのIL-5産生はこのサイトカインを特異的に制御する転写因子(NF-IL-5)の存在が強く示唆され、選択的に好酸球浸潤を抑制する治療法の可能性が示された。
(2)炎症性サイトカイン転写因子NFκ-Bなどの制御の検討
ヒト肺肥溝細胞をヒト1gEにて受勤感作しSCF単独、あるいはSCFと抗1gE抗体刺激では約4-6時間後をビークとしてNF-κBが活性化された。各種サイトカイン(TNF‐α,IL-8,GM-CSF)特にTNF‐αはNF‐κB活性化を促進した。一方好酸球はIL‐3,1L‐5,GM‐CSF単独刺激によりNF‐κBは活性化されたがGM‐CSF刺激が最も著しかった。喘息患者好酸球は健常人好酸球に比較してNF‐κB活性化が亢進していた。 NF‐κB活性化のコントロールが気道炎症を制御できる可能性を示すものであった。
結論
本研究に於いて(1)成人および小児気管支喘息の予防・管理ガイドラインが作成され、その成果に基ずいた簡易ハンドブック案も作られた。今後もその妥当性と有用性をつねいチェックして改善をする必要がある。またこの成果を広く一般医家に周知される工夫が必要である。難治性喘息患者の社会的活動、学業が阻害されている。病態の解明とそれに基ずく治療法の開発が必要である。(2)喘息の特徴である気道慢性炎症の機序としての、T細胞でのIL-5遺伝子転写機構に特異的因子の存在が示唆され、ヒト肺肥満細胞および血中好酸球での炎症性サイトカイン遺伝子転写因子の一つであるNFκ-Bの活性化機構と喘息での亢進が示された。また、ロイコトリエン産生因子遺伝子の発現の亢進も示された。今後これらの情報に基ずいた有効かつ効率的な治療法への努力を要する。

公開日・更新日

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