免疫アレルギー性疾患の症状発現および増悪に関する研究

文献情報

文献番号
199700937A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫アレルギー性疾患の症状発現および増悪に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
西間 三馨(国立療養所南福岡病院)
研究分担者(所属機関)
  • 入江建久(信州大学教育学部)
  • 水谷澄(日本環境衛生センター)
  • 奥平博一(東京大学医学部物療内科)
  • 佐野靖之(同愛記念病院アレルギー呼吸器科)
  • 松井猛彦(都立荏原病院小児科)
  • 原寿郎(九州大学医学部小児科)
  • 山本昇壮(広島大学医学部皮膚科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
29,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、全世界におけるアレルギー疾患の増加は、共通な社会問題となっている。増加の要因として、宿主側の要因と共に環境側の要因が重要な意義を有している。その解明のために、アレルギー疾患の発症予防や症状抑制のためにも最も重要な因子であるダニについて、実態の把握、抗原の簡便な測定、有効なダニ駆除法の確立、室内空気の清浄化、清掃住居でのアレルギー疾患減少効果の確認を行なってきた。今年度から、さらにアレルギー疾患の症状発現および増悪の観点からも研究を進める。
研究方法
1.抗原の測定法、除去方法の効果とその検定:1)抗原の簡易測定法:抗ダニアレルゲン抗体を活性化paper discに固有化する各種条件を検討する。2)室内汚染粒子の挙動の解析と空気清浄機の浄化特性:計数・集計、挙動解析を行なう。空気清浄機3種の粉塵、微生物、ダニ・ネコアレルゲンの浄化特性を実験的に調査する。3)防ダニ剤、殺ダニ剤の効果と判定法の基準作製:殺ダニ効力の残渣接触試験、忌避効力試験、培地混入試験による基礎的検討と、2家庭での年間を通した実用試験。2.成人気管支喘息の増悪機序の検討:1)喘息患者の気道粘膜生検組織のアレルギー性炎症マーカーや肥厚などについて抗炎症薬使用前後や罹患年数、重症度で検討する。2)アスピリン喘息の末梢血白血球RNAをRT-PCR法により分析する。3)influenzae A(H3N2)を培養した気道上皮細胞(NCI-H292)に接種後、炎症マーカーを測定する。3.小児期アレルギー疾患の遺伝子学的検討:小児のアレルギー疾患児のインターロイキン4受容体の遺伝子の2ヶ所のpolymorphismをスクリーニングする。4.喘息死と薬物に関する検討:β刺激薬MDIの喘息死への関与の解明のための疫学的手法の検討。喘息死および致死的高度発作救命例に関する一次実態調査実施。β刺激薬の薬理作用の基礎的検討。β刺激薬の長期反覆吸入投与の気道過敏性に及ぼす影響を確認するための実験系の確立。5.治療マニュアルの作製:アレルギーと住環境(以下、住環境マニュアル)の追加、修正を行ない発刊する。アトピー性皮膚炎治療ガイドライン(以下、アトピーガイドライン)を専門医のアンケート結果も含め検討して修正し作製する。
結果と考察
1-1)抗原の測定法:マウス抗Derf2抗体5mg/mlの濃度で結合能が至適であることが判明した。さらに、第2ステップの室内塵抽出液との反応条件の研究を行い、このシステムを完成した。しかし、この系は一般家庭の室内塵抽出液中のダニ抗原量は感度の問題で困難であった。そこで、モノクローナル抗体サンドイッチELISAを改良し簡便化する検討を行ない、従来2日かかっていた時間を5hrで完了するシステムに改良可能とした。この方法はダニの直接算定よりコスト・時間ともに有用と考えられた。ダニ粗抗原をFr.1~6に分画した結果、Fr.1,2にほとんどの主要アレルゲンが含まれるがIL-5産生はすべての分画で誘導され、T cellアレルゲン固定に結びつくと思われた。1-2)室内汚染粒子の挙動の解析と空気清浄機の浄化特性:アレルゲン粒子の5μm以上は無風状態で床面発塵点から概ね1~1.5mの半球内に拡散範囲は限定された。イオン式は粒子量濃度が1/10減衰に数時間を要し、ファン・フィルター式は20~30分であった。イオン・ファン式はその中間であった。また、Dre 1,Fel d1は、イオン式が自然減衰との差が見られなかったのに対しファン・フィルター式では1時間あたり平均で約50%の除去効果が
示された。生活実態下の現場使用結果からは、ファン・フィルター式のみ3割程度の有効性があった。浮遊粉塵については、質量濃度が、1/10に減衰する時間で評価することを提案する。本研究班での各種空気清浄機の研究成果を概括すれば、ファン・フィルター式は一定程度有効であるがイオン式は実質的にほとんど捕集性能がない。1-3)防ダニ剤、殺ダニ剤の効果と判定法の基準作成:ピレスロイド剤の殺ダニ効力は得られなかった。有機燐剤とヒノキ精油はハエ、蚊の標準散布量の4~20倍の薬量致死効力が得られた。IBTAは2種のダニに有効であった。deetは高用量ではほぼ5日後まで90%以上の忌避指数を示したが通常使用量では処理直後のみ認められた。防ダニ布団の一ヶ月後のダニ増殖抑制率は0であった。実際の使用では2邸で、年間を通じた調査で防ダニ布団のダニ数減少効果はなかった。以上の諸試験を総括すると、防ダニ用の化合物が少ないことから、実用的な防ダニ製品の製造は難しいと思われた。しかし、効果判定基準の設定は可能となった。2-1)成人気管支喘息のBDP吸入前後の気道における免疫・アレルギー・組織学的変化の検討:気道粘膜生検においてはBDPの800~1200μg/日の投与により好酸球、EG2陽性細胞、CD4陽性Tリンパ球、CD25陽性Tリンパ球、Mast-cell,TGF-β、VCAM-1、ICAM-1の有意な減少がみられたが、基底膜の肥厚は6週間投与では減少しなかった。経口抗アレルギー薬2剤も程度はBDPの70~80%の効果が認められた。さらに基底膜の肥厚は気道過敏性の亢進や重症度と強い相関が認められた。今回の6週間のステロイド吸入投与ではリモデリングの改善は認められなかった。罹患年数が長くなるほど気道過敏性が亢進し、この亢進と基底膜の肥厚が相関するので、これらのリモデリングをきたさないearly interventionの重要性が示唆された。2-2)アスピリン喘息では、Lipoxygenase系とCyclooxygenase系の両方の増強がみられた。一方、健常群にみられたFLAP mRNAとCOX-2 mRNAの発現量の相関は、非アスピリン喘息患者、アスピリン喘息患者ともに認められなかった。両遺伝子はアスピリン喘息発症に関与する重要な遺伝子と考えられた。2-3)ウイルス感染ではInfluenzaeの接種により気道上皮細胞の膨化、変性がみられ、ICAM-1は経時的に増強し72時間では有意に増加した。またIL-6,IL-8,RANTESもmRNAレベルでの発現が認められた。3.小児期アレルギー疾患の遺伝子学的検討:50番コドンと551番コドンの遺伝子多型の解析の結果では、患者群と対照群を比較すると、患者群にIle50対立遺伝子、Arg551対立遺伝子を持つものが有意に多かった。いずれか一方もつものと、いずれの対立遺伝子ももたないものとを比較したところ、患者群では、いずれかをもつものが有意に多かった。Ile50対立遺伝子をもつ遺伝子型とArg551対立遺伝子をもつ遺伝子型に相関があった。2ヶ所の遺伝子多型の遺伝子型別にアレルギー疾患の頻度を検討したところ、同時にもつもののアレルギー疾患の頻度(58.6%)は今回の調査対象のアレルギー疾患の比率(34%)に比べ有意に高かった。また、両対立遺伝子を共にもたないもののアレルギー疾患の頻度(18.6%)は有意に低かった。小児期アレルギー疾患の遺伝子学的検討では、576番目のアミノ酸のpolymorphismに関してR576対立形質を持つものにはアレルギー疾患が有意に多く、日本人においてもその関連性が強く示唆された。4-1)β刺激薬MDIの喘息死への関与の解明のための実態把握と調査手法の検討:β2刺激薬吸入剤と喘息死の関係について文献的に検討すると、直接的な関係を示唆する報告もあるが、間接的な関係とする報告もあり、明らかではない。また、臨床的適正使用下でも生じる副作用か否か不明である。喘息死と薬物の関係を解析する方策としてcohort studyは有用であるが時間的、経費的に本研究班では不可能であった。4-2)第1次調査:全国で100床以上の病院の診療科(内科、小児科、アレルギー科、呼吸器科)の8,460科に、喘息死および致死的高度発作救命例に関する1次調査を行った。現在回収、解析中である。4-3)β刺激薬の薬理作用の基礎的検討:動物実験系で無麻酔、
自発呼吸下で、プロカテロールの至適1回吸入量を検討し、本装置では1mg/mlの濃度のプロカテロールが活性を有することが明らかとなり、β刺激薬長期反復吸入投与の動物実験系を確立した。他のβ刺激薬の至適1回吸入量と、β刺激薬の長期反復投与が気道過敏性に及ぼす影響について検討中である。5.アレルギーと住環境に関するマニュアルの改訂・発刊:住環境マニュアルの主な修正、追加項目と分野は、ホルムアルデヒド(HCHO)とダニ抗原・抗体測定値の推移、省エネ掃除機、ハイリスク児に対する第1次予防と発症児に対する第2次予防の長期的観察データを追加、住宅構造の空調設備、湿度管理、殺ダニ剤のその有用性と安全性である。アトピー性皮膚炎治療ガイドラインは、?診断基準は他の基準と矛盾はない。?皮膚症状の評価(重症度)を4段階に分類し、目安を示した。?治療に際して、悪化因子の除去、スキンケア、薬物療法の三者は同等な重要性をもつ。?重症度あるいは年齢による治療の違いを具体的に示した。?皮膚科医、小児科医および内科医にこれに同意できるか否かのアンケート調査を行い、追加修正中である。
結論
免疫・アレルギー性疾患の症状発現および増悪に関して主に5つの観点から研究した。1.抗原の簡易測定法開発、及び除去方法の効果とその検討:ダニ抗原量簡易測定はELISA改良法はできたが、より簡便短時間の測定法は開発できなかった。室内ダニ数には地域差はなく、Fel dIは猫飼育家屋に多い。HCHO、VOCは従来のデータと同じレベルである。空気清浄機はファン・フィルタ式は一定程度有効である。防ダニ・殺ダニ剤の臨床的有用性のあるものは見つからなかったが、効果判定基準は作製できた。2.成人気管支喘息の増悪機序の検討:ステロイド吸入薬(BDP)の6週間投与で気道のアレルギー性炎症は改善するが重症度と相関の強いリモデリングは変化しない。アスピリン喘息は遺伝子レベルに違いがみられ、気道感染(インフルエンザウィルス感染)はアレルギー性気道炎症と一部の共通の変化がみられる。3.小児期アレルギー疾患の遺伝子学的検討:IL4受容体の遺伝子の2ヶ所(Ile50,Arg551)は強い相関があり両対立遺伝子を同時に有するものにアレルギー疾患が有意に高頻度であった。4.喘息死と薬物に関する検討:β2刺激薬MDIと喘息死の関係を疫学的に検討するため症例対照研究を組み実施した。現在、第2次調査を企画中である。β刺激薬の長期反復投与吸入試験のための動物実験系を確立した。5.アレルギーと住環境マニュアルの改訂、及びアトピー性皮膚炎の治療ガイドライン作製:前者については新たな知見を加え改訂・発刊した。後者については試案を作製し、最終ガイドライン作製に向けて継続作業をしている。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)