悪性胸膜中皮腫の診断および治療法の確立とアスベスト曝露の実態に関する研究

文献情報

文献番号
201119001A
報告書区分
総括
研究課題名
悪性胸膜中皮腫の診断および治療法の確立とアスベスト曝露の実態に関する研究
課題番号
H21-がん臨床・一般-001
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
楠本 昌彦(独立行政法人 国立がん研究センター 中央病院放射線診断科)
研究分担者(所属機関)
  • 関 順彦(帝京大学医学部 内科学講座)
  • 浅村 尚生(独立行政法人 国立がん研究センター 中央病院呼吸器腫瘍科)
  • 松野 吉宏(北海道大学病院 病理部腫瘍病理学)
  • 岸本 卓巳(独立行政法人 労働者健康福祉機構岡山労災病院 内科)
  • 井内 康輝(広島大学大学院 医歯薬学総合研究科病理学)
  • 西本 寛(独立行政法人 国立がん研究センター がん対策情報センターがん統計研究部)
  • 柿沼 龍太郎(独立行政法人 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター検診開発研究部画像診断開発室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
28,689,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
石綿との関連から増加が危惧されている胸膜悪性中皮腫(MPM)に対しての病態把握と早期発見と治療方法の確立を目的としている。
研究方法
班全体では、第一に全国のMPMの症例を登録するためのシステムを作成し、それに基づき登録を行い、病理所見、治療法、予後について分析を行う。第二には、一般市民に対し、問診と胸部X線および低線量CTによる検診を行い、胸膜肥厚斑の発生頻度や分布と問診結果との関連について分析を行う。今年度は2回目検診受診者にセントラルレビューを行い、問診データとの突き合わせも行った。さらに個別に病理的な分析や国際的な外科医での手術方法に対するコンセンサスを模索した。
結果と考察
前向き登録に関しては29施設から220例が仮登録、79例が本登録された。これらの集計を行ったところ、石綿関連職業歴は、57%で該当しており、集計症例が職業歴と関連する症例が多いことが示唆された。その他、石綿関連地域の居住歴のある症例が約10%みられた他、勤務地が石綿関連工場に近いなどの症例も含まれていたことが判明した。
26施設で9810件ベースライン受診者を対象に2回目検診実施を実施し、全例中央レビューを行った。2回目低線量CTによる検診画像では胸部X線による検診画像に比較して、胸膜プラークでは約3.9倍、胸膜肥厚像では約3.2倍の発見率を示した。この結果は、ベースラインでの発見率の差(胸膜プラークでは約4.5倍、胸膜肥厚像では約3.6倍)と同様であった。また2回目検診での肺癌発見率は0.19%、中皮腫発見率は0%であった。
病理学的な検討では、TRIM29のMPM診断の特異度が高く(100%)、PHGDHの感度は78.6%と好結果が得られた。また腫瘍細胞の細胞膜上のCD9の発現は予後と関連することが示唆された。MPMに対する外科医への調査から、肉眼的な腫瘍遺残のないことがcytoreductive surgeryの目標とすべきであるとされた。
結論
これまでMPMの全国的な症例集積制度の確立に関する研究を進めたが症例集積が不十分で、今後は他の既存制度と合わせる形での体制の再構築が必要と考えられた。一般住民に関する胸部X線と低線量CT検診に関する研究から、石綿の職業曝露者、環境曝露者を含む一般住民の問診における石綿曝露状況と胸膜プラーク存在との関連性が証明されたが、肺癌発見率は0.19%、中皮腫は1例も発見されなかった。病理組織学的な免疫染色マーカーで有望なものが確認された。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

文献情報

文献番号
201119001B
報告書区分
総合
研究課題名
悪性胸膜中皮腫の診断および治療法の確立とアスベスト曝露の実態に関する研究
課題番号
H21-がん臨床・一般-001
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
楠本 昌彦(独立行政法人 国立がん研究センター 中央病院放射線診断科)
研究分担者(所属機関)
  • 関 順彦(帝京大学医学部 内科学講座)
  • 浅村 尚生(独立行政法人 国立がん研究センター 中央病院呼吸器腫瘍科)
  • 松野 吉宏(北海道大学病院 病理部腫瘍病理学)
  • 岸本 卓巳(独立行政法人 労働者健康福祉機構 岡山労災病院 内科)
  • 井内 康輝(広島大学大学院 医歯薬学総合研究科病理学)
  • 西本 寛(独立行政法人 国立がん研究センター がん対策情報センターがん統計研究部)
  • 柿沼 龍太郎(独立行政法人 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター検診開発研究部画像診断開発室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
石綿との関連から増加が危惧されている胸膜悪性中皮腫(MPM)に対しての病態把握と早期発見と治療方法の確立を目的としている。
研究方法
第一に全国のMPMの症例を登録するためのシステムを作成し、それに基づき登録を行い分析を行った。第二には、一般市民に対し、問診と胸部X線および低線量CTによる検診を行い、胸膜肥厚斑の発生頻度や分布と問診結果との関連について分析を行った。さらに新たな腫瘍マーカーの開発検討なども行なった。また文献的検討からMPMの取り扱いのガイドラインを作成した。
結果と考察
前向き登録に関しては29施設から220例が仮登録、79例が本登録された。これらの集計を行ったところ、石綿関連職業歴は57%で該当しており、石綿関連地域の居住歴のある症例が約10%みられた。しかし登録症例数が少なく、今後は他の既存制度と合わせる形での再構築が必要と思われた。
検診に関しては参加した施設からの検診画像と問診データを集積し、平成21-23年度は、26施設でこれまでの9810件のベースライン受診者を対象に2回目検診実施を実施し、その実施総数は計6286件で、全例中央レビューを行った。その結果、石綿の職業曝露者、環境曝露者を含む一般住民の問診における石綿曝露状況と胸膜プラーク存在との関連が証明された(曝露者の非曝露者に対する相対リスクは4.43,p<0.001)。2回目検診での肺癌発見率は0.19%であったが、MPMは発見できなかった(0%)。このような規模の検診に関する研究では、環境曝露によるMPMの早期発見を目的として、一般住民に対して低線量CTを積極的に勧めるだけの根拠は見出せなかった。
病理学的な検討では、TRIM29やPHGDHなどMPMの病理診断に有望なマーカーが開発確認された。MPMの診療ガイドラインについては、日本肺癌学会の診療ガイドライン委員会にすでに提出した。
結論
包括的な悪性中皮腫関連研究として、MPMの全国的な症例集積制度の確立に関する研究を進めたが、症例集積が不十分で構築した制度を有効に活用できなかった。一般住民に関する胸部X線と低線量CT検診に関する研究から、石綿の職業曝露者、環境曝露者を含む一般住民の問診における石綿曝露状況と胸膜プラーク存在との関連性が証明された。一方、検診での肺癌発見率は0.19%、MPMは発見できなかった。またMPMの診療ガイドラインが提出され、有望な病理組織学的なマーカーが開発された。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201119001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
全国の胸膜悪性中皮腫の症例の各種データの登録と、一般市民のアスベスト吸収の影響を調査するためにX線と低線量CTによる検診を行った。登録のための専用ソフトの開発など方法論を確立した一方で、データ集積は十分な効果を上げることができなかった。一方、一般市民に対する検診では、石綿の職業曝露者、環境曝露者を含む一般住民の問診における石綿曝露状況と胸膜プラーク存在との関連が証明された。
臨床的観点からの成果
胸膜悪性中皮腫の症例登録に関しては、集積症例数が不十分で診断治療に関する新たな知見を得るには至らなかった。一般市民に関する検診では、アスベスト吸収による胸膜肥厚斑の検出能は低線量CTの方が明らかにX線より優れていることがわかり、石綿の職業曝露者、環境曝露者を含む一般住民の問診における石綿曝露状況と胸膜プラーク存在との関連が証明された。しかしのべ16,096例に及ぶ低線量CTの検診でも、悪性胸膜中皮腫は一例も発見されなかった。
ガイドライン等の開発
悪性胸膜中皮腫の診療ガイドラインについては、ガイドラインとしての体裁を整え日本肺癌学会の診療ガイドライン委員会にすでに提出済である。ただし平成23度年末時点で、出版はされていない。
その他行政的観点からの成果
胸膜悪性中皮腫の症例登録に関しては、集積症例数が不十分で政策や行政の施策に新たな提案を行うだけの成果が得られなかった。一般住民に対して胸膜肥厚斑の検出能は低線量CTがX線より優れており、これらの結果から過去の職業曝露者、環境曝露者を推定することに貢献できた。一方今回の検診に関する研究では、環境曝露による胸膜悪性中皮腫の早期発見を目的として、一般住民に対して低線量CTを積極的に勧めるだけの根拠は見出せなかった。
その他のインパクト
アスベスト関連疾患の無料検診を行っていることは、アスベストによる健康被害の実態も含めて、国立がん研究センターのホームページで公開した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
16件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
30件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shiba N, Kusumoto M, et al.,
A case of malignant pleural mesothelioma with osseous and cartilaginous differentiation
J Thorac Imaging , 26 , 30-32  (2011)
原著論文2
Rice DMB, Asamura ,H et al.,
Recommendations for Uniform Definitions of Surgical Techniques for Malignant Pleural Mesothelioma
J Thorac Oncol , 6 (8) , 1304-1312  (2011)
原著論文3
Hiroshima K, Matsuno Y, et. al.,
Cytological characteristics of pulmonary pleomorphic and giant cell carcinomas
Acta. Cytol , 52 (2) , 173-179  (2011)
原著論文4
Nojiri S, Kishimoto T, et al.,
Survival and prognostic factors in malignantpleural mesothelioma: A retrospective study of 314 patients in thewest part of Japan
Jpn J Clin Oncol , 41 (1) , 32-39  (2011)
原著論文5
Maeda M, Kishimoto T, et al.,
Reduction of CXC chemokine receptor 3 in an in vitro model of continuous exposure to asbestos in a human T-cell line, MT-2
Am J Respir Cell Mol Biol , 45 , 470-479  (2011)
原著論文6
Kubo T, Kishimoto T, et at.,
Epigenetic silencing of microRNA-34b/c plays an important role in the pathogenesis of malignant pleural mesothelioma
Clin Cancer Res , 17 (15) , 4965-4974  (2011)
原著論文7
Seki N, Kusumoto M, et al.,
The adenocarcinoma-specificstage shift in the Anti-lung Cancer Association project: significance of repeatedscreening for lung cancer for more than 5 years with low-dose helical computed tomography in a high-risk cohort
Lung Cancer , 67 , 318-324  (2010)
原著論文8
Kishimoto T, et al.,
Clinical study of asbestos-related lung cancer in Japan with special reference to occupational history
Cancer Sci , 101 , 1194-1198  (2010)
原著論文9
Kishimoto T, Inai K, et al.,
Clinical study on mesothelioma in Japan :Relevance to occupational asbestos exposure
Am J Ind Med , 53 , 1081-1087  (2010)
原著論文10
Fujimoto N, Kishimoto T, et al.,
Clinical investigation of malignant mesothelioma in Japan
J Cancer Res Clin Oncol , 11 , 1755-1759  (2010)
原著論文11
Fujimoto N, Kishimoto T, et al.,
Soluble mesothelin-related protein in pleural effusion from patients with malignant pleural mesothelioma
Experimental and Therapeutic Medicine , 1 , 313-317  (2010)
原著論文12
Kohno H, Inai K, et al.,
Aberrant promotor methylation of WIF-1 and SFRP1,2,4 genes in mesothelioma
Oncology Reports , 24 , 423-431  (2010)
原著論文13
Jin L, Inai K, et al.,
Evaluation of apoptosis and immunohistochemical expression of the apoptosis- related proteins in mesothelioma
Hiroshima J. Med. Sci , 59 , 27-33  (2010)
原著論文14
Fujimoto N, Kishimoto T, et al.,
Malignant pericardial mesothelioma with response to chemotherapy
Journal of Thoracic Oncology , 4 , 1440-1441  (2009)
原著論文15
Takeshima Y, Kishimoto T, Inai K, et al.,
Accuracy of pathological diagnosis of mesothelioma cases in Japan : Clinicopathological analysis of 382 cases
Lung Cancer , 66 , 191-197  (2009)
原著論文16
Takeshima Y, Amatya V.J, Inai K, et al.,
Value of immunohistochemistry in the differential diagnosis of pleural sarcomatoid mesothelioma from lung sarcomatoid carcinoma
Histopathology , 54 , 667-676  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2016-06-06

収支報告書

文献番号
201119001Z