慢性関節リウマチの病因解明に関する研究

文献情報

文献番号
199700935A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性関節リウマチの病因解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
西岡 久寿樹(聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 岩倉洋一郎(東京大学医科学研究所)
  • 大久保光夫(福島県立医科大学)
  • 徳久剛史(千葉大学高次機能制御研究センター)
  • 森本幾夫(東京大学医科学研究所)
  • 満屋裕明(熊本大学)
  • 八木田秀雄(順天堂大学)
  • 吉木敬(北海道大学)
  • 米原伸(京都大学ウイルス研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
31,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
リウマチの病因について、病因遺伝子の解明及び主病巣部である滑膜細胞のウイルス遺伝子等による遺伝子レベルでの変異とこれにつづく免疫応答と増殖の分子機構の解明に重点を置いた研究を進めている。病因論の面で、とくにレトロウイルスの関与、関節内免疫応答の分子機構の解明、滑膜増殖及びアポトーシスの分子機構の解明、リウマチ病因遺伝子のゲノム解析及びそれに関連した滑膜増殖・アポトーシスの解明を目的としたものである。
研究方法
研究方法及び結果=
《滑膜細胞》
(1)関節内において、リウマチの主病巣となる線維芽細胞とマクロファージ様の細胞から構成された滑膜細胞それ自身の変化に起因するという、いわゆる滑膜細胞の増殖と分化の分子機構および滑膜細胞の遺伝子変異の存在が明らかにされ、中でも形態形成遺伝子の発現がRA滑膜細胞において発現されていることが明らかにされた。これらのHoxD遺伝子の発現はbFGFによってRegulationされていることも明らかにされた。
(2)滑膜細胞のApoptosisと病因論的意義RAの滑膜細胞において、アポトーシスによる細胞死を明らかにした。その分子機構がFas/FasLを介すること、とくにFas分子のRA滑膜細胞においてカスケードを明らかにした。またFADD分子によって Fasシグナルの細胞内伝達機構が滑膜細胞においては調節されることを明らかにした。以上の成果はRAの病因にFasを介するアポトーシスの分子間機序が重要であることを明らかにした。
(3)TNFaを介するautocrine pathway の存在が、RAの滑膜細胞において存在することが解明された。また、この経路はFas分子によってdown regulationし、bFGFでは逆の現象が存在することもつきとめた。RA滑膜細胞におけるTNFa, Fas の細胞内伝達機構が一部明らかにされた。
《滑膜T細胞》 
(1)滑膜T細胞の受容体(STCR)が一定のclonalityをもつ局所で増殖していることを明らかにし、そのT細胞集団が特定のペプチドを認識していることをペプチドライブラリーを用いて明らかにした。またそれらのT細胞の多くはFas感受性であることも解明された。またHTLV-l関節炎では、HTLV-l env P40Xが主要な自己抗原であり、その抗原認識のプロセスを解明した。
(2)T細胞に関する特異的な活性化機構がインテグリンFamilyのシグナル伝達機構から解明されている。RAの滑膜の炎症局所にはCD29/VLA型がみられ、T細胞が密接にそのリガンドであるVCAM-l 発現が滑膜細胞及び血管または細胞で認められた。
(3)RA発症における遺伝的解析としてHLA-DR4 (HDRB1*0405) が遺伝的要因の1つであることを明確にする上で、次の点を明らかにした。すなわち、健常人のDRB1*0405ホモ抗合体及びDRB1*0405陰性 RA滑膜T細胞よりDRB1*08032特異的アロ反応T細胞株の樹立及びその細胞clone 認識するDRB10405ペプチドの解明。
(4)TNF受容体ファミリー分子を介して、シグナル伝達に関する研究がRAの滑膜細胞を中心に研究が進められ、滑膜細胞のactivation process においてTRAF →NIK → IKKというNKb 活性に機序することが明らかにされた。
《動物モデル及び病因遺伝子の解明》
(1)RA動物モデルとしてHTLV-1 Tax遺伝子導入マウス及び同ラットでの病態解析が進み、RAの炎症の解明にとって滑膜細胞及び免疫担当細胞の役割及び両者の分子間反応を介在する種々のサイトカインの役割が明らかにされた。また、種々のサイトカインノックアウトマウスが提示された。また、 taxのみを発現する遺伝子にfms及びCD4プロモーターの下流に結合してLTR-CD4-tax-LTR及びLTR-fms-tax-LTR-CD4-tax-LTR及びLTR-fms-tax-LTRのplasmidを遺伝子導入したCD4-Tax, fms-Taxマウス(CH3/HeNマウス)が作製された。(岩倉班員ら)3ヵ月齢でそれぞれ50%, 10%に関節炎を発症することが明らかにされた。これらの動物モデルマウスの意義は、T細胞介路及びマクロファージ介路によるRA発症のモデルマウスとして確立された点である。
(2)ヒトのRAに酷似した自然発症モデル(SKG)マウスが確立され、その病因論的解析を加えている。このマウスは、単一遺伝子の変異によって発症している可能性が強く、RAの病因遺伝子を解明して行く上で極めて重要なものであると考える。
(3)HTLV-l env P40X Transgenic Ratが確立され、多彩な自己免疫疾患が存在することが明らかにされた。すなわち、SKGマウスはBALB/cバックグラウンドの単一遺伝子ミュータントマウスであり、その関節炎は常染色体性遺伝を示す。遺伝的浸透度は通常の飼育環境で6カ月齢で判定した場合、ほぼ100%である。関節腫腸は、生後2カ月頃から主として前足指骨間関節にほぼ左右対称性に始まり、その後、手関節、足関節に及ぶ。雌雄とも関節腫腸は慢性に進行するが、雌の方が若干進行が早く、重症度も高い傾向がある。病理組織学的に、滑膜の増殖、滑膜下組織への炎症性細胞浸潤から始まり、関節周囲炎、パンヌスの形成、軟骨・軟骨下骨組織の破壊、線維化へと進み、関節強直に到る。関節外病変としては、間質性肺炎、皮膚炎、血管炎がみられる。血清中には、IgM型リウマチ因子、抗II型コラーゲン抗体、結核菌熱ショック蛋白70と反応する抗体が検出できる。また、高ガンマグロブリン血症を認めている。以上の免疫病理学的所見は、このモデルがヒトのRAと酷似し、さらにSKGマウスの関節炎は、末梢CD4+T細胞によって正常BALB/cヌードマウスに移入できる。従って、SKGマウスの関節炎はT細胞性自己免疫によるものであり、関節炎を起するCD4+T細胞は、関節内正常自己抗原を認識し、攻撃すると考えられた。現在さらに本モデルについては、より詳細な解析が進んでいる。
《感染性要因》 
(1)感染性要因として、役割が引き続き解明されているHTLV-1については、その標的細胞が、自己から非自己へスイッチするプロセスが解明されている。EVB、パルボウイルス、flavivirus family であるRNAウイルスが新たにRA発症に直接的に関連していることを示唆する成果が上がってきている。また、RNAウイルスの逆転写酵素の役割と免疫系を中心とする標的細胞への関わりが開始されている。現在逆転写酵素の阻害剤であるATZによる阻害試験などを試みている。
(2)G型肝炎ウイルスがRA患者から、高率に検出された。また、helicace部位をコードするNS領域のRA発症機序における役割が明らかにされ、HTLV-l taxと類似した機能を有することも解明された。
結果と考察
考察=(1)以上の結果は、本年度に当初計画した研究成果を大きく上回る成果が得られた。特にRAの主病巣である滑膜組織の増殖と細胞死の分子及び遺伝子レベルの解明は、今後病因レベルから本症の発症に本質的に関わるものであり、転写因子の異常をコードしている責任遺伝子への解明へ向けて大きな展望が開けた。
(2)T細胞を中心とする抗原ペプチドの解明もHTLV-l 関節炎では、その原因ウイルスの遺伝子産物が病巣局所で自己抗原として作用していることが解明された。また滑膜ライブラリーを用いた研究では、カテプロシンや一部の・型コラーゲンのペプチドが自己抗原として作用しており、今後さらに分子生物学的手法で解明されると考えられる。これらの自己抗原ペプチドの投与により、リウマチ発症患者にトレランスを誘導し、症状の進展を抑制する特異的免疫療法への戦略が確立された。
(3)カテプシンDの全アミノ酸配列中にはT細胞レセプターと親和性をもつランダムライブラリーから得られたアミノ酸配列(配列は当日提示する)と相同性を持つ部分を認めた。
(4)リウマチの病因は、T細胞介路とマクロファージ介路の二つの経路によるものと現在提唱されているが、CD-tax, fms-tax トランスジェニックマウスの確立により、この二つの経路が分子レベルで解明される戦略が得られた成果は大きい。SKGマウスは、ヒトRA病因遺伝子の究明に大きな示唆を与えるモデル動物であると考える。また、リウマチ病因遺伝子のゲノム解析を家族集積高い、いわゆるリウマチ家系を中心に解析を進めている。(5)感染性要因としては、Tax類似の機能を有するレトロウイルス由来の産物がCREB結合タンパク(CBP)と結合している可能性が極めて強くなり、現在その解析を進めている。
結論
(1)RAの主病変である滑膜細胞の増殖と細胞死(apoptosis)の分子機構が解明された。
(2)滑膜細胞の分化において形態形成遺伝子であるHox遺伝子が関与しており、この遺伝子群の一部がRAの発病に密接に関与していることが明らかにされた。
(3)RAの病巣局所のT細胞の解析から病因ペプチドが数種分離された。
(4)RAの病因を解明するため、新しい動物モデルが確立された。
(5)新しいウイルス遺伝子産物が同定された。
以上の結果、RAの病因が病因遺伝子、病因ペプチド及び宿主の感受性因子、感染性の要因という4つの方向から解明されつつあり、当初の1年間で大きな成果を挙げた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)