マイクロRNAを指標にして癌を標的破壊する純和製抗癌ウイルス製剤の開発とその臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
201118071A
報告書区分
総括
研究課題名
マイクロRNAを指標にして癌を標的破壊する純和製抗癌ウイルス製剤の開発とその臨床応用に関する研究
課題番号
H23-3次がん・若手-004
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
中村 貴史(国立大学法人 東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 東條 有伸(国立大学法人 東京大学 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,918,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在世界中において、生きたウイルスを利用して癌を治療する癌ウイルス療法に関する前臨床研究、及び臨床試験が積極的に行われている。これは、ウイルスが本来持っている癌細胞に感染後、癌組織内で増殖しながら死滅させるという性質を利用する方法である。本研究では、純国産ワクシニアウイルスワクチン株の安全性に注目し、遺伝子組換え技術により改良を加え、“純和製抗癌ウイルス製剤”として活用する。これまでの研究において、正常組織と比べ肺癌、膵臓癌、乳癌、及び悪性リンパ腫などで発現が低下しているlet7aの標的配列をウイルス伝播増殖に重要であるウイルス膜蛋白B5R遺伝子の3'非翻訳領域に挿入することで、癌細胞ではB5Rを発現させる(=ウイルスは増殖する)が、正常細胞ではB5Rを発現させない(=ウイルスは増殖しない)ようにワクチン株を改良し、マウス担癌モデルにおいて強力な抗癌効果と高い安全性を実証した。さらに本年度では、このmiRNA制御に加え、ウイルスTK遺伝子を欠失させた多因子制御ワクシニアウイルス(MDVV)を作成し、さらなる腫瘍特異性の向上を試みた。
研究方法
免疫不全SCIDマウスの腹腔内にウミシイタケルシフェラーゼ発現ヒト膵臓癌細胞BxPC-3を投与し、その7日後にコントロール、無制御ウイルス、miRNA制御ウイルス、またはMDVVを腹腔内に投与して、その抗癌効果と安全性を比較検討した(各群10匹)。
結果と考察
多因子制御ウイルスMDVVは、コントロールや他のウイルスと比べ、生存を延長させ強力な抗癌効果を示した。MDVV治療群では治療11日後の腹腔内の腫瘍がほぼ消失していたが、生理食塩水群では治療効果がなく腫瘍が増大していた。又、マウス体内のウイルス分布の解析より、投与3日後には腹腔内腫瘍におけるMDVVの増殖が確認され、その増殖による腫瘍の破壊に伴って10日後にはウイルス増殖も消失していた。一方、無制御ウイルス、miRNA制御ウイルスは、MDVVと同等の抗癌効果を示したが、投与10日後には全身の正常組織へも伝播増殖し、その毒性でマウスは死亡した。
結論
以上より、MDVVは極めて高い腫瘍特異的増殖能を有し、その腹膜播種マウスモデルにおいても副作用なく強力な抗癌効果を示した。これは、miRNAによるウイルス伝播増殖能の制御に加え、ウイルスTK遺伝子が機能を失うと、正常細胞におけるウイルスの複製能は低下するが、癌細胞にはこの遺伝子の機能を補う酵素が豊富に存在するためウイルスの複製能は低下せず、結果的に腫瘍特異性が向上したためである。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201118071Z