IgE抗体産生調節法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199700933A
報告書区分
総括
研究課題名
IgE抗体産生調節法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
徳久 剛史(千葉大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在のアレルギー疾患の治療法の主流は、すでに産生されたIgE抗体により誘導されたアレルギー性炎症の薬物治療である。しかし、その原因となる抗原を除去しない限り薬物療法は半永久的に持続しなければならず、その薬物の副作用等を見逃すことはできない。最近の免疫学の進歩により生体内におけるIgE抗体の産生機序はかなり明らかにされてきている。すなわち、抗原に対して特異的に反応するB細胞が脾臓などのリンパ組織で Th2細胞から出されるIL-4の刺激を強く受けると、IgMからIgEへのクラススイッチが起こり、そのB細胞はIgE抗体を産生するようになる。さらに、このB細胞の一部が Germinal Center(胚中心)においてメモリーB細胞に分化して生体内に長期生存することにより、生体には特定の抗原に対するアレルギー記憶が成立する。このようにIgE抗体の産生機序が明らかにされたきた現在、アレルギー疾患の予防法や治療法のひとつとして、このIgE抗体産生メモリーB細胞の特異的分化抑制法の開発が考えられる。そこで本研究では、IgE抗体を遺伝的に欠損したヒトが正常人として生活出来ている時代であることを考慮して、生体内においてIgEの産生そのものを抑制するような方法を開発することによりアレルギー疾患の予防法や根治療法の開発をめざすことを目的とする。
研究方法
ヒトのB細胞リンパ腫の染色体転座部位よりクローニングされたBCL6遺伝子が、細胞内ではZinc finger motifを持つ転写制御因子として機能しており、リンパ球においては胚中心B細胞で強い発現が認められることが明らかにされた。私たちはBCL6遺伝子のノックアウト(KO)マウスを作製したところ、このKOマウスには胚中心の形成が見られなかったことから、BCL6は胚中心を介したメモリーB細胞の分化に必須であることが示唆された。そこで、本研究ではまず胚中心B細胞におけるBCL6の機能、持続的強発現誘導機序やその標的遺伝子を明らかにする。次に、胚工学を応用して生体内でBCL6の発現や機能を阻害する方法を開発することにより、胚中心B細胞の分化障害によりIgE抗体産生メモリーB細胞の分化が障害された動物モデルを作製する。さらに、その開発された方法を遺伝子治療法等を用いてヒトに応用する。本年度は、BCL6のB細胞分化における機能解析を目的として、このKOマウス由来の骨髄細胞をもともと成熟リンパ球のいないマウス(RAG1-KOマウス)を放射線照射した後に移植することによりキメラマウスを作製した。このキメラマウスにおけるB細胞の成熟分化度を蛍光抗体とFACSを用いて解析したり、このマウスを抗原で刺激した後の脾臓における胚中心の形成を病理組織学的に解析した。また、成熟B細胞におけるBCL6の持続的強発現誘導法の開発のため、In vitroで成熟B細胞を抗Ig抗体やCD40 ligand だけでなく、IL-4などのリンフォカインにより刺激した後のBCL6のmRNA量をNorthern法で解析した。
結果と考察
BCL6-KOマウス由来の骨髄を移植したキメラマウスの脾臓細胞を蛍光抗体とFACSを用いて詳細に解析したところ、そのリンパ球分画には正常マウス由来の骨髄細胞を移植したキメラマウスと比較して著変を認めなかった。これらの結果から、BCL6はリンパ球の初期分化に必須ではないと考えられた。つぎに、このキメラマウスをT細胞依存性抗原で免疫してその脾臓における胚中心の形成を免疫組織学的に解析したところ、胚中心の形成は全く認められなかった。胚中心ではB細胞のほかにT細胞も存在しており、それらのT細胞もBCL6を強発現している。そこで、この胚中心が出来ない原因がT,Bどちらの細胞にあるのかを明らかにする目的で、正常骨髄キメラマウス由来のT,B細胞とBCL6-KOマウスの骨髄を移植したキメラマウス由来のT,B細
胞を組み合わせてRAG1-KOマウスに移植した後、抗原刺激して胚中心の形成能をしらべた。その結果、B細胞がBCL6-KOマウス由来の場合には胚中心が形成されなかったが、T細胞がBCL6-KOマウス由来の場合には胚中心が出来たことから、B細胞におけるBCL6の持続的強発現が胚中心B細胞の分化・維持に必須であることが明らかとなった。このキメラマウスを抗原刺激した後の血清中のIgMやIgG1特異抗体価を測定した。その結果、IgMやIgG1の一次抗体価が正常コントロールマウスと同様のレベルにみられたことから、BCL6が欠損してもIgのクラススイッチ機構は正常であることや一次抗体産生細胞への分化は胚中心以外の場で起こると考えられた。すでに、一次抗体産生は脾臓におけるT細胞領域(PALS)内のPrimary fociで分化するB細胞から産生されることが示唆されている。そこで、正常マウスを免疫後7日目のPALS-associated foci におけるBCL6の発現を免疫組織学的に解析したところ、その強発現が見られなかったことから、BCL6は一次抗体産生に向かうB細胞の分化増殖には関与していないことが示唆された。このことから、生体レベルでB細胞特異的にBCL6を介した刺激伝達系を阻害すると、メモリーB細胞の分化のみが障害され一次抗体産生能などの免疫能は保持されると考えられた。
BCL6の持続的強発現を誘導する刺激系を明らかにする目的で、成熟B細胞を抗Ig抗体とCD40 ligand で刺激したところ、BCL6のimmediate early gene としての一過性転写誘導は見られたが、持続的発現誘導は見られなかった。ところが、上記の刺激に加えてL-4やIL-7などのリンフォカインで刺激したところ、刺激10日後においてもひきつづき強いBCL6の発現が観察されたことから、生体レベルでこれらの刺激を阻害することにより胚中心B細胞分化障害を介して持続的IgE抗体産生制御が可能になると考えられた。また、このIn vitro 系は、BCL6の標的遺伝子のクローニングにも応用可能である。すなわち、正常マウスとBCL6-KOマウスの脾臓B細胞を上記の方法で刺激した後、それぞれの細胞から抽出したRNAを用いたRepresentation Difference Analysis 法によりB細胞内におけるBCL6の標的遺伝子のクローニングが可能になる。この標的遺伝子の機能を阻害することによっても持続的IgE抗体産生制御法の開発が可能と考えられた。
結論
成熟B細胞におけるBCL6の持続的強発現が胚中心B細胞への分化・維持のために必須であることを明らかにした。このことから、B細胞においてBCL6を介した刺激伝達系を阻害することによりメモリーB細胞の分化障害を介した持続的IgE抗体産生制御法が確立出来ると考えられた。また、In vitro系で成熟B細胞にBCL6の持続的強発現を誘導する刺激系を確立した。これらの結果から、新たなBCL6の刺激伝達系の阻害法の開発への道がひらけた。

公開日・更新日

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