アレルギー疾患の予知と予防(感作発症に及ぼす胎内環境因子と体外環境因子)

文献情報

文献番号
199700932A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギー疾患の予知と予防(感作発症に及ぼす胎内環境因子と体外環境因子)
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 聖(大阪医科大学小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 古川漸(山口大学医学部小児科)
  • 藤本昭(大阪友紘会病院産婦人科)
  • 谷口恭治(済生会茨木病院小児科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
12,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児アレルギー疾患はアトピー素因といわれる遺伝因子と環境因子に大別され、これらの複雑な相互作用によって発症する。特に最近の小児アレルギー疾患の増加の原因はアトピー素因をもつ家族において、環境因子の変化がこれまで発症しなかったアトピー素因をもつ児においても発症するようになったのではないかと考えられる。従来の環境因子に加え、小児アレルギー疾患では母親の胎内環境因子が重要であり、特に小児アレルギー疾患の予防を考える場合無視しえぬ要因である。胎児は羊水中で発育しこれを1日500ml以上も嚥下しており、羊水の胎児皮膚、消化管に与える影響は大きい。しかし、羊水が胎児に及ぼす影響と免疫アレルギー学的に検討した研究は内外共に稀有である。筆者らは羊水、母親血、臍帯血を採取し、妊娠中の母親のライフスタイルと共に児に及ぼす影響を調査し、更に質問表にてアレルギー発症を年余にわたり追跡調査し、羊水中のIgE、IgG抗体、CD23、soluble IgE receptor、IL-4、IL-5、IFN-γ、IL-10などとアレルギー発症との関係を検討し予知と予防の指標を確立したい。さらに現在実行し効果を得られているアレルギー発症予防対策として環境抗原として最も重要なチリダニ抗原除去による室内環境整備がある。
すなわち、気管支喘息をはじめアレルギー疾患を発症させる環境抗原の中で、チリダニ抗原はヒトと共生しており、小児気管支喘息の約90%を占める原因抗原でありながら、その駆除は困難である。
著者らはチリダニ抗原に最も汚染されている寝室、寝具を中心に、実行可能で最も効果的除去方法である真空パック式電気掃除機にて、1?当たり20秒の時間をかけた掃除メニューを作製し、気管支喘息児住居にて、2週間に1回実行して喘息の症状発現及び増悪を阻止しえる二次予防の効果を2~3年にわたって実証しつつある。さらにチリダニ抗原未感作の食物アレルギーに基づくアトピー性皮膚炎乳幼児住居でも実行することによってチリダニ抗原の感作・発病を予防する一次予防の効果をえつつあり、更に実行可能な掃除法を改良開発し、高温多湿な日本の住居におけるチリダニ抗原の一次予防、二次予防に必要な抗原感作の予測値と、感作予防と発症予防に必要な抗原除去の目標値を実証する成績を確認したい。
研究方法
1)臍帯血、新生児IgE値の測定感度を亢めることによって現在の3 u/ml以下の低濃度量IgE値をアルフィアシステム等で測定し、低濃度IgE値とアレルギー発症の相関を検討し予測値の精度を亢める。 2)羊水中の食物特異IgG抗体とIgG subclassを測定し、出生後の食物アレルギーに基づくアトピー性皮膚炎児の発症との相関を検討し、新生児と乳児期にみられる本症は食物特異IgG抗体とFcrR?の関与した経胎盤感作に基づく発症であることを明らかにし、本症の発症機序によって発症予測とその予防を確立する。 3)羊水、新生児血、母体血におけるIL-4、IL-5、IL-10、IFN-γを測定し、新生児、乳児期のアレルギー疾患は肥満細胞よりも好酸球の関与した炎症アレルギー反応であることを明瞭にしたい。 4)羊水、新生児、母体血のsoluble IgE receptor、CD23の測定によって、2)及び3)の成績を補強したい。 5)新生児期よりチリダニ抗原の駆除を指導し、喘息発症の一次予防の効果を検討する。
結果と考察
結果=1)臍帯血、新生児血中の総IgE値とTh1リンパ球とTh2リンパ球のバランス
アレルギー疾患の発症予防は出来るだけ早期に新生児期より行うのが最も効果があると考える。新生児血(生後6日目)、臍帯血、両親のアレルギー歴よりの検討で、著者らは母親にアレルギー歴があり、新生児血IgE値が0.5 u/ml以上の場合、high allergic risk newbornであり、3 u/ml以上の場合6歳までに85%がアレルギー疾患を発症するので、この値をアレルギー疾患発症の予測値(Prediction valve)として発表した。このことは出生時にすでにIgEの産生が高まっていることを示唆し、これは胎内感作の結果と考えられている。
ヘルパーTリンパ球はその産生するサイトカインによってTh1リンパ球とTh2リンパ球に分類される。Th1リンパ球は interferon gammma(IFN-γ)や interleukin (IL)-2 などを産生し移植拒絶反応や、結核の感染などで働く。一方Th2リンパ球はIL-4やIL-13などを産生し、IgE産生の増強など抗体産生に働く。ヘルパーTリンパ球の面からはIgE高値を示すアトピー型のアレルギーではTh2リンパ球が中心となる。本研究ではアトピー家系の臍帯血のTリンパ球を用いて、細胞内サイトカインを染色し、Th1リンパ球とTh2リンパ球のバランスについて検討する。そして臍帯血中のTリンパ球を卵白(ovoalbumin, OVA)などで刺激しアレルゲンに対する胎内感作の有無を明らかにする。本年度は、はじめに健常小児についてPMAとionomycin刺激下で検討した。健常小児のIFN産生CD3+Tリンパ球はCD3+Tリンパ球中14.7±3.6%、IL-4産生CD3+Tリンパ球は1.1±0.6%であった。現在臍帯血のTリンパ球を用いて検討中である。
2)羊水と臍帯血および母親血中特異IgE抗体と特異IgG抗体
しかし臍帯血からは食物抗原特異IgEは検出されず、特異IgGは検出される。そして羊水中からは食物抗原特異IgGは検出されているが、吸入抗原(チリダニ)特異IgGは母親血からは全例検出されているにも関わらず1例も見出されなかった。母体血、臍帯血ではチリダニ(Dp)特異IgG抗体はそれぞれ98.3%、94.5%と認められたにも関わらず、羊水では全例20 GRU/ml以下でDp特異IgG抗体は検出しえなかった。一方、食物抗原の鶏卵(オバルブミン)、牛乳(ラクトグロビン、ラクトアルブミン、カゼイン)については母親血、臍帯血でほぼ同等の値を示し、羊水中にもオバルブミン特異IgGで31%、牛乳抗原に対しても15~19%に検出され、吸入抗原と食物抗原とでは羊水中では全く異なる成績を得た。これらの成績は胎児期にFcrR?の関与したIgG抗体による経胎盤感作が示唆され、食物アレルギーの発症を予知しえるのでこの成績を加えることによって発症を予防する予測の精度を一層高め得ると考える。
3)アトピー家庭におけるチリダニ抗原除去によるチリダニ感作予防(一次予防)と発症阻止(二次予防)効果
早期チリダニ抗原除去によるアトピー素因陽性児におけるチリダニ感作阻止成績(一次予防) 食物アレルギーに基づくアトピー性皮膚炎乳児の保護者に2歳前後にチリダニ感作の可能性と危険について説明し、乳児期よりのチリダニ抗原除去による環境整備に基づくチリダニ感作予防を行った。すなわちチリダニ抗原除去を目的とした前記掃除メニュー実行群では積極的に掃除を行わないコントロール群に比し、2~4年間Der?抗原量で5・以下に維持しえるとチリダニ抗原の感作を免れていることより、一次予防が可能な成績をえた。
また、気管支喘息発作の発症頻度の高い、喘息児住居の発症前のチリダニ抗原量(Der?量)の測定では、10・/g/dust以上の値の場合が最も多く、発症阻止(二次予防)の効果を得るチリダニ抗原駆除を目的とした家庭環境整備には10・/g/dust以下のDer?抗原量の維持が必要とされる成績であった。
結論

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