緑内障の発症、経過解析、治療に関する研究

文献情報

文献番号
199700931A
報告書区分
総括
研究課題名
緑内障の発症、経過解析、治療に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
新家 眞(東京大学医学部眼科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 北澤克明(岐阜大学医学部眼科)
  • 三嶋弘(広島大学医学部眼科)
  • 阿部春樹(新潟大学医学部眼科)
  • 小口芳久(慶應大学医学部眼科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
73,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 緑内障は、本邦における2大失明原因の一つで、最近行われた全国緑内障疫学共同調査により、40才以上における有病率が3.6%もの高きに達することが明らかになった。また、年齢が高い程その有病率は高く、故にこの数字は今後急速に進む人口構成の老齢化に従い、将来さらに大きく上昇することは想像に難くない。したがって、緑内障の早期発見および加療による進行防止、及びそのための病因解明とより有効な治療法の開発は、国民医療上の急務である。
本研究は緑内障の最も効果的な治療法及び初期診断、経過解析法を確立し、さらに病態整理を解明することを目的として、臨床および基礎的研究両面から他施設共同研究により、その発症機序、自然経過を総合的に解析したものである。
研究方法
1)眼圧下降薬:α-遮断作用を有する薬物アモスラール、イフェンプロジル等に関し動物眼で眼圧下降効果およびその機序を空気眼圧計、フルオロフォロメトリー、トノグラフィー等を用いて検討した。
2)正常眼圧緑内障:各施設の臨床データを集めて、眼圧下降薬・循環改善薬等の効果に対し個々の施設での結果をまとめ、今後のプロスペクティブスタディのための予備解析とする。さらに、視神経乳頭の形状や屈折などのデータを元にして、対象を分類し、その特質を検討した。
3)緑内障の診断・スクリーニング:共焦点レーザーを利用した視神経乳頭形態解析装置、視神経線維厚測定装置および新たに開発された視野測定方法の検討を行い、それぞれの検査法の感度、特異度を求めた。
4)緑内障経過・予後判定法:4施設から千例以上の緑内障患者視野検査結果を集め、それらの各測定点をコンピュータによりクラスター分析することにより、緑内障の経過観察に最も適した視野のセクターパターンを決定した。
5)緑内障における循環因子の研究:レーザースペックル現象を利用した視神経乳頭血流測定装置を用い、視神経乳頭における血流の眼圧負荷、薬物負荷下におけるautoregulation機能の検討を行った。
6)分子生物学的研究:実験対象として網膜神経節培養細胞、眼圧上昇による実験的緑内障眼、視神経挫滅モデルを用いて、網膜神経節細胞死および視神経乳頭を構成する各種細胞の障害形態について検討を行った。網膜神経節培養細胞については培養条件を検討、至適条件を決定した。また、実験的緑内障モデルでは、逆行性軸索輸送により蛍光標識物質を神経節細胞に標識し神経節細胞死の時間的経過を解析すると同時に、視神経乳頭部の細胞外マトリックス・サイトカイン・増殖因子等のレセプター量変化および視神経乳頭部の各細胞の細胞死について解析を行った。視神経挫滅モデルでは、特に神経栄養因子とアポトーシスの関係に注目して解析を行った。
さらに、緑内障遺伝子に関する研究では原発開放隅角緑内障の原因遺伝子として、はじめて発見されたミオシリン(MYOC/TIGR)遺伝子に関し、ノックアウトマウスを作成する予備検討としてマウスにおけるクローニング、緑内障患者におけるミオシリン遺伝子解析、線維柱帯における発現状態の検討を行った。
結果と考察
1)眼圧下降薬:アモスラール、イフェンプロジルは動物眼で主にぶどう膜強膜を介する房水流出を促進させることを明らかになった。このことによりこれらのα遮断薬が将来緑内障治療薬として有望であることがわかった。
2)正常眼圧緑内障:正常眼圧緑内障患者を視神経乳頭形状に基づいて分類することにより、それぞれの症例の特質を加味した解析が行えるようになる可能性が示唆された。このような多くのデータを集めることは一施設ではとうてい不可能であり、多施設研究の利点を生かした成果が今後も期待される。
3)緑内障の診断・スクリーニング:共焦点レーザーを利用した視神経乳頭形態解析装置は特異性が高く、視神経線維厚測定装置は感度が高いことが明らかになった。新たに開発された視野測定方法は、より短時間で従来の方法に匹敵する緑内障検出能力を持つことが明らかになった。これらの測定機器を組み合わせて使用することにより緑内障の初期診断が可能であることが示唆された。
4)緑内障経過・予後判定法:緑内障の経過観察に最も適した視野のセクターパターンが決定され、今後、このセクターパターンは、緑内障のより鋭敏な経過解析法を確立するために重要な基礎データとして用いることができると考えられた。
5)緑内障における循環因子の研究:視神経乳頭における血流のautoregulationの性状が明らかになった。またカルシウムブロッカーにより視神経乳頭血流が増加する可能性が示され、眼圧が正常域にあるにもかかわらず緑内障と同様の病態を示す正常眼圧緑内障等の治療に有効である可能性が示唆された。
6)分子生物学的研究:網膜神経節培養細胞の培養至適条件を決定した。また、実験的緑内障モデルでは、網膜神経節細胞死にアポトーシスが見られること、組織トランスグルタミナーゼや、Caspaseの発現程度に変化が認められることが明らかとなり、また視神経乳頭部においては神経栄養因子の発現状態変化が見られるとともに、TGF-β1、2、3の三つのアイソフォームの全ておよびTGF-βレセプターの発現上昇を認めた。視神経挫滅モデルでは、神経栄養因子の欠乏程度とアポトーシスに関連があることを明らかにした。このように緑内障モデルにおいて網膜神経節細胞の障害機序ならびに視神経乳頭組織の障害機序に関して新たな知見が得られたことより、緑内障の病態整理がより一層明らかになると共に、新たなTGF-βや神経栄養因子による新たな緑内障治療法の可能性を見いだすことができた。
さらに、緑内障遺伝子ミオシリン(MYOC/のマウスにおけるクローニングに成功した。さらに、緑内障患者線維柱体細胞においてミオシリンの発現を認めることが明らかになった。この緑内障遺伝子の研究をさらに継続することにより、緑内障の発症機序にさらに迫れることが期待される。
結論
 本研究により、緑内障の発症機序、病態生理に関する新たな知見が得られ、また緑内障の新たな治療方法の開発およびより鋭敏な緑内障診断、経過観察を一部確立することができた。これらの結果は現在の緑内障スクリーニング法および治療法に大きな影響を与えうると共に今後の緑内障研究の基礎となる成果であると考えられた。

公開日・更新日

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