脳腫瘍における幹細胞性維持機構の遮断とその臨床応用

文献情報

文献番号
201118028A
報告書区分
総括
研究課題名
脳腫瘍における幹細胞性維持機構の遮断とその臨床応用
課題番号
H22-3次がん・一般-013
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
宮園 浩平(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 鯉沼 代造(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 藤堂 具紀(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
18,021,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 我々はこれまでTGF-βが脳腫瘍幹細胞に作用して脳腫瘍幹細胞の未分化性を維持していることを明らかにした。さらに、脳腫瘍幹細胞においてTGF-βがSmadシグナル経路を活性化すると、転写因子Sox4、その下流のSox2を介して未分化性を維持していることを明らかにした。本研究では、 SmadがSox4-Sox2経路を介して他の転写因子とともにどのような標的遺伝子を活性化するか、それらの遺伝子は脳腫瘍幹細胞の未分化性維持にどのように関わっているかを明らかにする、さらにこれらの遺伝子群の脳腫瘍における発現について研究を進めることとした。
研究方法
 ヒト脳腫瘍幹細胞は東京大学医学部倫理委員会の承認を得て採取したものを用いた。培養は無血清でEGFとbFGFの存在下で行った。幹細胞マーカーの発現、sphere形成能の測定、ヌードマウス頭蓋骨内への同所移植などはすでに報告した手法 により行った。
結果と考察
 平成22年度に引き続き、我々は転写因子Oct4に注目し、ヒト脳腫瘍患者から得た脳腫瘍幹細胞でOct4の発現を低下させたところ、分化の促進が見られた。また脳腫瘍幹細胞をOct4 siRNAで処理すると、コントロールに比べて抗がん剤投与により有意に細胞数の減少が見られ、抗がん剤に対する感受性が亢進したと考えられた。
 脳腫瘍幹細胞は培養中に継代を重ねると未分化性を次第に失うことから、我々はOct4/Sox2 enhancerの活性化を指標に培養脳腫瘍幹細胞の未分化性を検出する系を立ち上げることを試みた。これらの脳腫瘍幹細胞をマウス頭蓋内に移植したところ、マウスを屠殺することなく、腫瘍の形成・増大を検出することができた。また、未分化性を維持していると考えられる脳腫瘍細胞は血管周辺に局在する傾向があることを免疫組織染色で確認した。
 我々はさらにTGF-βファミリーの脳腫瘍幹細胞に対する作用の研究を進め、BMP-4は脳腫瘍幹細胞に作用し、分化促進作用を持つことを確認した。一方、TGF-β阻害剤とBMP-4を併用しても協調作用は明らかではなく、BMP-4とTGF-βは異なる下流シグナル経路や転写因子を介して脳腫瘍幹細胞の分化を制御していると考えられた。
結論
 平成23年度はOct4の作用の解析に加え、脳腫瘍幹細胞を用いたin vivoイメージングシステムの確立やTGF-βシグナルとBMPシグナルとの関係について研究を進めた。本研究の成果が明らかとなれば将来、TGF-β阻害剤を臨床応用するさいに治療が有効な症例を予測する上で重要となると考えられ、厚生労働行政の面でも極めて重要であると期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-05-19
更新日
-

収支報告書

文献番号
201118028Z