文献情報
文献番号
201118025A
報告書区分
総括
研究課題名
造血器悪性腫瘍及び転移性がんで高頻度に異常を来している遺伝子を標的とした新たな治療法の開発に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H22-3次がん・一般-010
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
北林 一生(独立行政法人国立がん研究センター 研究所 造血器腫瘍研究分野)
研究分担者(所属機関)
- 直江 知樹(名古屋大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学)
- 赤司 浩一(九州大学大学院 医学研究院 病態修復内科学)
- 堺 隆一(独立行政法人国立がん研究センター 研究所 転移浸潤シグナル研究分野)
- 的崎 尚(神戸大学大学院医学研究科 シグナル統合学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
50,145,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
再発や転移はがんによる死亡要因として最も重要であり、これらを阻止する新しい治療法の確立が強く求められる。本研究では、本研究事業の先行研究を通して申請者らが独自に明らかにしてきた成果の中で、特に再発や転移に深く関与するがん幹細胞やチロシンリン酸化シグナルに関する研究を発展させて、造血器腫瘍や転移性がんに対する新たな治療法の開発を目指す。
研究方法
白血病幹細胞特異的分子としてTIM3およびM-CSFRを同定したので、これらに対する抗体医薬や阻害剤を用いて白血病幹細胞のみを根絶する新規治療法を開発する。また、多くのがんで高頻度に変異や活性化が見られるチロシンキナーゼ及びその下流シグナル分子の様々ながんの発症や転移・浸潤能の獲得における役割を明らかにし、チロシンリン酸化シグナルを標的とした新たな治療法を開発する。
結果と考察
急性骨髄性白血病(AML)幹細胞に関しては、特異的に高発現する表面抗原Tim-3及びM-CSFRを同定した。抗Tim-3抗体及び抗M-CSFR抗体を作成し、AMLを再構築させたマウスで白血病幹細胞に対する殺細胞効果を検証した。新規STAT阻害剤に関してはOPB-31121のin vivoでの抗腫瘍効果を検討した。マウスに腫瘍細胞株を皮下播種して作成した腫瘍はOPB-31121の経口投与により著明に退縮した。また患者白血病細胞を骨髄内に移植したモデルにおいても、本薬剤の経口投与で白血病細胞の著明な減少と正常造血細胞の回復が確認された。スキルス胃がん細胞株のリン酸化蛋白質解析により、Metキナーゼとその下流のリン酸化が強くMet阻害剤が増殖を抑制するグループと、Met阻害剤が効かずSrc阻害剤が有効で、この経路が活性化したグループに分けられることが分かった。Rasを介した腫瘍の転移、浸潤特性の獲得は、下流のErkの活性化により著明な発現誘導を受けるCDCP1に依存することが示された。 受容体型PTPであるSAP-1の脱リン酸化基質として腸上皮細胞に発現するpp90を見出した。また、Shp2の結合分子SIRPαの抗体が新たながんの分子標的薬として利用できる可能性を示した。
結論
Tim-3及びM-CSFRは、正常造血幹細胞に発現を認めない理想的な分子標的候補であり、臨床応用への拡大を目指す。新規STAT阻害剤OPB-31121により白血病細胞の著明な減少と正常造血細胞の回復が確認され、強い抗腫瘍効果と正常造血には作用しないという安全性が確認された。この結果等をもとに共同研究中の製薬会社において本薬剤の第1相臨床治験が開始された。
公開日・更新日
公開日
2015-05-19
更新日
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