ロービジョンエイドを処方するための新しい検査表の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199700930A
報告書区分
総括
研究課題名
ロービジョンエイドを処方するための新しい検査表の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小田 浩一(東京女子大学現代文化学部・コミュニケーション学科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療技術の進歩にも関わらず、社会の老齢化・西洋化に伴い、治療できない視覚障害のために、機能が低下したままの状態、すなわちロービジョンで生活せざるをえない人口が増加している。ロービジョンでは、読書ができないことが最も大きな問題の1つとされている。読書障害にたいしては、光学的なエイドや閉回路テレビなどの電子的なエイドが一定の効果を上げており、その処方は、比較的最近眼科医療の延長線上で行われるようになってきたロービジョン・クリニックの主な役割になっている。ただ、多様なロービジョンの状態に対して適切なエイドを処方することは困難で、簡便で適切な検査方法が必要とされている。そこで、本研究の目的は、ロービジョンの患者に適切なエイド(補助具)を処方するための簡便な検査を開発することである。
研究方法
ミネソタ大学のロービジョン研究室に出張してロービジョンのエイドを処方するチャート、MNREADの日本版MNREAD-Jの共同開発を行った。ミネソタ大学で初期プロトタイプを完成し日本に持ち帰り、関係者で会議を開いて最初の修正を行い、同時に臨床での試験利用を、方法を説明して依頼した。依頼先は、杏林大学病院眼科、日本大学駿河台病院眼科、日本ライトハウス視覚障害者リハビリテーションセンターである。大学では、大学生を被験者にして、正常者のデータを集め始めた。途中で何回かの修正を行いつつ、データを収集した。正常者については60件、テストと再テストのデータが集まった。ロービジョンの患者については、老人性黄斑変性の患者のデータ20件、白子症のデータが1件、集まった。臨床での試験利用は、正常者のデータがある程度集まって、検査表として実用に足ると判断されるまで待ってもらったので、件数が延びなかった。3月には、ミネソタ大学からゴードン・レッグ教授を2週間招聘して、修正した検査表を見てもらい、また、収集したデータを英語版で得られたデータと比較した。
結果と考察
ミネソタ大学ロービジョン研究室と共同でMNREAD-Jのプロトタイプの開発に成功した。英語以外の言語では、最初の試みが成功したことになる。MNREAD-Jを試験的に利用して得られたデータは、米国人に英語の検査表を使って得られたデータと同じ傾向を示した。すなわち、読書視力や最大読書速度、臨界文字サイズという3つの読書成績のパラメータは、MNREAD-Jで得られたデータでも同様に簡単に推定できた。人間の読書行動は、言語や文字体系の違いに関わらず類似の傾向を示すと考えられる。また、老人性黄斑変性症の患者でMNREAD-Jを使って読書の成績を評価しながら、SLO(Scanning Laser Ophthalmoscope)で残存視野と患者自身が好んで利用する視野の部位(Prefered Retinal Location;PRL)の関係を調べたところ、興味深い関係が得られた。日本語特有の縦書きを読んできた老人性黄斑変性の患者の多くは、右側の視野より左側の視野を使う患者の方が読書の成績が良いという結果が得られた。さらに、白子症のロービジョンの児童が就学にあたって、拡大読書機(CCTV)を学習に必要とするかどうか、その結果が在籍校の選択に重要な意味を持っていたケースで、白黒反転の検査表を使った短時間の検査が、必要かどうかを判断するための客観的な資料を提供した。
結論
ロービジョンエイドを処方するための新しい検査表である、 MNREAD-Jのプロトタイプが完成した。この検査表の利用上の効果については、補助金の交付が遅れたこともあり、十分に評価できたとは言いがたいが、これまでに得られた視覚正常者でのテストの結果や、わずかながら臨床でテストした結果をみるかぎり、実用上の効果は少なく
ない。老人性黄斑変性症の患者の読みテストから、残された視野の場所と読書の困難の関係が明らかになった例や、白子症の子どものロービジョンエイドの処方に利用されて拡大読書機(CCTV)の必要の有無を短時間で判断した例などから、今後臨床で利用する例が増えれば、さらに効果が期待できると思われる。

公開日・更新日

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更新日
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研究報告書(紙媒体)