がん性疼痛などの緩和のための病態生理に基づいた新たな治療法の開発

文献情報

文献番号
201118012A
報告書区分
総括
研究課題名
がん性疼痛などの緩和のための病態生理に基づいた新たな治療法の開発
課題番号
H21-3次がん・一般-012
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
的場 元弘(独立行政法人 国立がん研究センター 中央病院 緩和医療科・精神腫瘍科)
研究分担者(所属機関)
  • 白石 成二(独立行政法人 国立がん研究センター 研究所 がん患者病態生理研究分野がん疼痛研究ユニット)
  • 鈴木 勉(星薬科大学 薬学部薬品毒性学教室)
  • 山口 重樹(獨協医科大学 医学部麻酔科)
  • 西野 卓(千葉大学大学院 医学研究院麻酔学)
  • 海老原 充(独立行政法人 国立がん研究センター 東病院 頭頸部腫瘍科・形成外科)
  • 岩瀬 哲(東京大学医学部附属病院 緩和ケア診療部)
  • 山口 拓洋(東北大学病院 医学系研究科医学統計学分野)
  • 川股 知之(信州大学 医学部麻酔蘇生学講座)
  • 冨安 志郎(長崎市立市民病院 麻酔科診療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
50,929,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、オピオイド抵抗性のがん疼痛治療薬剤の作用メカニズムに基づいた新規治療の開発、呼吸困難など治療法が未確立ながん患者の苦痛や病態に合わせた薬物治療法やケアの開発を行うと同時に、緩和ケア領域の研究支援組織の構築を目指す。
研究方法
難治性疼痛モデルの作成と新規治療の検討として、①がん性腹膜炎疼痛モデル動物の脊髄ならびに脊髄後根神経節のサンプルを作製し、遺伝子発現の変化は real time RT-PCR 法に従い解析。脊椎骨転移動作時痛モデルに対して、ケタミンを腹腔内投与し、その鎮痛効果を調べた。②ドロナビノールの精神依存と耐性形成抑制の解明として、鎮痛効果は右側後肢大腿部坐骨神経結紮モデル、報酬効果は、conditioned place preference 法を用いた。側坐核領域におけるモルヒネ誘発 dopamine 遊離促進作用は in vivo microdialysis 法 により検討した。③呼吸困難の治療開発としてフロセミド吸入試験およびトロメタモールの静注試験を計画した。④症状及び評価系が未確立な進行頭頸部がんの症状と機能に関する観察研究をおこなった。
結果と考察
難治性疼痛の病態解明と新規治療開発のうち、①腹膜播種による疼痛行動は、急性膵炎疼痛モデル鎮痛用量では有意な鎮痛効果を認めず、低用量のリドカインの併用で改善した。これらの病態下では脊髄後根神経節で、Na+チャネルサブユニットである Nav1.7 の発現が増加し、μ-オピオイド受容体の発現減少が明らかになった。脊椎骨転移動作時痛モデルでは低用量のケタミンを腹腔内に投与すると運動量は有意に回復した。②ドロナビノールはモルヒネにより誘発される精神依存を有意に抑制した。③フロセミド吸入とする単盲検ランダム化第Ⅱ相試験、トロメタモール点滴静注のⅠ相試験の症例集積中。④進行頭頸部がんの症状と機能に関する観察研究は、平成24年3月6日現在、37例の症例集積が行われ、月6から7例の新規登録が行われている。
結論
基礎研究の成果は、今後の臨床試験の実施にあたって有用性が高い。リドカインやケタミン、ドロナビノール等の新規治療薬についても臨床応用が可能な成果が得られ臨床試験につながると考えている。また、緩和ケア領域の臨床試験では、研究計画から研究実施までのノウハウが不足しているが、今年度の活動によって臨床試験が開始され、症例集積が開始されたことは意義深い。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201118012B
報告書区分
総合
研究課題名
がん性疼痛などの緩和のための病態生理に基づいた新たな治療法の開発
課題番号
H21-3次がん・一般-012
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
的場 元弘(独立行政法人 国立がん研究センター 中央病院 緩和医療科・精神腫瘍科)
研究分担者(所属機関)
  • 上園 保仁(独立行政法人 国立がん研究センター 研究所 がん患者病態生理研究分野)
  • 白石 成二(独立行政法人 国立がん研究センター 研究所 がん患者病態生理研究分野がん疼痛研究ユニット)
  • 鈴木 勉(星薬科大学 薬学部薬品毒性学教室)
  • 山口 重樹(獨協医科大学 医学部麻酔科)
  • 西野 卓(千葉大学大学院 医学研究院麻酔学)
  • 海老原 充(独立行政法人 国立がん研究センター 東病院 頭頸部腫瘍科・形成外科)
  • 岩瀬 哲(東京大学医学部附属病院 緩和ケア診療部)
  • 山口 拓洋(東北大学病院 医学系研究科医学統計学分野)
  • 川股 知之(信州大学 医学部麻酔蘇生学講座)
  • 冨安 志郎(長崎市立市民病院 麻酔科診療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、オピオイド抵抗性のがん疼痛治療薬剤の作用メカニズムに基づいた新規治療の開発、呼吸困難など治療法が未確立ながん患者の苦痛や病態に合わせた薬物治療法やケアの開発を行うと同時に、緩和ケア領域の研究支援組織の構築を目指す。
研究方法
難治性疼痛モデルの作成と新規治療の検討として、①臨床像に合わせた腹膜播種腹痛モデルと脊椎骨転移動作時痛モデルを確立し、その病態の解明と治療薬剤への反応を基礎と臨床で評価する。②新規制吐剤として期待されるドロナビノールの疼痛下における精神依存と鎮痛耐性形成抑制の解明。③呼吸困難の治療開発としてフロセミド吸入試験およびトロメタモールの静注試験。④症状及び評価系が未確立な進行頭頸部がんの症状と機能に関する観察研究。⑤緩和ケアの臨床研究支援組織としての体制整備を行う。
結果と考察
難治性疼痛の病態と新規治療開発については、①低分化型胃がん細胞を用いた腹膜播種疼痛モデルによる、脊髄後根神経節のμ-オピオイド受容体の発現減少と、Na+チャネルの発現増加が確認され、低用量のリドカインでは疼痛行動は有意に抑制され、臨床の一部でのみ行われている治療法について病態と効果が一致することが解明されつつある。脊椎転移動作時痛モデルでは、低用量ケタミンにより疼痛反応は改善したが、NMDA受容体阻害薬MK-801では改善しないことが明らかになった。脊椎骨転移動作時痛のがん患者における臨床試験が開始され症例集積中である。②疼痛下ではドロナビノールはモルヒネの併用による鎮痛耐性はほとんど形成されず、モルヒネにより誘発される精神依存を有意に抑制することから、ドロナビノールをがん疼痛治療薬として導入する基礎的な検討を終えた。③フロセミド吸入とする単盲検ランダム化第Ⅱ相試験、トロメタモール点滴静注のⅠ相試験が現在症例集積中である。④進行頭頸部がんの症状と機能に関する観察研究は、多施設共同研究として、QOL評価、頭頸部がんに特有な病変の有無、肺転移/胸水の有無、栄養経路や意識障害の評価を行いながら現在症例集積中。⑤緩和ケア領域の臨床試験支援体制の確立として5つの臨床試験のプロトコル作成支援、データセンター構築、研究実施支援を行った。
結論
基礎研究の成果は、今後の臨床試験の実施にあたって有用性が高い。リドカインやケタミン、ドロナビノール等の新規治療薬についても臨床応用が可能な段階にきている。また、緩和ケア領域の臨床試験では、研究計画から研究実施までのノウハウが不足しているが、今年度の活動によって臨床試験が開始され、症例集積が開始されたことは意義深い。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201118012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
難治性疼痛のメカニズムに沿った治療開発として、臨床像に合わせた腹膜播種腹痛モデルと脊椎骨転移動作時痛モデルを確立した。リドカインやケタミン等の経験的に用いられてきた鎮痛補助薬の効果を明確にすることができた。また新規薬剤のドロナビノールについて、依存を含む精神症状の懸念を払拭する成果が得られた。緩和ケア領域の臨床研究支援組織として、データセンター、プロトコル作成支援委員会などの組織構築が終了した。
臨床的観点からの成果
基礎研究の成果に基づき、腹膜播種の痛みにはモルヒネなどのオピオイドの効果が減弱している可能性が高く、リドカインなどの新規薬剤による治療の確立を進めていく必要がある。脊椎骨転移に伴う動作時痛、がん性呼吸困難に対するフロセミドの吸入、頭頚部進行がん患者の症状の変化等についての臨床試験を進めており、従事成果が明らかになってくると考えられる。また、緩和ケアの臨床試験においては、損害保険を確保した上での実施が可能であり、当研究班でも採用した。
ガイドライン等の開発
腹膜播種に伴う腹痛に対するリドカインの効果や、脊椎骨転移に伴う動作時痛、およびがん性呼吸困難に対するフロセミドの吸入療法についての臨床試験がそれぞれ進行中であり、2年後予定されている、がん疼痛薬物療法ガイドラインや、3年後に予定されている消化器症状の緩和に関するガイドライン(いづれも日本緩和医療学会編)への反映を目指している。
その他行政的観点からの成果
緩和医療については多くの患者会がエビデンスに基づいた治療を求めており、当研究班では、臨床研究支援組織の構築を行い、いくつかの複数の試験デザインによる臨床試験の支援を行い、データセンターの構築を行った。今後この組織が恒常的な形で運用される必要がある。
その他のインパクト
特記事項なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
76件
その他論文(英文等)
54件
学会発表(国内学会)
90件
学会発表(国際学会等)
41件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Akiyama M, Takebayashi T, Matoba M, et al.
Knowledge, beliefs, and concerns about opioids, palliative care, and homecare of advanced cancer patients: a nationwide survey in Japan
Supportive Care in Cancer , 20 , 923-931  (2012)
原著論文2
Minami K, Yokoyama T, Uezono Y, et al.
The tramadol metabolite O-Desmethyl tramadol inhibits substance P-receptor functions expressed in Xenopus Oocytes
J Pharmacol Sci , 115 (3) , 421-424  (2011)
原著論文3
Minami K, Shiraishi S, Uezono Y, et al.
The analysis of the effects of anesthesics and ethanol on μ-opioid receptors
J Pharmacol Sci , 112 (4) , 424-431  (2010)
原著論文4
Nishino T
Dyspnea and its interaction with pain
J Anesth , 25 , 157-161  (2011)
原著論文5
Masami Suzuki,Minoru Narita,Motohiro Matoba,et al
Sensation of Abdominal Pain Induced by Peritoneal Carcinomatosis Is Accompanied by Changes in the Expression of Substance P and -Opioid Receptors in the Spinal Cord of Mice
Aneshesiology , 117 , 847-856  (2012)
原著論文6
Suzuro Hitomi, Kentaro Onoa,Kanako Miyano, et al
Novel methods of applying direct chemical and mechanical stimulation to the oral mucosa for traditional behavioral pain assaysin conscious rats
J Neurosci Meth , 239 , 162-169  (2015)
原著論文7
Kiichiro Yamaguch, Kentaro Ono, Suzuro Hitomi,et al
Distinct TRPV1- and TRPA1-based mechanisms underlying enhancement of oral ulcerative mucositis-induced pain by 5-fluorouracil
PAIN , 157 , 1004-1020  (2016)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2016-06-06

収支報告書

文献番号
201118012Z