網膜変性症の発症機序の分子基盤とその理論を応用した治療法の開発

文献情報

文献番号
199700929A
報告書区分
総括
研究課題名
網膜変性症の発症機序の分子基盤とその理論を応用した治療法の開発
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
梅澤 明弘(慶應義塾大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
細胞死ならびに変性によって生じる疾病は数多く存在し,そのひとつである網膜変性症の病態生理は医学・生物学的にも解明されるべき重要な課題である.申請者は独自に新たな分子である分化関連分子EAT遺伝子を得た.興味深いことに,本遺伝子は細胞死阻害作用を有するbcl-2のファミリーのホモロジー・ドメインを有していることより,EATは分化または器官形成過程で細胞死を阻止し,分化を支持するのに必須である,という「EATの分化支持」仮説を提唱した.このEATの細胞死抑制能を個体レベルで解析するために網膜にEATが発現するトランスジェニック・マウスを作製した.このトランスジェニックマウスを用いて,網膜変性症に対するEATの作用を詳細に解析する.本年度は,これまでin vitro で得られたあらゆる解析結果を総合し,それをもとに具体的に種々の薬剤によるEATの発現誘導と光曝露刺激によって生じる細胞障害阻止との関連を個体レベルで決定する.このことは網膜変性症の治療の開発に繋がる.
研究方法
網膜でEAT遺伝子が発現するトランスジェニック・マウスならびにその対照群に対し,光曝露2000ルックスを数日,行う.その網膜変性に対するEAT遺伝子の作用に関しては,a. 眼底検査, b. 網膜電位の測定, c. 組織学的検討,を行った.組織学的検討では,網膜細胞の核DNA の断片化をtunnel法検討した.なお,眼底検査ならびに網膜電位の測定は慶應義塾大学眼科学教室・小口教授(担当・中村裕博士)との共同研究で行った.
結果と考察
EAT遺伝子の網膜変性症実験モデルマウスに対する作用を以下のように決定した.1.網膜に遺伝子がEAT遺伝子が発現するようなトランスジェニック・マウスを20ライン以上作製した.2.網膜変性を生じさせる光曝露室の作製し.いずれのマウスに対しても均等に2000ルックス以上の光量を当てることが曝露室では可能とした.3.マウス眼底検査は慶應義塾大学眼科学教室との共同研究で可能となった(Scalar製眼底鏡).4.マウス網膜電位(ERG)もトランスジェニック・マウスで検査できる施設を整備した.また,ヒト同様にERGを網膜変性を生じさせる前のトランスジェニック・マウスでは検査が終了している.EATは短期間の光曝露による網膜変性を抑制する傾向が認められた.
網膜変性症の病態生理を明らかにし,その治療法を開発することは医学的に解明されるべき重要な課題である.申請者は独自に細胞変性ならびに細胞死を阻止する遺伝子EATを得た.このEAT遺伝子を網膜に発現するようにしたトランスジェニック・マウスを用いることで,同分子の網膜変性に対する作用を本研究では検討した.既にEAT以外の bcl-2 ファミリー遺伝子が網膜変性のシグナル伝達系に関与することは知られている.しかしながら,EAT遺伝子は他の細胞死を阻止する bcl-2 ファミリーの遺伝子とは異なり,その発現が種々の薬物により誘導されることが知られている.このことはEAT遺伝子を網膜で誘導させることで,網膜変性を阻止ないし軽減させることができる可能性があることを意味している.トランスジェニック・マウスの網膜変性の程度は,具体的に組織レベル,眼底鏡,網膜電位により決され,僅かではあるがEATが網膜変性を抑制する傾向が少なくともある光曝露期間ではみられた.条件をより詳細に検討することで,明らかにEATが網膜変性を阻止するようであれば,これまでin vitro で得られたあらゆる解析結果を総合し,網膜におけるEAT遺伝子の発現の誘導を検討することで網膜変性症の治療の開発を試みることが可能となる.
結論
bcl-2ファミリーの遺伝子であるEATを導入したトランスジェニック・マウスに対して光曝露による網膜変性症を生じさせた.EAT は網膜の変性を阻害し,EATの発現を薬物により誘導することで網膜変性を阻止できる可能性を示唆した.そのEATの網膜変性作用は短期間の曝露に限られているが.脂溶性ビタミンにより誘導可能な分子でありその発現をより誘導することでその変性作用の抑制効果を増強できると考える.

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)