成人T細胞白血病のがん幹細胞の同定とそれを標的とした革新的予防・診断・治療法の確立

文献情報

文献番号
201118002A
報告書区分
総括
研究課題名
成人T細胞白血病のがん幹細胞の同定とそれを標的とした革新的予防・診断・治療法の確立
課題番号
H21-3次がん・一般-002
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 俊樹(東京大学 大学院 新領域創成科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 中内 啓光(東京大学 医科学研究所)
  • 浜口  功(国立感染症研究所)
  • 長谷川秀樹(国立感染症研究所)
  • 小川 誠司(東京大学 医学部附属病院)
  • 塚崎 邦弘(長崎大学 大学院 医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
24,289,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
治療抵抗性で難治であるATLの、早期診断・発症予防法と革新的新規治療法開発の新たな基盤形成を目指して、がん幹細胞様細胞(CSC)を同定して、その分子細胞生物学的な特性を明らかにする事を目指すものである。この目的のため、マウスモデルとヒトATLの両面から解析を進める。
研究方法
1)マウスATLモデルは、CD38, CD71, CD117抗体を用いた免疫組織化学およびGFP強制発現細胞により、がん幹細胞(mATL-CSC) の組織分布を検討した。更に、質量分析を用いて特異的分子の同定を行った。2)NOD/SCID/Jak3KO (NOJ)マウスの移植系でヒトATL幹細胞の同定作業を進めた。3)幹細胞との比較検討のため、ヒト末梢血ATL細胞の包括的解析から特異的な分子病態解明を進めた。4)ATLの臨床病態解析を行った。
結果と考察
1)mATL-CSCは脾臓と骨髄に分布し、脾臓では血管内皮ニッチに、骨髄では骨内膜に局在した。2)mATL-CSC特異的細胞膜タンパク質としてCadherinを同定した。3)ATL患者末梢血単核球からの連続移植継代系を確立し、ATLがん幹細胞の存在を証明した。これらが、プロウイルスの組み込み部位の解析から末梢ATL細胞に由来すること、表面マーカー解析からそれがCD5++CD4+細胞分画に含まれる事を示した。4)末梢血ATL細胞の包括的分子病態解析により、ATL細胞における特異的なmiR-31の発現欠損とそれによるNF-kBの恒常的活性化が細胞増殖と細胞死抵抗性に必須であること、ポリコームによるヒストンのメチル化を介したエピジェネティクス制御が発現低下の原因であることを明らかにし、世界で初めてポリコーム―miRNA-NF-kBのリンケージを発見した。
5)末梢血とリンパ節の急性型ATL細胞をアレイCGH法で解析し、ATL細胞の生体内進化の場がリンパ節である事を示した。
結論
ヒトATL-CSCの存在が示された。マウスATL-CSCでのnicheの同定は、ヒトATL-CSC研究に大きな貢献が期待出来る。末梢ATL細胞の分子病態解明はATL-CSCの性状解明の基盤となるとともに、新たな分子標的治療のコンセプトを提示した。

公開日・更新日

公開日
2015-05-19
更新日
-

文献情報

文献番号
201118002B
報告書区分
総合
研究課題名
成人T細胞白血病のがん幹細胞の同定とそれを標的とした革新的予防・診断・治療法の確立
課題番号
H21-3次がん・一般-002
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 俊樹(東京大学 大学院 新領域創成科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 中内 啓光(東京大学 医科学研究所)
  • 浜口  功(国立感染症研究所)
  • 長谷川秀樹(国立感染症研究所)
  • 小川 誠司(東京大学 医学部附属病院)
  • 塚崎 邦弘(長崎大学 大学院 医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人T細胞白血病 (ATL)の発症予防と画期的根治療法の新たな標的として、ATLの「がん幹細胞」(ATL-CSC)に着目した。未報告のATL-CSCの存在証明と同定作業を進め、1)マウスモデルでのCSC研究成果、2)末梢ATL細胞との比較による分子細胞生物学的な特性の解明、3)ATLの臨床病態の更なる理解等を通じて、新規治療法や早期診断・発症予防法の開発を目指す。
研究方法
以下の4つのアプローチを行った。1)マウスモデルを用いたが「マウスATLのがん幹細胞(mATL-CSC)」の同定と解析、2)免疫不全マウスを用いたヒトATLのがん幹細胞(ATL-CSC)の探索と解析、3)末梢ATL細胞の分子病態解析、4)ATL患者の臨床病態解析
結果と考察
1)マウスATLモデルでがん幹細胞を同定し、そのNicheが脾臓と骨髄であることを示した。2)NOD/SCID/Jak3KO (NOJ)マウスによる新たな腫瘍細胞連続移植系を確立し、これを用いて末梢血ATL細胞のがん幹細胞(CSC)を同定した。3)末梢血ATL細胞のゲノム異常と遺伝子発現異常のデータベースを構築した。4)これに基づきATL細胞特異的なmiR-31発現欠損を発見し、それがATL細胞の恒常的NF-kB活性化の基盤であることを示した。miR-31の補充でATL細胞のNF-kB活性阻害と細胞死の誘導を示し、新たな分子標的療法開発の基盤を提供した。5)indolent type ATL (chronicとsmoldering)の長期予後が不良である事を明らかにし、新たな治療戦略の必要性を示した。6)末梢血とリンパ節のCGH解析から、個体内でのATL細胞のエボリューション場がリンパ節であことを明らかにした。7)エピジェネティクス制御機能阻害剤を検証しATLに対する有用性を確認した。
結論
マウスATLモデルのがん幹細胞の同定とそのNicheの解明等の情報は、ヒトATLのがん幹細胞同定と解析に不可欠の情報をもたらした。ヒトATL幹細胞の存在証明と同定は世界初の知見である。末梢ATLの詳細な分子病態の解明に基づく新たな分子標的の同定は、新規治療法開発の独自の基盤を確立した。ATLの長期予後、個体内でのATL細胞の進化モデルの解明は、更なる発症予防と治療研究の基盤となる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-19
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201118002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
マウスモデルにおけるATLがん幹細胞とそのnicheの同定は、ATLのがん幹細胞の存在証明と合わせて、当該領域の画期的な進展である。ATL細胞の包括的解析からmiRNAの発現異常の実態を解明した。特にmiR-31の発現欠損とそれによるNF-kBの恒常的活性化機構を解明し、「miR-31補充療法」と言う新規の治療概念を示した。更に、miR-31発現抑制にポリコームによるヒストンメチル化制御が関わる事を示し、エピジェネティクス―miRNA-シグナル伝達のリンケージを世界で初めて証明した。
臨床的観点からの成果
ATLがん幹細胞の存在が示された事により、これを標的とした治療法開発の重要性が現実の課題となった。今後、このがん幹細胞のnicheを解明する事により、ATLにおけるがん幹細胞を標的とした治療法開発研究の展開が期待される。miR-31発現欠損とNF-kB活性化の関係が明らかになり、分子標的としてNF-kB経路そのものに加えて、「miR-31補充療法」によるATL細胞特異的な細胞死誘導を目指す分子表的療法開発と言う課題が明らかになった。
ガイドライン等の開発
「HTLV-1総合対策」策定に伴う追加課題により、① 国内におけるHTLV-1キャリア相談窓口の実態と機能に関する調査、② HAM患者相談窓口との協調と連携③ セカンドオピニオン窓口の整備と連携を目指した調査:④ 患者とその家族の意向を踏まえた「ATL患者向け」および「ATL患者家族向け」のパンフレットの整備:ATL患者・家族の方々が疾患をよりよく理解し、医療機関で診療を適切に受けることができるように、パンフレットを作成し全国約450施設へ配布した。
その他行政的観点からの成果
「HTLV-1総合対策」策定に伴う追加課題により実施した、全国の1310の医療機関へATL/HTLV-1の診療実態調査の結果のうち、血液内科216施設と皮膚科242施設の診療内容を集計し、HTLV-1情報サービスに掲載された。関連したその他の制作物も、厚生労働省のHTLV-1情報サービスHP (http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou29/)のコンテンツとして利用されている。
その他のインパクト
ATL細胞の分子病態の解明については多数の報道がなされた。2012年1月毎日新聞「ATL:東大チームがん増殖の仕組み解明」、共同通信「分子の補充でがん細胞死滅」、西日本新聞「ATL発症解明へ糸口」、朝日新聞等。
HTLV-1総合対策に伴う追加交付課題関係:JST主催「ATLシンポジウム2011 in 福岡」、沖縄県/沖縄科学技術振興センター主催「ATLシンポジウム in 沖縄」等で「HTLV-1総合対策」に関連した講演、また厚労省や自治体主催の講習会等での講演を通じ、啓発活動を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
38件
その他論文(和文)
21件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
74件
学会発表(国際学会等)
30件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
「HTLV-1感染総合対策等に関する有識者会議による提言」2010年12月
その他成果(普及・啓発活動)
31件
1.ATL/HTLV-1情報サイト 2.成人T細胞白血病の患者さんとそのご家族向け小冊子 3.HTLV-1キャリア向け小冊子を制作。新聞発表24件。テレビ解説4件。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamagishi M, Ogawa S, Watanabe T, et al.
Polycomb-mediated loss of miR-31 activates NIK-dependent NF-kB pathway in adult T-cell leukemia and other cancers
Cancer Cell , 21 (1) , 121-135  (2012)
原著論文2
Umino A, Tsukasaki K, et al
Clonal evolution of adult T-cell leukemia/lymphoma takes place in lymph node.
Blood , 117 , 5473-5478  (2011)
原著論文3
El Hajj H, El-Sabban M, Hasegawa H, et al
Therapy-induced selective loss of leukemia-initiating activity in murine adult T cell leukemia.
J Exp Med , 207 (13) , 2785-2792  (2010)
原著論文4
Nakashima M, Watanabe T, Watanabe T,
The side population, a precursor of Hodgkin and Reed-Sternberg cells, as a target for NF-κB inhibitors in Hodgkin lymphoma
Cancer Sci , 101 (11) , 2490-2496  (2010)
原著論文5
Kawaguchi A, Hasegawa H, et al
Inhibition of the SDF-1α-CXCR4 axis by the CXCR4 antagonist AMD3100 suppresses the migration of cultured cells from ATL patients and murine lymphoblastoid cells from HTLV-I Tax transgenic mice
Blood , 114 (14) , 2961-2968  (2009)
原著論文6
Kato M, Ogawa S, et al
Frequent inactivation of A20 in B-cell lymphomas
Nature , 459 , 712-716  (2009)
原著論文7
Yamazaki J, Hasegawa H, Hamaguchi I, et al
Identification of cancer stem cells in a Tax- transgenic (Tax-Tg) mouse model of adult T-cell leukemia/lymphoma
Blood , 114 (13) , 2709-2720  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2017-05-25

収支報告書

文献番号
201118002Z