ベーチェット病患者血清の反応する連鎖球菌抗原とヒト組織との分子相同性に関する研究

文献情報

文献番号
199700928A
報告書区分
総括
研究課題名
ベーチェット病患者血清の反応する連鎖球菌抗原とヒト組織との分子相同性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 浩二(国立札幌病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、免疫疾患の発症機序としてmolecular mimicryによる自己トレランスの破綻が想定されている。ベーチェット病でも様々な免疫異常を伴っており、何らかの外的因子により自己免疫の異常が発症に関与しているのではないかと考えられている。本病では外因として患者口腔内由来の連鎖球菌が注目されているが、もしこれが抗原として働いているなら菌あるいは菌の一部が口腔内から血中に入り、全身的に感作されている可能性がある。これまでに患者血清が反応する連鎖球菌抗原はすでに遺伝子レベルで同定されているので、それを用いて以下のことを研究する。遺伝子の中で抗原性の高い領域にいくつかのプライマーを設定し患者血液から精製したDNAを用いてPCRを行い、増幅されるかを調べる。増幅された場合、PCR産物から塩基配列を調べて、それが菌のDNAそのものなのか、あるいは菌とホモロジーを持つヒトDNAなのかを調べる。また、患者間で塩基配列に違いがあるかを調べ、病型との関連について検討する。もし患者血中に抗原遺伝子が証明されれば、血中の抗原を操作することにより直接病気の治療に結びつけることができる。あるいはヒトの抗原と患者の免疫反応との関連を調べることにより、病態の解明が可能となり、抗原特異的免疫療法や遺伝子診断・遺伝子治療の開発が期待できる。
研究方法
はじめに材料として、患者および対照から採血し全血から凝集分配法(セパジーン)により抽出したDNAを用いた。これまでに連鎖球菌遺伝子の210bpの領域にプライマーを設定し患者血液より抽出したDNAを用いてPCRを行い、複数の患者でPCR産物が得られている。そのPCR産物の塩基配列を決めるために、PCR産物を精製し末端平滑化を行い、pUCベクターにライゲーションした。プラスミドを増幅後、ダイターミネーター法により自動DNAシークエンサーを用いて塩基配列を解析した。
次に、これまでに同定した連鎖球菌抗原遺伝子のなかから抗原性の高い領域に10カ所程度20merのプライマーを設定し、PCR反応を行った。PCRは94℃1分、57℃1分、72℃2分を30サイクル行った。得られたPCR産物を同様にpUCベクターにクローニングし塩基配列を調べた。各PCR産物について、データベースBLASTによりホモロジーサーチを試みた。
結果と考察
210bpのPCR産物の塩基配列は菌体DNAとは大きく異なっており、ヒト由来のDNAであった。ホモロジーサーチを行ったところ、ホモロジーをもつ遺伝子は見つからず、未知の遺伝子領域と考えられた。
次にいくつかの領域にプライマーを設定してPCRを行った結果、2カ所でPCR産物が得られた。2つのPCR産物は63bpと87bpの大きさで、それぞれ菌体DNAとは71%、62%DNAが一致していた。ともに菌の遺伝子ではなく、ヒト由来のDNAと考えられた。前者はヒトのFK506-binding protein FKBP51 mRNAをコードしているDNAであった。後者のDNAはヒトのPAC 528L19 on chromosome 6q23であった。また、患者間での塩基配列の違い、および完全型・不全型の病型やHLAとの相関についても検討したが、有意な結果は得られなかった。
これまでに同定した連鎖球菌抗原に対して、ベーチェット病患者の免疫反応が亢進していることは証明されている。しかし、どのような機序で病態が形成されているのかについては明らかにはなっていない。今回の研究から、菌抗原がヒトの血中に侵入していることは証明できなかった。しかし、菌抗原のある部分ではヒト組織とホモロジーをもつことが明らかとなった。この抗原が実際に疾患の発症に関与しているかどうか、また関与しているとしたらどのようにかかわっているのかについては現時点では不明である。FK506は免疫抑制剤としてベーチェット病の治療に使われているが、連鎖球菌抗原とFK506-binding proteinにホモロジーがみられたことから、今後両者の関係について検討していきたい。もうひとつホモロジーのみられたPAC 528L19 on chromosome 6q23については、ベーチェット病の内因と考えられているHLA-B51の存在する第6染色体のDNAであったという点で共通しており、注目していきたい。
結論
我々が同定した連鎖球菌抗原は、今回の研究より血中に存在することは証明できなかった。ただ、ヒト組織とホモロジーをもつことが明らかとなり、molecular mimicryを介してベーチェット病の病態形成において何らかの役割を果たしていることが推測できた。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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