頻度の高い視聴覚障害の発症機序ならびに治療法に関する研究(角結膜上皮由来ムチンのドライアイにおける表現とその治療薬としての可能性に関する研究)

文献情報

文献番号
199700925A
報告書区分
総括
研究課題名
頻度の高い視聴覚障害の発症機序ならびに治療法に関する研究(角結膜上皮由来ムチンのドライアイにおける表現とその治療薬としての可能性に関する研究)
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 仁(大阪大学医学部眼科学教室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 涙液を眼表面上に保持することは、良好な視力を得る上に不可欠である。最近、我々の研究により角膜上皮、結膜上皮がムチン及びムチン様糖タンパクを産生する事が判明し、その角結膜上皮が産生するムチン・ムチン様糖タンパクは眼表面上の涙液の保持に必要と考えられる様になってきた。そこで、本研究ではそのムチン・ムチン様糖タンパクのドライアイでの表現について検討した。ドライアイでは上皮の角化が見られることから眼表面上皮の角化疾患である上輪部角結膜炎での表現についても検討した。
研究方法
 ドライアイでは初期には、瞼裂間の球結膜で最初に所見が認められることから、正常者16眼、ドライアイ患者32眼において瞼裂間の球結膜をインプレッションサイトロジーより表層細胞を採取し、角結膜上皮由来ムチンに対するモノクローナル抗体を用いてその表現を検討した。ドライアイ患者の眼表面上皮が一部角化していることから、さらに角化性上皮疾患である上輪部角結膜炎6例8眼(男性1例1眼、女性5例7眼)を対照として角結膜上皮由来ムチンの表現について検討した。同様に上輪部角結膜炎(SLK)患者の上輪部の表層の結膜上皮をインプレッションサイトロジーより採取しモノクローナル抗体を用いて同様に免疫組織化学的に検討した。 さらに上輪部角結膜炎患者に対しビタミンA点眼あるいは治療用コンタクトレンズで治療を行った。治療後1ー2か月で6例8眼手いずれの眼でも治癒した。治療後8眼中6眼で治療前に角化部位であった上輪部の結膜上皮を採取し検討した。
結果と考察
 角結膜上皮が産生するムチンの表現は正常では角膜および結膜上皮のいずれにおいても細胞毎に高度、中等度、低度と3段階の表現でモザイク状であった。これまでの我々の研究により角結膜上皮由来ムチンは最表層上皮にある微絨毛先端での強く表現されていることが判っている。これまで眼表面の角結膜最表層上皮では微絨毛の密度が高度、中等度、低度の3段階にわかれており、上皮由来ムチンの表現が3段階であるのはこのためと考えられた。角結膜上皮由来ムチンの表現はドライアイ患者の最表層上皮では低下あるいは消失しモザイクパターンは認められなかったが、杯細胞では強い表現となっていた。こうしたドライアイでの表現の低下は角結膜上皮が一部で角化していると考えられたため、さらに角化性上皮疾患である上輪部角結膜炎を対象に検討した。上輪部角結膜炎では角化部位の上輪部結膜上皮を採取して観察するといずれも細胞質が拡大し、核は濃縮し、核/細胞質比は1/5-1/10と低下しており角化の状態を呈していた。こうした細胞では角結膜上皮が産生するムチンの表現は低下あるいは消失しモザイクパターンは認められなかった。さらに上輪部角結膜炎に対し、ビタミンA点眼あるいは治療用コンタクトレンズで治療し上輪部結膜上皮が正常化すると角結膜上皮由来ムチンの表現はモザイク状に回復した。こうした角結膜上皮由来ムチンの表現が低下すると涙液の安定化が妨げられ、そうするとドライアイがさらに進行することから、角結膜上皮由来ムチンの表現を維持することは涙液保持に取って重要であり、そうした角結膜上皮由来ムチンの表現を誘導できる因子、薬剤があればあたらしいドライアイの治療薬となる可能性が示唆された。
結論
 ドライアイでの角結膜上皮由来ムチンの表現は正常で認められるモザイクパターンは消失する。それ故、ある種のドライアイにおいては外部より涙液の要素を加えるだけでなく、角結膜上皮に角結膜上皮由来ムチンを表現させることが必要である。

公開日・更新日

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更新日
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研究報告書(紙媒体)