かかりつけ医のための認知症の鑑別診断と疾患別治療に関する研究

文献情報

文献番号
201116006A
報告書区分
総括
研究課題名
かかりつけ医のための認知症の鑑別診断と疾患別治療に関する研究
課題番号
H21-認知症・一般-005
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
池田 学(熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本 衛(熊本大学 医学部附属病院)
  • 水上勝義(筑波大学 大学院人間総合科学研究科)
  • 博野信次(神戸学院大学人文学部)
  • 今村 徹(新潟医療福祉大学大学院医療福祉学研究科)
  • 数井裕光(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 森 悦朗(東北大学大学院医学系研究科)
  • 上村直人(高知大学医学部附属病院)
  • 福原竜治(愛媛大学大学院医学系研究科)
  • 品川俊一郎(東京慈恵会医科大学)
  • 荒井由美子(国立長寿医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
14,662,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
前頭側頭葉変性症(FTLD)患者では、病初期より食行動変化が高頻度に出現することが報告されている。FTLDの一臨床類型である意味性認知症(SD)は、側頭葉前部に萎縮中心を有し、意味記憶障害を最大の特徴とする疾患である。側頭葉萎縮には通常左右差があり、左側優位に萎縮が生じれば言語性意味記憶障害が認められ、右側優位に萎縮した場合は、早期より相貌の同定障害が引き起こされる。またSDでは、特に右側優位萎縮例で、意味記憶障害がほとんど目立たない時点から著明な行動障害が生じることがある。このようにSDにおいて萎縮優位側の差による症候学的な相違が言及されているが、食行動異常についてはいまだ不明な点が多い。そこで本研究では、SDにおける萎縮優位側と食行動異常との関連について検討した。
研究方法
国際ワーキンググループによる臨床診断基準(Neary et al., 1998)におけるSDの診断基準を満たす患者の連続例を対象とした。全ての対象者に神経精神医学的診察、標準的な神経心理検査、MRI検査、SPECT検査を施行し、これらの結果を用いて診断を行った。脳萎縮の優位側をMRI冠状断画像を用いて判定し、対象患者を右側側頭葉優位萎縮型(SD-R)と左側側頭葉優位萎縮型(SD-L)の2群に分類した。対象者は33名で、SD-Rが12名、SD-Lが21名であった。食行動異常は、Swallowing/Appetite/Eating Habits Questionnaire(Ikeda et al. 2002)を用いて評価した。
結果と考察
SD33例中31例(94%)において何らかの食行動異常を認めた。「嚥下障害」「食欲の変化」「嗜好の変化」「食行動の変化」において、二群間で有意差は認めなかった。一方、「口に詰め込む」「物を吸ったり、噛む」「非食料品を食べる」の3項目では、いずれの項目もSD-RがSD-Lよりも有意に出現率が高かった。さらにSD10例に対して、食物/非食物の判別能力を検査した結果、SD-Rの方が判別能力が低く、非食物を積極的に食物と誤る傾向がみられた。
結論
本研究の結果から、SDでは食行動異常が病初期から高頻度に出現すること、右側優位萎縮例は左側優位例よりも異食のリスクが高く、その背景に意味記憶障害や口唇傾向が存在することが示された。SDにおいて、食行動異常の出現を念頭に置きケアしていくことが重要である。

公開日・更新日

公開日
2012-08-22
更新日
-

文献情報

文献番号
201116006B
報告書区分
総合
研究課題名
かかりつけ医のための認知症の鑑別診断と疾患別治療に関する研究
課題番号
H21-認知症・一般-005
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
池田 学(熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 森 悦朗(東北大学大学院医学系研究科)
  • 水上勝義(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
  • 今村 徹(新潟医療福祉大学大学院医療福祉学研究科)
  • 数井裕光(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 橋本 衛(熊本大学医学部附属病院神経精神科)
  • 上村直人(高知大学医学部神経精神科学)
  • 福原竜治(愛媛大学大学院医学系研究科)
  • 品川俊一郎(東京慈恵会医科大学精神医学講座)
  • 博野信次(神戸学院大学人文学部人間心理学科)
  • 荒井由美子(国立長寿医療研究センター 研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルツハイマー病(AD)以外の認知症疾患の行動・心理症状(BPSD)の特徴や、重症度別BPSD研究がほとんど行われていない理由として、AD以外の認知症疾患の症例数の少なさが主たる要因と考えられる。そこで本研究では、認知症専門医療を提供する国内8施設の共同研究において、認知症疾患別のBPSDの特徴と、認知症重症度とBPSDとの関連を明らかにすることを目的とした。
研究方法
平成22年1月から平成23年10月までの期間に、626例の認知症症例が研究にエントリーされた。ADは393例、血管性認知症(VaD)は71例、レビー小体型認知症(DLB)は97例、前頭側頭葉変性症(FTLD)は30例であった。それらの患者のBPSDをNeuropsychiatric Inventory(NPI)を用いて検討した。
結果と考察
① BPSDはその内容によって、全ての認知症に共通して生じるものと、比較的疾患に特異的なものの2群に分類される。前者には、興奮、うつ、不安、易刺激性、無為、異常行動が含まれ、後者には妄想、幻覚、多幸、脱抑制、睡眠障害、食行動変化が含まれることが明らかになった。
② 疾患に特徴的なBPSDとしては、幻覚がDLBに多く、多幸・脱抑制がFTLDに特徴的な症状であることが示された。
③ ADとDLBを対象として認知症重症度とBPSDの関連を調べた検討では、ADでは認知症が重症化するにつれてBPSDも悪化するのに対して、DLBでは激しいBPSDが病初期から認められることが明らかになった。この結果は、AD患者では病期に応じたBPSD対応が、DLBでは病初期から集中的なBPSD対応が必要であることが示された。
結論
本研究の結果から、軽度-中等度の時期において、どの認知症でも一定の頻度でBPSDが生じることが示された。この結果は、BPSDのマネージメントがどのような認知症疾患においても重要となる事を示している。BPSDの内容と原因疾患との関連については、BPSDは全ての認知症に共通して認められるBPSDと、比較的疾患に特異的なBPSDがあることが示された。前者の疾患にかかわらず認められるBPSDは、認知症になることによってもたらされる心理社会的要因と強く関連し、後者の疾患特異的なBPSDは、その発現に生物学的要因が強く働いていることが考察された。

公開日・更新日

公開日
2012-08-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201116006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
多数の研究成果を基に、BPSDはその内容によって、全ての認知症に共通して生じるものと、比較的疾患に特異的なものの2群に分類されることを明らかにした。これは認知症の鑑別診断ならびにBPSD治療に大きく寄与する知見である。また、BPSDは認知症疾患だけではなく重症度とも密接に関連しており、BPSD治療には認知症重症度も考慮しながら行うことが重要であることを指摘した。


臨床的観点からの成果
上述した研究成果を基に、かかりつけ医のための家族指導用の小冊子「アルツハイマー病の正しい理解」、「レビー小体型認知症の正しい理解」「血管性認知症の正しい理解」などを作成し、研究成果のまとめとして、池田 学編著「認知症 臨床の最前線」(医歯薬出版)を2012年2月上梓した。また、パワーポイントによる研修用教材は、「熊本県かかりつけ医認知症対応力向上研修 ステップアップ編」 (140名が受講)で2年間にわたり使用し、参加者の評価を参考に改訂を重ねている。
ガイドライン等の開発
池田と橋本は、認知症疾患治療ガイドライン2010(日本神経学会監修、医学書院)のアルツハイマー病と前頭側頭葉変性症の一部を担当し、研究成果を盛り込んだ。また、森と数井は、特発性正常圧水頭症診療ガイドライン第2版(日本正常圧水頭症学会 特発性正常圧水頭症診療ガイドライン編、メディカルレビュー社)の作成に、中心的な役割を果たした。
その他行政的観点からの成果
研究成果を基に作成したパワーポイントによる研修用教材は、熊本県ならびに熊本県医師会が共催している「熊本県かかりつけ医認知症対応力向上研修 ステップアップ編」 (140名が受講)で2年間にわたり使用し、参加者の評価を参考に改訂を重ねている。また、専門的な内容を含んだ教材は、熊本県認知症医療・地域連携専門研修と名付けられたサポート医のステップアップ研修(60名が受講)に用いられた。
その他のインパクト
池田 学「ケアのかたち -認知症に寄り添う」(朝日新聞、2010.5.19)
池田 学「NHKクローズアップ現代 誤診される認知症」(NHK、2010.6.30)
池田 学「医療ルネッサンス 精神疾患の早期支援 認知症の進行を遅らせる」(読売新聞、2010.11.9)
池田 学「特集 認知症長寿社会 知っておきたい医療編 前頭側頭葉変性症」(信濃毎日新聞、2011.1.21)
池田 学「認知症と生きる -熊本の現場から 多様な病像を理解しよう」(熊本日々新聞、2011.9.24)

発表件数

原著論文(和文)
23件
原著論文(英文等)
62件
その他論文(和文)
117件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
54件
学会発表(国際学会等)
25件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
その他成果(普及・啓発活動)
5件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ikeda M, Kitamura I, Ichimi N, et al.
Gogi aphasia: The early description of semantic dementia in Japan
Acta Neuropsychologica , 9 , 133-140  (2011)
原著論文2
Ogawa Y, Hashimoto M, Yatabe Y, et al.
Association of Cerebral Small-Vessel Disease with Delusions in Alzheimer’s Disease Patients
Int J Geriatr Psychiatry (in press)  (2012)
原著論文3
Shimizu H, Komori K, Fukuhara R, et al.
linical profiles of Late-onset Semantic Dementia, compared with Early-onset Semantic Dementia and Late-onset Alzheimer’s Disease
Psychogeriatrics , 11 , 46-53  (2011)
原著論文4
Yatabe Y, Hashimoto M, Kaneda K, et al.
Neuropsychiatric symptoms of progressive supranuclear palsy in a dementia clinic
Psychogeriatrics , 11 , 54-59  (2011)
原著論文5
Nishio Y, Hashimoto M, Ishii K, et al.
Neuroanatomy of a neurobehavioral disturbance in the left anterior thalamic infarction
J Neurol Neurosurg Psychiatry , 82 , 1195-1200  (2011)
原著論文6
Nemoto K, Mizukami K, Hori T, et al.
Hyperperfusion in primary somatosensory region related to somatic hallucination in the elderly
Psychiatry Clin Neurosci , 64 (4) , 421-425  (2010)
原著論文7
村葉子,今村徹,笠井明美,他
認知症における行動心理学的症状 (Behavioral and psychological symptoms of dementia: BPSD) の直接行動観察式評価用紙の開発:信頼性と妥当性の検討
高次脳機能研究 , 30 , 510-522  (2010)
原著論文8
Kashibayashi T, Ikeda M, Komori K, et al.
Transition of distinctive symptoms of semantic dementia during longitudinal clinical observation
Dement Geriatr Cogn Disord , 29 (3) , 224-232  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
2016-06-29

収支報告書

文献番号
201116006Z