頻度の高い視聴覚障害の発症機序並びに治療法に関する研究1997-1998

文献情報

文献番号
199700923A
報告書区分
総括
研究課題名
頻度の高い視聴覚障害の発症機序並びに治療法に関する研究1997-1998
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
角田 篤信(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
4,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
耳鳴りに悩んでいる患者さんはきわめて多い反面、その多くは発症機序が不明であり、適切な加療方針は立てにくい。今回の研究の目的は、聴覚障害に関する血管ならびに血流の影響について検討する事で、血管特に頸動脈、頸静脈の位置と耳鳴等の聴覚障害の関連が明らかにし、耳鳴の発症機序の一つを明らかにすることである。
研究方法
当初、東京医科歯科大学耳鼻咽喉科外来において撮影された前額断トモグラフィーから頸静脈球と鼓室、内耳、内耳道との関係を検討し、画像から見たデータと患者の実際の症状や検査所見との関係について検討する予定であったが、当科がきわめて多くの例数の聴神経腫瘍を扱う関係から、聴神経腫瘍患者がかなりの割合を占めてしまうため、まず、耳鳴を訴える患者について詳細な鼓膜所見を内視鏡下にとり、さらに頸部圧迫試験下での症状の変化並びに鼓膜所見の変化について検討した。これらの所見は全てビデオモニター下に施行した。また必要に応じて顕微鏡下での検討を行った。骨の欠損による血管の直接の内耳、中耳への影響は耳鳴症状の大きな因子と考えたため、血管病変が直接内耳に接している病態を検討する目的でヒト頭蓋骨検体70体(骨標本50体、解剖体20体)について、内頸動脈と内頸静脈の内耳、中耳への突出を内視鏡、顕微鏡、ゾンデ等を用いて検討した。
結果と考察
耳鳴の症状の発現には左右差は認められず、頸部圧迫試験を施行した70症例中では70名の患者のうち変化を訴えたのは一名のみで、その一名は頸部圧迫によりはっきりとした耳鳴、耳閉感の増強があり、検査上骨導聴力の低下を認めた。本症例は内視鏡並びCT検査にて正円窓窩ならび蝸牛との間に骨性の隔壁が無く、直接接していると推察された。聴力検査上も骨導閾値の上昇が見られており、頸静脈の存在が内耳に影響し、耳鳴を生じているものと推察された。蝸電図等で異常は見られなかった。検体の検討では頸動脈と内耳、中耳との間の骨欠損が見られた献体は皆無であった。頸静脈への突出が見られた検体は中耳側に一体のみ認められた。従って、頸動脈は通常蝸牛に接して走行するにも関わらず、骨欠損が通常生じにくい頸動脈による血管性耳鳴はきわめて稀と考えられた。一方、頸静脈球も骨欠損がない限り通常は無症状であると考えられるが、中耳、内耳への欠損は頸動脈のそれに比し頻度が多く、欠損が生じた場合は何らかの症状を来しやすいものと考えられた。頸部圧迫試験は何らかの血管病変が中耳等に存在した場合、自覚症状の変化をもたらすと考えられるが、今回の検討ではほとんどの耳鳴患者になんらの変化ももたらさなかった。唯一症状を発現した症例は骨の欠損がはっきりしており、血管と中耳や内耳の間に骨欠損が生じた場合は何らかの症状を来す事が推察された。
結論
耳鳴の発現頻度には左右差は認められず、頸部圧迫試験では画像上の頸静脈球や頸動脈と内耳、中耳との位置関係に関わらず、70名の患者のうち変化を訴えたのは1名のみであった。その1名は内視鏡並びCT検査にて頸静脈球と正円窓窩ならびその近傍の内耳骨胞との間に骨性の隔壁が無く、直接接していると推察された。したがって、血管病変が直接内耳、中耳に接していることが、血管により生じる耳鳴の一因と考え、その病態並び頻度を検討する目的でヒト頭骸骨検体70体について検討した。頸動脈と内耳、中耳との間の骨欠損が見られた検体は皆無であったが、頸静脈への突出が見られた検体は中耳側に一体のみ認められた。血管構造物が耳鳴の成因となるには、何らかの骨欠損があり、血管が直接、中耳や内耳に接する必要がある。そのため、骨欠損がほとんど見られない頸動脈による耳
鳴は生じにくい。また、頸静脈は中耳、内耳への骨欠損がある場合にのみ耳鳴、難聴などの症状を呈し、その頻度は頸動脈のそれに比し高いものと推察された。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)