頻度の高い視聴覚障害の発生機序並びに治療法に関する研究

文献情報

文献番号
199700922A
報告書区分
総括
研究課題名
頻度の高い視聴覚障害の発生機序並びに治療法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
春田 厚(宮崎医科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
2,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまで内耳液組成については電解質等についての報告がなされているものの、その他のアミノ酸、タンパク、ペプチドについてはほとんど報告されていない。特にヒト内耳液を用いた組成分析については採取機会の困難さもありほとんどなされていない。本研究は高度感音難聴患者の内耳障害や内耳液組成の恒常性変化を分析するために、人工内耳手術患者の外リンパ液を採取し遊離アミノ酸の分析を行い、臨床データと比較検討するとともに、動物実験を行いながらそこから得られた各種内耳障害モデルの外リンパ遊離アミノ酸変化に基づき、ヒト外リンパ液の変化から障害部位、障害程度との関連性を分析するものである。
研究方法
研究方法は、人工内耳手術患者の外リンパ液採取と症例臨床データ解析による臨床研究と、外リンパ液の遊離アミノ酸分析を行う生化学的分析、動物を用いた内耳障害モデル実験、得られたデータを比較検討する総合判定を予定し行った。人工内耳手術症例は、詳細な病歴により高度難聴の発症した原因の聴取を行い、純音聴力検査、promontory test、補聴器効果などの聴覚生理学的検査のほか、CT、MRIによる画像診断を行い内耳障害部位の推定、内耳液組成変化の可能性を検討する。外リンパ液の採取に際しては患者からの同意を得た後、手術中に先端50オmのガラスピペットを使用し鼓室階開窓時に採取することとした。採取した外リンパ液は両端をミネラルオイルにて封入し-80℃にて凍結保存した。生化学的分析では外リンパ液の遊離アミノ酸を測定した。測定には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた。遊離アミノ酸測定はイソチオシアン酸フェニルにて誘導体化した後PicoTag法にて行った。アセトニトリル系2溶媒を用い、カラムは生体アミノ酸分析用PicoTagカラム、検出は蛍光検出器で254nmの波長を用い行った。standardには、和光純薬標準アミノ酸TypeHを用い外部標準法にて測定した。測定される遊離アミノ酸は17種類である。検出感度を増すためにCapillary HPLCの導入を行なった。これらと平行してモルモットを用いた各種内耳障害のモデル実験を行った。また過去に本施設で行った動物の内耳障害モデル実験から得られた外リンパ液組成分析の結果についても加味して、ヒト外リンパ液測定結果、臨床データ、動物実験による内耳障害部位と外リンパ液測定結果について総合的な検討を行う。
結果と考察
1997年4月1日から1998年3月31日までに人工内耳手術を行い外リンパ液を採取し得た症例は26例であった。男性10人女性16人。失聴期間は3ヶ月から52年で平均失聴期間は21年であった。失聴原因では原因不明が最も多く14例、ついで薬物中毒が6例、中耳炎による内耳障害と思われるものが2例、突発性難聴、メニエル病、側頭骨外傷、腎機能障害が各1例であった。これら人工内耳手術症例26例からガラスピペットを用いて外リンパ液を採取した。そのほか採取の機会のあった聴神経腫瘍1例、内耳奇形1例、脳脊髄液2例も採取した。採取量は各症例により異なるが2~6オlであった。しかしながら除タンパクなどの前処理の過程で更に測定量は減少した。最終的な測定量は約50%程度であった。外リンパ液の採取に際して最も問題になったのは中耳腔に出血した血液や開窓時の出血による血液混入であった。この解消のためにガラスピペットの先端をガラス電極並に細くする(先端50-100オm)ことと、鼓室階開窓時に膜迷路を一層残した状態(soft surgery technique)でガラスピペットを挿入し外リンパ液を緩徐に吸引する方法で対処した。この結果血液の混入の認められたものはわずか3例で残り23例については血液汚染の無い外リンパ液を採取することができた。採取した試料
は両端をミネラルオイルで封入し超低温で凍結保存することにより乾燥分解しやすいアミノ酸成分も極めて安定に保存されることがわかった。今回用いたこれらの方法は微量生体液性試料の保存方法として最も有効であると考えられた。人工内耳手術は月に2回の割合で行われるため、試料は蓄積しながら貴重な生体試料測定のための最も良い生化学的分析条件を検討した。分析条件の検討にはモルモットの外リンパ液、脳脊髄液を用いて条件設定を行った。17種類の遊離アミノ酸について十分安定な分離を行うためには少なくとも5オlの量が必要であったため5オl以下の量の試料について測定感度を上げるためにcapillary HPLCを併用した。まず予備実験としてモルモットの正常外リンパ液分析した結果ではアミノ酸はASPからALAまで17種類これまでに行ってきた測定結果と同じ濃度勾配を示した。続いてモルモットの脳脊髄液を測定した結果AspからAlaまで外リンパ液に比べその濃度は約1/2であった。特にGlyは外リンパ液で約5倍高濃度に存在した。Capillary HPLCを用いモルモット外リンパ液の測定を行ったところ5オl以下の量でも高感度に測定することができ1/10の量(0.1オl)でも測定可能で同じ濃度勾配を示した。しかしながら濃度が低くなるとbase lineが不安定となりAspやGluののような低濃度アミノ酸では検出しにくくなる傾向があった。ヒト外リンパ液の比較的多量にとれた試料と脳脊髄液を抽出しHPLC及びCapillary HPLCにて測定を行った。その結果ヒトの外リンパ液遊離アミノ酸はほとんどモルモットの外リンパ液遊離アミノ酸と優位な差は認めなかったがSer、Gly、Alaの濃度はヒトの外リンパ液中の方が優位に高かった。またモルモットの外リンパ液と脳脊髄液の比較で認められたように、脳脊髄液のほとんどのアミノ酸で外リンパ液の方が高かったが特にGLYは外リンパ液に優位に高かった。現在まで4例の外リンパ液を分析した結果ではヒトの外リンパ液はモルモットのそれに比べ全体に高濃度存在した。特にSer、Gly、Alaの濃度が高かった。残る外リンパ液脳脊髄液については現在分析中である。これらと平行して今回新たに行った動物を用いた内耳障害モデル実験として、まず内耳血流障害による外リンパ遊離アミノ酸の変動をモルモットの前下小脳動脈とその分枝の閉塞により分析した。その結果外リンパ液中の酸性アミノ酸AspやGluが上昇することがわかった。またこれまで本施設で行った動物実験(アミノ配当体による内耳障害後の外リンパ遊離アミノ酸組成変化、外リンパ瘻後外リンパ液遊離アミノ酸組成変化)との比較を行うために現在更に多くのヒト外リンパ液を継続分析中である。高度感音難聴発症原因の解明のためには今後更にこれらの結果と臨床データとの詳細な検討を行う予定である。
結論
本研究の結果、外リンパ液採取の方法として膜迷路を残すいわゆるsoft surgery techniqueによる鼓室階開窓術式との組み合わせにより最も良い試料採取が行われることがわかった。また得られた試料を超低温で保存する限り極めて安定に保存できることがわかった。ヒト外リンパ液の生化学的分析では特にSer、Gly、Alaの濃度が高く、他のアミノ酸については脳脊髄液よりも高濃度に存在することがわかった。また採取料の少ない試料については未だ動物由来の試料であるがCapillary HPLCの併用により十分解析できることがわかった。これまで2例のヒト外リンパ液と脳脊髄液を分析した結果、これまでの本施設で行われてきた動物実験の結果に比較するには未だ十分なデータとは言い難くさらなる資料の収集と分析が必要と思われ、今後も本研究を継続してゆく予定である。

公開日・更新日

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